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判例コラム

 

第179号 マンション1階の店舗の区分所有者らに認められている店舗前空地の専用使用権を消滅させる旨の管理規約等の変更および専用使用権者の負担する管理費等の額を減額することを内容とする決議は、建物の区分所有等に関する法律31条1項後段に反し無効であるとした事案 

~前橋地裁高崎支部平成30年12月21日判決※1

文献番号 2019WLJCC024
京都女子大学 教授
岡田 愛

Ⅰ はじめに

 本件は、マンション1階の店舗用区画の区分所有者であるXら3名が、店舗前空地の専用使用権を消滅させる旨の管理規約等の変更およびXらの負担する管理費等の額を減額変更する旨の決議について、Xらの承諾を得ておらず、建物の区分所有等に関する法律(以下、「法」という)31条1条後段に反しているとして、同マンションの管理組合法人Yを相手に無効確認を求めた事案である。
 争点は、法31条1項後段の「特別の影響」を及ぼす場合に該当するかであるが、本判決では、先例である最高裁判例で示された、一部の区分所有者の不利益が受忍限度を超えたか否かという基準を引用したうえで、さらに、専用使用権を消滅させる際の「特別の影響」の有無について、より詳細な検討事項を示した。
 本件は、「特別の影響」の判断について、先例の枠組みを維持しつつ、専用使用権を消滅させる規約変更の場面における具体的な検討事項を示した点に意義があるといえる。

Ⅱ 事実の概要と判決要旨

1 事実の概要
 本件マンションは昭和50年に分譲され、その際の管理規約では、「共有の敷地のうち特定の箇所(1階店舗の前面空地部分は店舗専用使用とする)…については、別に定める規定により一部の区分所有者に専用させることができる。」と定められている。本件の対象となっている建物の南端から敷地南端の道路と接するまでの敷地部分(以下、「店舗前庭部分」という)は、分譲から遅くとも9年後には駐車場として使用されており、Xらは、平成14年から20年の間にそれぞれ前主より店舗部分を購入し、店舗前庭部分を自己または顧客の駐車場として使用していた。なお、専用使用料等について具体的な金額の定めはなかったが、店舗部分は、新築当時およびその後の譲渡価格が住宅部分よりも割高であり、また、住居区分所有者より管理費および修繕積立金が約25%高く設定されていた。
 本件提訴以前の平成25年に、Yは、Xらの専用使用権のおよぶ店舗前庭部分を一部制限するとともに、駐車場として使用することや看板等の設置を禁止することを含む規約等の変更を決議したが、Xらを含む店舗区分所有者が訴訟を提起し、決議は無効と判断された。しかし平成28年に、Yは、今度は店舗前庭部分の専用使用権をすべて廃止して、当該部分を特定の区分所有者に駐車場使用契約により使用させ、その使用料を支払うこと、および店舗区分所有者が店舗前庭部分を駐車場として使用することを禁止する旨の管理規約と使用細則の変更決議(第一決議)、並びに、店舗区分所有者の負担する管理費等を住居区分所有者と同一にする旨の決議(第二決議)を行った。そこで、Xらは当該決議の無効を求めて訴えを提起した。

2 判決要旨
 本件の争点は、第一決議が法31条1項後段の「特別の影響」を及ぼすものに該当するか否かである。その判断枠組みとして、「「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される」という先例の基準を示した。そのうえで、専用使用権を消滅させる旨の管理規約等の変更が受忍限度を超えるか否かの判断基準について、より具体的に「①権利の性質及び内容、②専用使用権者にとっての当該使用権の必要の程度、③当該専用使用権を消滅させることについての区分所有者全体の必要性の程度、④専用使用権の取得及びそれに基づく使用についての経済的負担の有無及びその額、⑤専用使用権者が当該専用使用権に係る専用使用部分を使用してきた期間等の事情を総合して判断すべき」とした。
 そして、①について、「区分所有者間の団体的な規制に服する性質のものである」との解釈を示し、②および③については、分譲時以降も駐車場としての使用を制限することはなく、また、前訴で駐車場としての使用が認められたこと等をふまえて店舗区分所有者に専用使用権の必要性があるとし、他方で、区分所有者全体の必要性の程度は高くないとした。④については、店舗区画の分譲時価格や管理費等が住居区画より割高であることから一定の経済的負担をしたと評価し、⑤も長年にわたり駐車場として使用してきたことから、専用使用権を消滅させる旨の第一決議は受忍限度を超えるとし、無効とした。
 また、第二決議は、第一決議と一体であることを理由に、第一決議と消長を合わせ無効と判断した。

