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判例コラム
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第178号 「第三のビール」をめぐる課税訴訟 

~東京地裁平成31年2月6日判決※1

文献番号 2019WLJCC023
明治学院大学 教授
西山 由美

1.はじめに

 本件で問題となった原告会社のいわゆる第三のビール(ただし、原告会社などビール製造各社は「新ジャンル」と呼んでいる。以下、「本件製品」という。)は、「糖質やプリン体がゼロ」をうたって平成25年6月に発売された。通常のビールの税率が1キロリットルにつき22万円、発泡酒の税率が同17万8,125円であるのに対して、第三のビールの税率は同8万円であることから、この新製品は低価格に健康志向の付加価値を付けたものとして注目された※2
 しかしながら、翌年1月に課税当局が同社に対し、この製品の製造方法を確認するための情報提供を求めたことをきっかけとして、同社は、これが通常のビールに該当するものとしたうえで、当初の税額との差額約115億円(延滞税を含めて約116億円)を納付した。
 本件訴訟は、同社がその後に「本件製品は第三のビールに当たる」として行った更正の請求(上記差額税額分の減額更正処分の請求)に対し、課税当局から更正の理由なしとの処分がなされたため、同社がその処分取消しを求めたものである。
 同社は、企業秘密を理由に訴訟における証拠の非開示を求め、裁判所がこれを認めたため、裁判所の判断の根拠となった詳細な製造工程やデータなどは公刊された判決文においてマスキングされている。したがって本コラムは、伏されたデータや製法については不知のまま執筆せざるをえない。しかしながら、本件関連の新聞報道やビールへの課税に関するデータ等にもとづき、日本のビールへの課税問題を考えていく。
 なお原告会社は、本判決を不服として東京高等裁判所に控訴した※3

2.事実の概要と争点

 東京に本社を置くX社(原告)は、酒類製造場として全国に5工場を有しており、平成25年から同26年にかけて、本件製品を製造・発売した。
 X社は、各工場を管轄する各税務署に提出した平成25年事業年度の納税申告書において、本件製品を「その他の発泡性酒類」とし、その税率として「1キロリットルにつき8万円」(酒税法23条2項3号)を適用した。しかしながらその後、国税庁課税部酒税課からX社に対する本件製品の製造方法に関する情報提供の要請があり、X社はこの要請に応じたものの、本件製品の適用税率区分について同課の理解を得ることができなかった。そこでX社は、本件製品を通常のビールとし、その税率を「1キロリットルにつき22万円」(同法23条1項1号)として修正申告を行った。
 X社の平成26年事業年度の納税申告書においても、本件製品の適用税率は1キロリットルにつき22万円とされていた。しかしながらその後にX社は、本件製品の適用税率は1キロリットルにつき8万円であるとして、各税務署長に対して更正の請求を行ったが、各税務署長より更正すべき理由がない旨の各処分を受けたことから、X社はこれら処分の取消しを求めて本訴を提起した。
 本件製品の製法については、公刊された裁判資料においてマスキングされていない部分の記述によれば、概ね以下のとおりである。X社はまず、本件製品のベースとなる発泡酒(「本件製品ベース発泡酒」と呼称されているもの)を製造し、次にそれにスピリッツを加えて本件製品を製造するものであった。発泡酒にスピリッツを加えたものは「その他の発泡性酒類」とされることから(酒税法23条2項2号ロ)、X社は本件製品がこれに該当すると考えた。他方、上記各処分の通知書記載の付記理由によれば、「その他の発泡性酒類」に該当するためには、本件製品のベースとなる発泡酒は「麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもの」でなければならないところ(酒税法施行令20条2項)、本件製品にはその発酵の事実が確認できなかったため、「その他の発泡性酒類」には該当しないというものであった。
 本件の争点※4は、酒税法施行令20条2項の「発酵」の意義(争点①)、および本件製品が酒税法23条2項3号ロの発泡酒にスピリッツを加えた「その他の発泡性酒類」に該当するかどうかである(争点②)。

