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第128号 ローン特約に基づく売買契約の解除に伴う買主の売主に対する手付金の返還請求が認められた事例 

~東京地裁平成28年4月14日判決※1

文献番号 2018WLJCC004
法律事務所アルシエン※2
弁護士 木村俊将

1 はじめに

 よく不動産オーナーや不動産事業者から、ローン特約に関する相談を受けることがある。今回は、直近の事例ではないが、現在においても十分な留意を促しておきたい事例である、買主が売主に対してローン特約に基づき売買契約を解除して手付金の返還を求めたが当該解除の効力が争われた事案を紹介する。

2 事案の概要

 事案の概要は以下のとおりである。

  1. (1)平成26年6月10日、X(買主)は、Y(売主)から、土地及び建物を代金2億円で購入する内容の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、XはYに対して手付金1000万円を支払った。
  2. (2)本件売買契約書には、以下の条項があった。
  3. (3)Xは本件売買契約締結後、速やかにS信用金庫に対して融資の申請を行ったが、平成26年6月26日、同信用金庫から融資が否認された旨の連絡を受け、同信用金庫の担当者が作成した、融資が否認されたことが分かる書面(以下「本件回答書」という。)を受領した。
  4. (4)平成26年6月27日、X側の仲介業者がYの事務所を訪れ、Yに対して、本件売買契約を解除することを伝え、本件回答書を提示した。
  5. (5)Xは、Yに対して手付金の返還を求めたが、Yが応じなかったため訴訟を提起した。

3 判決の要旨

 裁判所は、以下のように判示して、Xの請求を認容した。

  1. (1)Xは、融資承認取得期日である平成26年6月27日までに、上記融資を否認されているから、本件売買契約17条2項に該当し、契約解除期日である同日までであれば、同項に基づいて本件売買契約を解除することができる。
  2. (2)Xは、平成26年6月27日、仲介業者を介し、Yに対し、本件売買契約を解除する旨を伝えているため、同日、本件売買契約は解除されたというべきである。
  3. (3)本件別紙特約5条2項は、買主が融資を否認された場合、融資申込先から否認を証する書類を取得し、売主に通知することを求めているが、これは、融資が否認されたとの買主の報告が真実であることを書類で確認できるようにすることによって、融資が否認されたことについて虚偽の報告がされることを防止するために設けられた規定であると解される。
     他方、本件売買契約17条2項に規定された解除の要件として、本件別紙特約5条2項の否認を証する書類を取得して売主に提示することは挙げられていないから、上記書類を取得しての提示がない限り、本件売買契約を解除することができないとは解されない。
  4. (4)以上のとおり、本件別紙特約5条2項による解除の要件が履行されていないというYの主張は理由がない。

4 本判決の意義、考察、実務上の留意点

  1. (1)Xは金融機関から融資を否認され、期限内にローン特約に基づく解除権を行使していることから、裁判所が解除を有効として手付金の返還請求を認容したことは妥当な判断である。
     本件別紙特約5条2項(以下「本件特約」という。)については、あくまで売主への虚偽報告を防止するための特約であり、ローン特約に基づく解除の要件とは解されない、という判断も実務に即した判断である。
  2. (2)本事案で気になった点は、ローン特約に基づく解除の行使方法である。Xは仲介業者を介して、しかも口頭によりYに対して解除権を行使しているが、リスクが大きい方法である。なぜなら、当該仲介業者が迅速かつ的確に対応してくれればよいものの、対応が遅れた場合には解除期限を徒過して、解除が無効となるおそれがある。その場合、金融機関からの融資は否認されているので、手付金を放棄して解除するしかなくなる(手付解除をしなければ違約となってしまう)。
      買主としては仲介業者に「解除しておいて」と言うだけではなく、必ず売主に対して内容証明郵便にて解除の意思表示を行なうべきである。筆者が受けた相談の中でも、買主側の仲介業者が、売主側の仲介業者に対して口頭(電話)で解除する旨を伝えた、というケースがあったが論外である。
      仲介業者としても、買主が個人の場合には、対応が仲介業者任せになることが多いことから、買主名で売主宛に内容証明郵便を出すように助言、サポートするとよい。
  3. (3)また、いつ融資の可否が決まるのか分からず、買主として悩むケースがある。
     そこで、解除期限の少し前(数日前)までに金融機関から融資承認を得られない場合には、解除権を行使する、と事前に決めておくとよい。本事案でいえば平成26年6月27日が解除期限なので、前日である26日には売主に内容証明郵便が届くように、例えば「24日までに融資承認が出なければ解除権を行使する」と決めておけば期限間際に慌てずに済む。
  4. (4)融資が否認された場合でも金融機関から書面が交付されないケースも多い。
      本事案では、買主が「融資申込先から否認を証する書類を取得」することを約していたが(本件特約)、安易にこのような約束をすべきではない。特約を入れるなら「融資申込先から否認を証する書類を取得するように努め、取得できた場合には売主に対して提示する」とすればよい。

5 最後に

 ローン特約をめぐるトラブルは、最悪、違約金(売買代金の10%~20%)を請求されるリスクがある点で特に注意が必要である。ケースによっては深刻なトラブルに発展することもあり、不動産事業者はもとより、弁護士・司法書士等の各種専門家の適切なサポートが必要な場面である。


(掲載日 2018年3月5日)

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