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判例コラム

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判例コラム

 

第209号 いわゆる「ふるさと納税」における不指定取消訴訟最高裁判決 

~最高裁第三小法廷令和2年6月30日判決※1

文献番号 2020WLJCC021
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三

1.はじめに

 本件は、いわゆる「ふるさと納税」として特例控除になる寄附金について、総務大臣が指定するものに限られるとする制度が導入されたことを踏まえて、泉佐野市について、総務大臣が当該指定をしない旨の決定をしたところ、当該決定は違法な国の関与だとして、地方自治法251条の5第1項に基づき、当該決定の取消しを求めた事案である。
 本件事案は、社会一般にも注目されてきたものであり、また、原審である大阪高裁判決※2では原告(泉佐野市長)が敗訴したが、本件最高裁では逆転勝訴となったことでも注目すべき判決だといえるだろう。
 なお、本件最高裁判決は、5名の判事の全員一致によるものであるが、宮崎裕子裁判官と林景一裁判官の補足意見が付されている。

2.判例要旨

① 法廷意見
 まず、寄附金の税額控除の基準に関する「地方税法37条の2第2項は、指定の基準のうち『都道府県等による第1号寄附金※3の募集の適正な実施に係る基準』の策定を総務大臣に委ねており、同大臣は、この委任に基づいて、募集適正基準の一つとして本件告示2条3号※4を定めたものであ」り、「また、地方自治法245条の2は、普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与(同法245条)を受け、又は要することとされることはないとする関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるものであるから、関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要する」とし、「本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しない」とした。
 そして、「本件告示2条3号……は」、ふるさと納税として特例控除になる寄附金を総務大臣が指定するものに限られるとする「本件指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により寄附金の募集を行い、著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象となる寄附金の寄附先としての適格性を欠くものとして、指定を受けられないこととする趣旨に出たものと解される。言い換えれば、そのような地方団体については」、本件指定制度の導入を内容とする「本件改正規定の施行前における募集実績自体を理由に、指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず、指定を受けられないこととするものといえる」とし、「そして、本件告示2条3号にいう……趣旨に反する方法とは……地方団体が本件改正規定の施行前における返礼品の提供の態様を理由に指定の対象外とされる場合があることを定めるものといえる」とした。
 しかし、「本件改正規定の施行前においては、返礼品の提供について特に定める法令上の規制は存在せず、総務大臣により地方自治法245条の4第1項の技術的な助言である本件各通知が発せられていたにとどまる」ところ、「本件告示2条3号は、上記のとおり地方団体が本件改正規定の施行前における返礼品の提供の態様を理由に指定の対象外とされる場合があることを定めるものであるから、実質的には、同大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難い」とした。ただし、「そのような取扱いであっても……同号が地方税法の委任の範囲内で定められたものである場合には、直ちに地方自治法247条3項に違反するとまではいえないものの、同項の趣旨も考慮すると、本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには」、上述のように、本件指定制度の導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により寄附金の募集を行う等した地方公共団体について公平性の確保等の観点から指定を受けられないようにする「趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要するものというべきである」とした。
 そのうえで、地方税法37条の2の「募集適正基準とは、文理上、指定対象期間における寄附金の募集の態様に係る基準であって、指定対象期間において寄附金の募集を適正に実施する地方団体か否かを判定するためのものであると解するのが自然であ」り、「地方税法37条の2第2項柱書きの募集適正基準について、同項の文理上、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難であり、同法の他の規定中にも、そのように解する根拠となるべきものは存在しない」とした。また、「地方税法37条の2第2項が総務大臣に対して……募集適正基準等の内容を定めることを委ねたのは……同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であることに加え、そのような具体的な基準は状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要があ」るからであり、「本件指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象としないものとする基準を設けるか否かは、立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄である」とした。そして、本件告示2条3号の基準は、本件指定制度導入前に「ふるさと納税」の趣旨に反した方法で多額の寄附金を受領した「地方団体について、本件指定制度の下では、新たに定められた基準に従って寄附金の募集を行うか否かにかかわらず、一律に指定を受けられないこととするものであって、指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるものであ」り、「そのような基準は、総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とはいい難いし、状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄でもないから、その策定についてまで上記の委任の趣旨が妥当するとはいえず、地方税法が、総務大臣に対し、同大臣限りでそのような基準を定めることを委ねたものと当然に解することはできないというべきである」とした。
 そのため、「本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである」とした。
 また、「本件改正規定の施行前後では地方団体の行動を評価する前提を異にしており、同施行前における泉佐野市の返礼品の提供の態様をもって、同施行後においても同市が同様の態様により返礼品等の提供を継続するものと推認することはできない」こと等から、「本件不指定当時の事情の下では、本件指定申出につき、同市が法定返礼品基準に適合するとは認められないと判断することはできないというべきである」とした。
 以上のことから、本件判決は、原判決を破棄し、上告人(泉佐野市長)の請求(本件不指定の取消し)を認容した。
&emspなお、本件判決には、宮崎裕子裁判官と林景一裁判官の補足意見が付されている。