Ⅲ 検討

1 法31条1項後段「特別の影響」について
 法31条1項後段では、規約の変更等が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その承諾が必要である旨定めている。これは、多数決の弊害を除去し、規約の設定等によって、一般の区分所有者が受ける利益とこれにより一部の区分所有者が影響を受ける不利益との調和を図る趣旨であるとされる。国土交通省の定めるマンション標準管理規約(単棟型)(平成29年最終改正)47条7項においても、両者の利益のバランスを図るための条項が設けられ、この趣旨が反映されている。
 では、いかなる場合に「特別の影響」があるかについて、判旨ではまず、受忍すべき限度を超えるか否かという基準を示している。これは、最判平成10年10月30日〔シャルマンコーポ博多事件〕(民集52巻7号1604頁 WestLawJapan文献番号 1998WLJPCA10300002)、最判平成10年11月20日〔高島平マンション事件〕(判タ991号121頁WestLawJapan文献番号 1998WLJPCA11200001)、相次ぐ二つの最高裁判例で示されたものである。前者は、専用使用権の使用料増額をめぐる争いであったが、後者は、1階店舗のための駐車場専用使用権を消滅させる旨の規約変更の有効性が争われた事案である。変更内容は異なるが、後者の事案でも、受忍すべき限度を超えるか否かで判断するという前者の基準を引用し判断した。このように、二つの最高裁判例が同一の基準に拠ったことから、現在この基準が先例として効力を有しているといえる。また、学説上も、「区分所有者全員が受ける利益と対比して、一部の区分所有者の受ける不利益が我慢すべき限度を超えているかどうかという観点から決することになる」という見解が示されている(法務省民事局参事官室編『新しいマンション法』196頁(1983年))。
 本件ではさらに、専用使用権を消滅させる場合における、受忍すべき限度を超えるか否かの判断要素として、前述の5つの事項が示された。
 まず、①権利の性質及び内容については、判旨では、「排他性のある物権的な権利ではなく、区分所有間の団体的な規制に服する性質のものである」と述べており、専用使用権の法的性質について共有物の管理に関する合意であると解したと考えられる。駐車場の専用使用権の法的性質は、規約変更の可否や譲渡可能性等に密接に関係するが、(a)物権的利用権説(地役権や地上権類似の用益物権と解する見解)、(b)債権的利用権説(賃貸借や使用貸借などの契約に基づく債権的利用権と解する見解)、(c)共有物の管理に関する合意説、に分類されている。もっとも、(a)物権的利用と解する立場は、物権法定主義に反することや公示手段がないことなどの問題が指摘されており、現在はあまり支持されていない。また、(b)債権的利用権と解した場合、契約の相手方は最終的には管理組合になると解されているものの、契約内容を一方当事者(管理組合)の意思決定のみで一方的に変更することが認められるのかという問題がある。このため現在は、(c)敷地の共有者間における共有物の利用方法・管理に関する合意であり、団体的意思決定の拘束を受けるとする、共有物の管理に関する合意説が有力である。
 この立場によれば、共有物である敷地の専用使用権は団体的規制の下にあるため、消滅させる旨の規約変更等も可能となり、他方で不利益を被る区分所有者との調整は法31条1項で図ることになる。したがって、法31条1項の「特別の影響」について、双方の利益の調整という法31条1項の趣旨に照らし、各事案に即してより詳細に検討する必要性が生じる。
 続けて、本判決は、②専用使用権者にとっての当該使用権の必要の程度、③当該専用使用権を消滅させることについての区分所有者全体の必要性の程度を挙げているが、専用使用権者と一般の区分所有者との利益の調整を図るという法31条1項の趣旨に鑑み、双方の必要性の比較は最も重要な検討事項であると考えられる。
 さらに、④専用使用権の取得及びそれに基づく使用についての経済的負担の有無及びその額、⑤専用使用権者が当該専用使用権に係る専用使用部分を使用してきた期間等の事情を総合して判断すべき、という検討事項が示されているが、④は、一般の区分所有者と専用使用権者との利益のバランスは、実際には金銭的価値で図ることになる以上、専用使用に対する経済的な負担の有無や程度は重要であり、また、⑤は、専用使用権者の期待を保護するだけではなく、専用使用権に対する一般の区分所有者と専用使用権者との合意の有無を判断するに際して、期間を含む諸事情からどのような合意形成がなされていたかの検討が必要であろう。
 なお、この具体的な検討事項については、前掲最判平成10年11月20日の解説において、ほぼ同じ内容が挙げられている(判タ991号121頁)。専用使用権を消滅させる旨の規約変更等につき、今後、不利益を被る区分所有者の受忍限度を超えるかという一般的基準の枠組みの中で、本件で示された事項が重要な判断要素となると考えられる。
 また、Xらの管理費を減額する旨の規約等の変更について、本来であればXらに不利益のない変更であるが、この変更はXらの専用使用権を消滅させることと一体となっていることを理由に無効とされた。減額されて他の区分所有者と同じ経済的負担となれば、上記の項目の④の判断に影響を及ぼす。Xらにとって、減額変更はむしろ専用使用権の消滅に結び付く不利益な変更となるため、第一決議、第二決議を一体として判断し、減額の規約等の変更も無効とした判断は妥当であったといえる。

