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判例コラム
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第152号 危険運転と黙示の共謀共同正犯 

~最二小決平成30年10月23日 危険運転致死傷、道路交通法違反被告事件※1

文献番号 2018WLJCC028
日本大学大学院法務研究科 教授
前田 雅英

Ⅰ 判例のポイント

 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条5号の危険運転致死傷罪の共謀共同正犯の成否が争われた事例である。相手が本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思であることを認識しながら、相手の運転行為にも触発され、速度を競うように高速度のまま本件交差点を通過する意図で赤色信号を殊更に無視する意思を強め合い、高速度で一体となって自車を本件交差点に進入させた以上、「赤色信号を殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する意思」を暗黙に相通じたといえ、共同して危険運転行為を行ったものといえると判示した。

Ⅱ 事実の概要

  1. 1 被告人Xは、平成27年6月6日午後10時34分頃、北海道S市内の片側2車線道路において、第1車線を進行するA運転の普通乗用自動車(以下「A車」という。)のすぐ後方の第2車線を、普通貨物自動車(以下「X車」という。)を運転して追走し、信号機により交通整理が行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を2台で直進するに当たり、互いの自動車の速度を競うように高速度で走行するため、本件交差点に設置された対面信号機(以下「本件信号機」という。)の表示を意に介することなく、本件信号機が赤色を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え、Aと共謀の上、本件信号機が約32秒前から赤色を表示していたのに、いずれもこれを殊更に無視し、Aが、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約111kmで本件交差点内にA車を進入させ、その直後に、Xが、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速100kmを超える速度で本件交差点内にX車を進入させたことにより、左方道路から信号に従い進行してきたB運転の普通貨物自動車(C、D、E及びF同乗)にAがA車を衝突させて、C及びDを車外に放出させて路上に転倒させた上、XがX車でDをれき跨し、そのまま車底部で引きずるなどし、よって、B、C、D及びEを死亡させ、Fに加療期間不明のびまん性軸索損傷及び頭蓋底骨折等の傷害を負わせた。
  2. 2 原判決は、X及びAが、いずれも、本件信号機の赤色表示を確定的に認識し、又はそもそも信号機による交通規制に従うつもりがなくその赤色表示を意に介することなく、自車を本件交差点に進入させたものとして、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「法」という。)2条5号にいう赤色信号を「殊更に無視し」たことが推認できるとした上、X及びAは、本件交差点に至るに先立ち、赤色信号を殊更に無視する意思で両車が本件交差点に進入することを相互に認識し合い、そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた上、各自が高速度による走行を継続して本件交差点に進入し、上記危険運転の実行行為に及んだことが、優に肯認できるとして、A車との衝突のみによって生じたB、C、E及びFに対する死傷結果を含む危険運転致死傷罪の共同正犯の犯罪事実を認定した第1審判決を是認した。
     これに対し、弁護側は、本件のような事案においては、明示的な意思の連絡がない限り、危険運転致死傷罪の共謀は認められないというべきであり、原判決は刑法60条の解釈を誤っているなどとして上告した。

Ⅲ 判旨

 最高裁は上告を棄却し、職権で、危険運転致死傷罪の共同正犯の成否について判断し、以下のように判示した。
 「原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば、XとAは、本件交差点の2km以上手前の交差点において、赤色信号に従い停止した第三者運転の自動車の後ろにそれぞれ自車を停止させた後、信号表示が青色に変わると、共に自車を急激に加速させ、強引な車線変更により前記先行車両を追い越し、制限時速60kmの道路を時速約130km以上の高速度で連なって走行し続けた末、本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思で時速100kmを上回る高速度でA車、X車の順に連続して本件交差点に進入させ、…事故に至ったものと認められる。
 上記の行為態様に照らせば、XとAは、互いに、相手が本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思であることを認識しながら、相手の運転行為にも触発され、速度を競うように高速度のまま本件交差点を通過する意図の下に赤色信号を殊更に無視する意思を強め合い、時速100kmを上回る高速度で一体となって自車を本件交差点に進入させたといえる。
 以上の事実関係によれば、XとAは、赤色信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する意思を暗黙に相通じた上、共同して危険運転行為を行ったものといえるから、Xには、A車による死傷の結果も含め、法2条5号の危険運転致死傷罪の共同正犯が成立するというべきである。」