② 宮崎裕子裁判官の補足意見
 宮崎裕子裁判官の補足意見は、「もし地方団体が受け取るものが税なのであれば、地方団体がその対価やお礼を納税者に渡す(返礼品を提供する)などということは、税の概念に反しており、それを適法とする根拠が法律に定められていない限り、税の執行機関の行為としては違法のそしりを免れないことは明らかであろう。他方で、地方団体が受け取るものは寄附金であるとなれば、地方団体が寄附者に対して返礼品を提供したとしても、返礼品は、提供を受けた個人の収入金額と認識すべきものにはなるが、納税の対価でも納税のお礼でもなく、直ちに違法の問題を生じさせることにはならない」としたうえで、「本件改正規定は、ふるさと納税制度の創設当初から掲げられていた、寄附金であることを前提とする制度趣旨と実質的に税であることを前提とする制度趣旨が、共にバランスよく達成されるために不可欠と考えられる返礼品の提供に係る調整の仕組みを、初めて導入したものであ」り、「今後更に改善が必要となる可能性もあるかもしれないとしても、そのような仕組みが初めて法律に定められたことに大きな意味がある」と指摘し、「逆からいえば、本件改正規定の施行前のふるさと納税制度を定める法律は、そのような調整の仕組みを欠いていたということになり、そのために、地方団体が受け取るのは寄附金であるという前提で行われていた返礼品の提供が、地方団体間の実質的な税配分の公平を損なう結果を招くことになるのではないかという問題を顕在化させることになったのである」とした。そして、「そもそも寄附金と税という異質なものが制度の前提にあることを考慮すると、上記の調整の仕組みを欠いた状態で本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為を、制度の趣旨に反するか否か、あるいは制度の趣旨をゆがめるような行為であるか否かという観点から評価することには無理があ」り、「また、本件改正規定によって同制度における寄附金の募集態様や返礼品の提供に適用される規範が新しく定められたのであるから、本件改正規定の施行前の行為が制度の趣旨に反するか否かを、本件改正規定の施行後の行為に適用されるべき規範によって評価することはできない」し、「本件改正法又は他の法令に別段の規定があればその限りではないが、そのような規定は見当たらない」として、法廷意見は、「本件改正規定の解釈(地方税法37条の2第2項による委任の範囲の解釈)として妥当であると思料する」とした。

③ 林景一裁判官の補足意
 林景一裁判官の補足意見は、「本件の経緯に鑑み、上告人の勝訴となる結論にいささか居心地の悪さを覚えたところがあり、その考え方を以下のとおり補足しておきたい」とし、「居心地の悪さの原因は、泉佐野市が、殊更に返礼品を強調する態様の寄附金の募集を、総務大臣からの再三の技術的な助言に他の地方団体がおおむね従っている中で推し進めた結果、集中的に多額の寄附金を受領していたことにある。特に、同市が本件改正法の成立後にも返礼割合を高めて募集を加速したことには、眉をひそめざるを得ない」とし、また、「ふるさと納税制度自体が……国と一部の地方団体の負担において他の地方団体への税収移転を図るものであるという、制度に内在する問題が、割り切れなさを増幅させている面もある。そして、その結果として、同市は、もはやふるさと納税制度から得られることが通常期待される水準を大きく上回る収入を得てしまっており、ある意味で制度の目的を過剰に達成してしまっているのだから、新たな制度の下で、他の地方団体と同じスタートラインに立って更なる税収移転を追求することを許されるべきではないのではないか、あるいは、少なくとも、追求することを許される必要はないのではないかという感覚を抱くことは、それほど不当なものだとは思われない。それは、被上告人が他の地方団体との公平と呼ぶ観点と同種の問題意識である」等と指摘しつつも、「しかしながら、それは、本件改正規定の施行前のふるさと納税制度においては、当不当のレベルの問題である。被上告人において、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであったといえる」等とした。そして、「たとえ結論に居心地の悪さがあったとしても、法的には法廷意見のとおりと考えざるを得ないのである」とした。