3.判決

争点①について
 「酒税法3条18号は、発泡酒を定義して、麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有するものと定め、製造方法による定義はしていないため、酒税法上の発泡酒には、発酵以外の方法により製造されるものも含まれると解されるところ、酒税法施行令20条2項が、酒税法23条2項3号ロに規定する政令で定める発泡酒を、麦芽及びホップを原料の一部として『発酵させた』ものと定めていることからすれば、酒税法施行令20条2項に定める発泡酒は、発泡酒のうち特に発酵により製造されたものをいうと解される。そして、上記の酒税法上の前提からすれば、発酵により製造された発泡酒であるといえるためには、・・・当該発泡酒の全ての原料が投入された後のものを発酵させたものであるといえることが必要と解される。」
争点②について
 「本件製品ベース発泡酒の全ての原料が投入された後のものについて、アルコール発酵があったとは認められないから、本件製品ベース発泡酒は、酒税法施行令20条2項に定める発泡酒には該当しないというべきである。・・・よって、本件製品は、酒税法23条2項3号ロの『発泡酒(政令で定めるものに限る。)にスピリッツ(政令で定めるものに限る。)を加えたもの』に該当せず、同号の『その他の発泡性酒類』に該当しないから、これと同旨の本件各処分の認定判断に違法はない。」

