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判例コラム

 

第37号 参議院議員定数不均衡訴訟最高裁判決に関する考察 

~平成26年11月26日最高裁大法廷判決※1

文献番号 2014WLJCC019
高知短期大学・高知県立大学 教授
小林 直三

1.はじめに

本件は、平成25年の参議院議員普通選挙の選挙区選出議員に関する議員定数規定が憲法違反で無効であり、そのため、被上告人が選挙人である選挙区における選挙も無効であるとして提起された選挙無効確認訴訟である。
すでに最高裁は、参議院普通選挙に関して、平成24年大法廷判決※2で5.00倍の一票の較差を違憲状態だとしており、衆議院選挙に関しては平成25年大法廷判決※3で2.43倍を違憲状態だとしている。また、較差が4.77倍である本件選挙に関しても、高裁(支部も含む)で合憲判決を下したものはなかった。そうした流れのなかで、本件判決が下されたのである。

2.判例要旨

多数意見は、本件投票価値の不均衡を違憲状態にあるとしたものの、本件議員定数規定を違憲だとはせずに、被上告人の請求を棄却した。ただし、2つの補足意見と4つの反対意見が付され、反対意見のうち、3つは本件議員定数規定を違憲だとし、1つは違憲・無効だとした。
多数意見は、以下のとおりである。
まず、「憲法は……投票価値の平等を要求している」けれども、「投票の価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく」、したがって、「国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない」とした。しかし、「投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反する」とした。
そのうえで、参議院と衆議院は「同質的な選挙制度となってきており」、「衆議院については……選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと、参議院についても……投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる」とし、また、都道府県を単位とする地方選挙区に関して、「投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では……都道府県の意義や実体等をもって……選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなって」おり、「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」とした。
そして、平成24年の4増4減措置を経た後でも、「本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は」、最高裁が違憲状態だとした「平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである」とした。 ただし、国会が違憲状態を認識したのは、平成24年大法廷判決が言い渡された時点(10月17日)であり、そこから本件選挙までは約9か月に留まり、その間にも、是正の「取組は、具体的な改正案の策定にまでは至らなかったものの」、平成24年大法廷判決の「趣旨に沿った方向で進められていたものということができる」ことなどから、「本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない」とした。
なお、裁判官櫻井龍子、同金築誠志、同岡部喜代子、同山浦善樹、同山崎敏充の補足意見と、裁判官千葉勝美の補足意見は、それぞれ、投票価値の不均衡の是正措置の実現を強く求める内容のものである。
また、裁判官大橋正春、同鬼丸かおる、同木内道祥の反対意見は、それぞれ、本件議員定数規定を違憲だとしながらも無効とはしない旨の内容のものである。
それに対して、山本庸幸の反対意見は、「許容されるのは、せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり、これ以上の一票の価値の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し、違憲かつ無効であると考える」として、「その無効とされた選挙において一票の価値……が0.8を下回る選挙区から選出された議員は、全てその身分を失うものと解すべきである」としている。