3.検討

 本件判決が設定した主要な論点は、地方税法37条の2および本件告示の解釈とそれらを前提とした法律による行政立法への委任に関するものであり、いずれの点についても、基本的に妥当な判断を行ったものと評価することができる。
 ただし、いくつか問題点も指摘できるものと思われる。
 まず、法廷意見によれば、「本件指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象としないものとする基準を設けるか否かは、立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄であ」り、したがって、「本件改正規定の施行前後では地方団体の行動を評価する前提を異にしており、同施行前における泉佐野市の返礼品の提供の態様をもって、同施行後においても同市が同様の態様により返礼品等の提供を継続するものと推認することはできない」にもかかわらず、「主として政治的、政策的観点から」法律さえ定めていれば、「指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により寄附金の募集を行い、著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象となる寄附金の寄附先としての適格性を欠くものとして、指定を受けられないこととする」ことは可能であるかのようである。しかしながら、憲法学の適正手続の観点からすれば、本件改正規定の「同施行前における泉佐野市の返礼品の提供の態様をもって、同施行後においても同市が同様の態様により返礼品等の提供を継続するものと推認すること」ができる場合を除いて、本件指定制度「の導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象としないものとする基準を設ける」ことは、立法裁量としても、その範囲を逸脱または濫用するものと評価すべきであろう。
 次に、判例の読み方において、法廷意見と補足意見との実質的な関連性をどのように理解するべきか、難しいところもあるが、少なくとも、林景一裁判官の補足意見は、司法のあり方として、いささか論争的なものだと思われる。すなわち、林裁判官の補足意見では、「上告人の勝訴となる結論にいささか居心地の悪さを覚えた」とし、泉佐野「市が本件改正法の成立後にも返礼割合を高めて募集を加速したことには、眉をひそめざるを得ない」等としたうえで、「被上告人において、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであった」としている。これは、実質的に泉佐野市の行為を(違法ではないものの)「不当」なものであったと認定しているのに等しい評価だといえる。しかしながら、本来、司法では、適法/違法の評価はできても、「当/不当」の評価は行なわないはずである※5。それにもかかわらず、(補足意見であるにしても)こうした実質的な「当/不当」の判断を行うことは、司法のあり方として、憲法学的には(違憲・違法ではないにしても)少なくとも「当/不当」の評価がわかれるように思われる。
 また、林景一裁判官は「上告人の勝訴となる結論にいささか居心地の悪さを覚えた」ようであるが、泉佐野市は、必ずしも制度の趣旨に反してきたものとは言い切れず、あえていえば(林景一裁判官の補足意見にあるように)「制度の目的を過剰に達成してしまっている」に過ぎず、それをもって、あたかも不当なことであったかのような評価は、そもそも、妥当しないのではないだろうか。
 なお、宮崎裕子裁判官の補足意見にあるように、「本件改正規定は、ふるさと納税制度の創設当初から掲げられていた、寄附金であることを前提とする制度趣旨と実質的に税であることを前提とする制度趣旨が、共にバランスよく達成されるために不可欠と考えられる返礼品の提供に係る調整の仕組みを、初めて導入したもの」という評価は妥当なものであると思われる。ただし、宮崎裁判官の補足意見の「今後更に改善が必要となる可能性もあるかもしれない」という表現に含意されていることかもしれないが、本件改正規定が「調整の仕組み」として妥当なものかどうかについては、甚だ疑問の残るところである。

4.おわりに

 宮崎裕子裁判官の補足意見が指摘するように、ふるさと納税制度は、「寄附金と税という異質なものが制度の前提にある」。そうであるならば、本件改正規定の仕組みに疑問が残るだけではなく、そもそも、調整が可能なものかどうかについて、甚だ疑問であるといえるだろう。また、林景一裁判官の補足意見が指摘するように、「ふるさと納税制度自体が……国と一部の地方団体の負担において他の地方団体への税収移転を図るものであるという、制度に内在する問題が、割り切れなさを増幅させている」ものである。
 そのようにしてみると、泉佐野市の行為や実績ではなく、そもそも、「ふるさと納税制度」そのものが、問題とされるべきなのではないだろうか。
 一人の「私人」として、ふるさと納税制度の返礼品に期待し、楽しみにすることは十分に理解し得るところである。しかし、税の公平性や制度の持続可能性にも配慮をする一人の「市民」としては、ふるさと納税制度の存廃も含めて、その制度そのものを見直し検討する時期に来ているのではないだろうか。
 本件判決は、そうした問題提起も含意したものと評価したい。


(掲載日 2020年8月17日)

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