Ⅳ コメント

  1. 1 現在、「実行行為の一部に関与しなければ共同正犯は成立し得ない」とする見解はほとんど見られなくなり、共謀共同正犯の存在は広く認められている。そして、共謀共同正犯と実行共同正犯の区別の意味は、薄れてきている。本件は、死傷結果を導いた事故を直接惹起していないXに死傷結果の全てを帰責し得るかが問題となっているので、共謀共同正犯と考えたのだと思われるが、XとAがともに、「危険運転行為」は行っており、あえて共謀共同正犯と類型化する必要は無いともいえる。両者に意思の連絡があるかが争点なのである。ただ、共同正犯の最も重要な要件である意思の連絡は、共謀と連続的なものとして解釈されている。共謀は、単なる意思の連絡又は共同犯行の認識の存在を前提に、それ以上のものが要求されているともいえるが、質的に異なるものとは解されていない(前田雅英 編集代表『条解刑法〔第3版〕』(弘文堂、2013年)220頁)。実質的には、両者は重なるといってよい。
  2. 2 共同正犯、とりわけ共謀共同正犯は、通常は、犯罪の確定的認識を前提に強い主観的結びつきを根拠として共同正犯性を認める。しかし、確定的な認識は必須ではない。廃棄物の処理を申し入れてきた乙が、不法投棄することを確定的には認識しなかったものの、その可能性を強く認識しながら、それでもやむを得ないと考え、廃棄物の処理を委託した甲らは、不法投棄につき未必の故意による共謀共同正犯の責任を負う(最決平19・11・14刑集61巻8号757頁・WestlawJapan文献番号2007WLJPCA11149004)。
  3. 3 共謀は、黙示的にもなされ得る。最決平15・5・1(刑集57巻5号507頁・WestlawJapan文献番号2003WLJPCA05010001)は、暴力団組長のボディーガードが自発的に警護のため本件けん銃等を所持していることを確定的に認識しながら、それを当然のこととして受け入れて認容し、ボディーガードとの間に黙示的に意思の連絡があったといえるし、実質的には、組長が本件けん銃等を所持させていたと評し得るとして、被告人にはけん銃等の所持について、共謀共同正犯が成立するとした(さらに、最判平17・11・29裁判集刑288号543頁・WestlawJapan文献番号2005WLJPCA11299009、最判平21・10・19判タ1311号82頁・WestlawJapan文献番号2009WLJPCA10197001参照)。ただそこでは、強い組織的結びつきや、組織内の上下関係が前提となっている。
  4. 4 本件では、XA間の明示の共謀は認定されていない。ただ、原判決は、本件信号機の赤色表示を確定的に認識し、赤色信号を「殊更に無視し」たことが推認できるX及びAが、本件交差点に至る前に、赤色信号を殊更に無視する意思で両車が本件交差点に進入することを相互に認識し合い、そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた上、各自が高速度による走行を継続して本件交差点に進入し、上記危険運転の実行行為に及んだとして、A車との衝突のみによって生じた全ての死傷結果を含む危険運転致死傷罪の共同正犯の犯罪事実をXにも帰責し得るとした。
  5. 5 「そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた」という判示に関し、星周一郎教授は「相互に相手の暴走行為を認識しつつ、相当程度の距離にわたって高速走行を継続していた」という事実のみでは、Xの共謀共同正犯を基礎づける心理的因果性を認めることは困難で、「相手が赤色信号を殊更無視して走行を継続するだろうから、自らも同様の走行を継続するという意思が相互に形成され、それに基づき、互いの意思決定がさらに強化されつつ、本件走行がなされたという事情」が重要で、原判決も「そのような事情」を黙示の共謀を認められる根拠として考えていると評釈された(星周一郎「自動車運転者2名に赤色信号の殊更な無視による危険運転致死傷罪の共同正犯が成立するとされた事例」ジュリ臨増 1518号167頁(平29重判解))。
  6. 6 そして、最高裁は、「XとAは、互いに、相手が本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思であることを認識しながら」、相手の運転行為にも触発され、「高速度のまま交差点を通過する意図の下に赤色信号を殊更に無視する意思を強め合ったので、共同して危険運転行為を行ったものといえると判示したのである。
  7. 7 本決定の意義は「暗黙に相通じて共謀を遂げた」を、「殊更に無視する意思を強め合った」という形で展開した点にある。「相手の犯意を強める」のは幇助に過ぎないが、一緒に居酒屋で飲んでいて、飲み直すために移動中の事件であり、両者がともに危険行為を行っている本件のような場合は、共同正犯なのである。

(掲載日 2018年11月14日)

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