2 その他の論点について
 Xらは、分譲時からの区分所有者ではなく、店舗部分を買い受けた特定承継人であり、専有部分の購入者が専用使用権を承継するのかが問題となる。駐車場の専用使用権は、区分所有者がその所有する専有部分を譲渡した場合は消滅するのが一般的である(前掲標準管理規約15条3項)。もっとも、バルコニーや1階部分の専用庭などのように、排他的な使用が想定されている場合は、専有部分とともにするその専用使用権の譲渡、賃貸が認められると解される(前掲標準管理規約14条3項参照)。本件の専用使用権は、規約で駐車場の専用使用権として規定されていたわけではなく、結果として店舗区分所有者が駐車場として利用するに至った事案であった。したがって、本件の専用使用権は、先例で検討されてきた、いわゆる駐車場専用使用権というよりは、店舗前面の空地の専用使用権としてとらえるべきであり、1階部分の専用庭の専用使用権に近いと考えられる。判旨では、Xらが専用使用権を有していることを前提に判断しているが、店舗区分所有権と一体として店舗前空地の専用使用権も承継するという判断があったといえ、これは店舗前空地の専用使用権の特徴を勘案した結果であろう。
 なお、判旨では、Xらから専用使用権の使用料を適切に徴収することでYの収支の改善を図ることができる旨を指摘している。これは反対から読めば、Xらへの使用料の徴収を適切な額であれば認めることを示唆したといえるであろう。前掲最判平成10年11月20日は、無償の専用使用権が規約で定められていた事案であるが、その消滅決議については法31条1項後段の適用があるとしつつ、有償化決議については、「有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではない」と判示している。この基準は、同じく前掲最判平成10年10月30日の事案で示されたものであり、最高裁は、専用使用権の使用料負担とその額については、それが社会通念上相当な額である限り、法31条1項後段の適用はない(相当な額の使用料負担は専用使用権者の承諾なしに規約で定めることができる)として、使用料で区分所有者間の利益調整をすることを想定していると考えられる。本件事案は、Xらの専用使用権の使用料は争点ではなかったが、今後専用使用料の増額変更等がなされるに際しては、上記の基準が適用されると考えられる。


(掲載日 2019年9月9日)

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