3.検討

本件判決は、あらためて都道府県を選挙区の単位とする選挙制度の抜本的改革を迫り、今後、もしも国会が抜本的改革を実施しなかった場合、違憲、あるいは違憲・無効判決を下すことを示唆したものだといえる。
本件では、多数意見のほかに、2つの補足意見と4つの反対意見が付されている。これらの補足意見や反対意見では、国会が一票の較差是正の措置を講じるための相当期間の起算時の問題(平成24年大法廷判決言い渡し時点か、それとも客観的な違憲状態が生じた時点か)、一票の較差が許容される範囲の問題(原則として1対1なのか、それとも幅があるのか)、参議院の特殊性の評価に関する問題、仮に選挙無効とした場合の処理に関する問題、そして、裁判所・国会・国民の役割およびそれらの関係についての問題など、いくつかの興味深い論点が示されている。
ただし、紙幅の都合上、それらの問題は別稿に譲ることにして、本稿では、多数意見に関する他の論点について検討していきたいと思う。
まず、多数意見では、投票価値の平等は絶対的基準ではないとして、選挙制度の決定に関する国会の裁量を認め、その裁量権の行使が合理性を有する限りは違憲とはならないとしている。つまり、選挙制度の審査基準として「合理性の基準」を想定しているわけである。そのうえで、本件の4.77倍を違憲状態だとしたのであるが、しかし、本来の合理性の基準の用い方からすれば、こうした結論に至ることには違和感を覚えるところである。本件判決は、法的な判断枠組みそのものは従来のもの※4を維持しながら(そのため、合理性の基準を用いることになっている)、社会の変化などの事実認識に基づいて、4.77倍の較差を違憲状態に導いたものと考えられる。しかし、もし4.77倍を違憲状態だと判断するのであれば、やはり法的な判断枠組みそのものを変更し、もっと厳しい審査基準を採用して判断すべきであったものと思われる。
次に、本件では選挙区間の最大較差が問題とされているが、しかし、その較差を測る基数として、人口数を基にするのか有権者数を基にするのか、それとも(過去の)有効投票数を基にするのかも、本来は論争的なものである。この問題は、結局のところ国会議員の代表性の意義に関わる憲法上の問題でもあり、それに関しても、最高裁はきちんと答えるべきではなかっただろうか。
また、議員定数規定の是非に関して、そもそも、最大較差(つまり、以下でいうところの「最大最小比」指標)で議論すべきかどうかも問題となる。つまり、本件判決も含めて、「わが国において『一票の格差』が問題とされる場合、ほぼ例外なく、一定数当たりの人口が最大の選挙区と最小の選挙区の比(以下、最大最小比)が議論の対象となっている」。そして、「『一票の格差』を是正するためには、最大最小比をある一定数以下にすることが目標とされ」るが、しかし、「抜本的格差是正という目的のためには、『一票の格差』の程度をより正確に測定できる指標を使わなくてはならない」はずである。そのための指標として、たとえば、「比較的計算が容易で応用研究が多いものに、ローズモア・ハンビー指標(以下、『LH指標』)がある」とされている ※5
最高裁の判断が、単に人口の多い選挙区の議員定数を増やし、人口の少ない選挙区の議員定数を減らすようなものではなく、より抜本的な改革を望むものだとすれば、最大最小比指標で議論すべきではなかったように思われる。

4.おわりに

以上のように、本件判決には、いくつかの問題を指摘することができる。しかし、一票の較差の是正に関しては、これまで多くの学説が求めてきたところでもあり、その意味で、本件判決は、そうした学説の主張に適合するものだといえるだろう。
けれども、あえて最後に、より本質的な問題提起をしておきたいと思う。すなわち、本当に一票の較差の是正は、それほど厳格に考えなければならないものなのだろうか、という問題である。
たしかに、「通信や交通の手段が格段に発達し、全国各地の情報を速やかに入手することが極めて容易になった近年においては、少人口地域等の投票価値を重くし……議員選出を容易にする方法を採らなければ、少人口地域の情勢や声が国会に伝わらないというような事情は既に解消されている」という考えもあるだろう※6。しかし、おそらく、少人口地域に住む人たちの多くは、そのようには考えられないのではないだろうか。むしろ、通信や交通の手段が格段に発達した今日においても、都市部に住む人たちでは容易に理解できないほど、少人口地域の現状は厳しく、少人口地域に住む人たちは、その情勢や声が国会に伝わらないと感じているのではないだろうか。しかも、近年は、経済における地域間格差やTPP問題など、人口の多い都市部と人口の少ない地方との利害対立が、ますます顕在化してきている。
こうした事実を認識したとき、本当に4.77倍の較差が合理性の基準を満たすことができないのか、疑問が残るところであり、また、そもそも、一票の較差を厳格に考えることが妥当かどうかも、あらためて検討しなければならないものと思われる。

(掲載日 2014年12月1日)

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