4.検討

4.1 ビールへの課税の沿革と業界の対応
 本判決の検討にあたっては、酒税法の歴史※5、とくにビールへの課税の沿革を概観し、その課税制度に対する業界の対応を理解することが重要と思われる。
 日本の酒税法は、14世紀室町時代の酒造業者に課した営業免許税的な賦課に淵源があるとされる。現在の酒税法の原型といえる、全国画一の法律が制定されたのが明治4年であり、その前年に国内で初めて製造されたビールは、高級品として取り扱われた。明治期には租税収入に占める酒税の税収の重要性は大きく、とくに明治32年には全租税収入の中で酒税の税収が最大であった。
 現在の酒税法が制定されたのは昭和15年である。戦後の昭和30年代には、冷蔵庫が一般家庭に普及したことにより、ビールが高級酒から身近な酒類となり、また、昭和43年度税制改革によってビールの税率が10%引き上げられたことにより、酒税におけるビールの税収の重要性は増してきた。
 平成元年の消費税導入に伴い、従価課税の対象となっていたウイスキーなどの高級酒が減税対象となったのに対して、ビールへの課税は現状維持とされた。
 平成15年法改正で発泡性酒類のうちの発泡酒の税率が引き上げられたことから、それまでのビール製造各社による発泡酒開発は、「その他の発泡性酒類」(第三のビール)の開発にも向かうことになり、翌年にはX社が他社に先んじ、「D」の商品名で第三のビールを発売した。本件が提訴された時点での発泡性酒類の税率は、1缶350ミリリットルで、ビールが77円、発泡酒は54円、そして第三のビールは28円であった。
 ビールへの課税は、所得税法等の一部を改正する等の法律(平成29年法律第4号)により、令和8年10月からビール、発泡酒および第三のビールの税率が同一とされる(1キロリットルにつき15万5,000円)ことになっており、平成29年4月より段階的な変更が行われることになった※6
 第三のビールを他社に先駆けて発売したX社は、本件製品についても低価格とともに、「プリン体と糖質をゼロにした世界初の製法」という付加価値も前面に出して販売促進を行っていたが、平成25年6月の発売から1年後にはその販売をいったん終了したうえで、ビールの税額との差額と延滞税の合計約116億円を追加納付した。この時点でX社がこのような対応をした背景には、課税当局との紛争回避のほか、検証結果次第では第三のビールに該当しない場合の顧客や取引先への影響を懸念したからであったとされる※7
4.2 本判決の論理
 本判決は、「本件製品ベース発泡酒の全ての原料が投入された後のものについて、アルコール発酵があったとは認められない」という結論を導くために、その他の発泡性酒類(第三のビール)の税率を定める酒税法23条2項3号ロの「発泡酒」に係る同法施行令20条2項の「麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもの」を、「本件製品ベース発泡酒の全ての原料が投入された後のものについてアルコール発酵させたもの」と解釈した。そして、発酵が終わる前に本件製品ベース発泡酒の原料が投入されていれば第三のビールに該当するという原告の主張を斥けている。
 本判決はこのような解釈を裏付けるために、酒類に水以外の物品を混和した場合に、混和後のものが酒類であるときには、新たな種類を製造したものとみなす規定(同法43条1項)を引用し、発酵により製造された発泡酒であるというためには、全ての原料が投入された後に発酵させたものでなければならないとする。
 しかしながら、酒税法施行令20条2項の「麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもの」という文言から、原料の投入が発酵前か発酵途中かは明確に示されていない。さらに、同項の解釈の参考としている酒税法43条は、酒税法後半部分の「納税の担保」の章に規定されたみなし規定である。当該施行令の規定が適用税率決定にとって重要な規定であるにもかかわらず、酒税法43条のみなし規定の参照なくしては解釈できないとすれば、課税要件明確主義に反する疑いがある。
4.3 データでみるビールへの課税
 最新の国税庁統計によれば、平成29年度発生分の酒税の税収は1兆2,303億6,700万円で、全租税収入の1.87パーセントを占める。このうちビールおよび発泡酒の税収は、6,632億2,700万円で酒税税収の53.92パーセントを占める※8。この数字をみれば、酒税におけるビールの重要性は明らかである。
 一方で、ビール消費量については、2006年(平成18年)には消費量が629万8,000キロリットルであったところ、毎年減少傾向にあり、2017年(平成29年)には511万6,000キロリットルとなり、2006年(平成18年)比で81パーセントとなっている※9。ビール消費量の減少は、飲酒習慣の変化や酒類選択の多様化など、税負担以外の理由が大きいと考えられるが、ビール会社は消費量減少という危機感の中でさまざまな商品の開発を進めている。商品開発において価格設定は最重要要素のひとつであり、税率の差異は価格決定に大きな影響を及ぼす。
 さらに、日本のビールへの課税をOECD加盟国との比較でみてみると※10、アルコール度数による課税方式を採用する国と100リットル当たりの課税方式を採用する国があるため、加盟国のビール税負担を単純に比較できないが、OECDの調査表(2018年)によれば、加盟国の中で税負担が高いのはイスラエル(アルコール度数基準換算で64.17米ドル)、フィンランド(同、39.94米ドル)、アイルランド(同、25.34米ドル)、英国(同、23.63米ドル)である。同表には日本の数値が記されていないが、44米ドル前後と試算されるため、税負担はかなり高いといえる。
 反対に税負担が低い国は、ドイツ(同2.21米ドル)、ルクセンブルク(同2.22米ドル)、トルコ(同2.37米ドル)である。このうちドイツでは、ビール税は州税であり(ドイツ憲法106条2項5号)※11、2018年の税収は6億5500万ユーロ(約773億円)である※12
4.4 ビールへの課税目的と負担水準
 ビールを含む酒類への課税目的は、酒類という消費財の消費に着目して課税を行うというものであるが、消費税に加重して酒税が課されることは、「致酔性を有する嗜好品」※13 としての性質から正当化されよう。さらに、財政目的の有無については、租税収入の1.87パーセントの税収をどのように評価するか次第であるが、所得税収もしのいでいた時代に比べれば財政上の重要性は低下しているものの、1兆円超の税収、とくにその半分以上を占めるビールの税収は、現在においてもなお重要な財源といえる。国としてもこの財政目的ゆえに、発泡酒の売り上げが伸びればその税率を上げ、第三のビールが出現すれば厳しく規制を行ってきたのであろう。
 ビール会社の本来の製品開発は、より良いもの、消費者により好まれるものを目指すべきところ、酒税法に税率差があるゆえに、これを利用したより安い製品の開発に企業の多くの資源が投入される状況になっている。この種の製品開発は、「課税逃れ」という国の疑念と「企業努力の阻害」という企業の不満の対立構造を生む。この対立関係が訴訟に持ち込まれるに至っては、国と企業双方に追加的コストを負わせることになる。このように企業の経済活動に歪みを生じさせる税制は、消費課税における経済活動の中立性原則に反するものである。
 これから7年後にはビール、発泡酒および第三のビールが同一の税率に服することになるが、国際的にみて高負担とされる税率についても再検討の余地があろう。税率を引き下げるという選択がある一方、アルコール中毒対策として高税率を維持する北欧の国々のような選択もありうる。


(掲載日 2019年8月26日)

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