閉じる
判例コラム
判例コラム

 

第219号 歯科医師に対してホワイトニング関連サービスのノウハウを提供する
フランチャイズ契約において、契約終了後の競業避止義務違反が問題となった例 

~東京地裁令和2年2月27日判決平30(ワ)8069号・平30(ワ)20445号損害賠償等請求事件、損害賠償請求反訴事件※1

文献番号 2020WLJCC031
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝

1.事案の概要と争点

 本件は、歯のホワイトニング、口内のアロママッサージ等のデンタルエステサービス(「ホワイトエッセンス」事業)を提供するフランチャイズ・チェーンを運営しているフランチャイズ本部(原告)が、歯科医師である元加盟店(被告)に対し、契約終了後の競業避止義務違反を理由として営業行為の差止めを求めた事件である。本件FC契約では「加盟店は、本件FC契約が終了したことに基づき、本件店舗における営業を完全に停止した後、1年間は原告の承諾なくして、直接たると間接たるとを問わず、ホワイトエッセンスと競合する事業を営んではならない。」と定められていたことから、①契約終了後1年経過した場合に競業避止義務違反を理由とする営業差止請求について訴えの利益が認められるか、②「ホワイトエッセンスと競合する事業」とは何かが問題とされた。
 本件では、営業差止請求の他に、別途原告が被告から受注した内装工事代金、競業避止義務違反を理由とする違約金、未払ロイヤルティ等の支払が請求されていたが、本稿では競業避止義務違反に関する上記①②について論じることとする。

2.「営業停止後1年間」と定められた競業避止義務違反における訴えの利益について

  1. (1) 先述したように、本件FC契約では「加盟店は、本件FC契約が終了したことに基づき、本件店舗における営業を完全に停止した後、1年間は原告の承諾なくして、直接たると間接たるとを問わず、ホワイトエッセンスと競合する事業を営んではならない。」と定められていたところ、契約終了から既に1年を経過していた。そのため、被告は、原告(本部)が提起した競業避止義務違反を理由とする営業差止訴訟には訴えの利益が認められないと主張した。
     しかし、裁判所は「本件においては、被告が同項に基づき禁止される『競合する事業』(営業)を停止せず、現在もなお行っているか否かがまさに争点となっているのであるから、原告の差止請求について、訴えの利益が消滅したとは認められない。よって、被告の上記主張は採用できない。」として被告の主張を退けた。
     訴えの利益の有無は、本案判決がなされるべき必要性と本案判決による紛争処理の実効性との関係で個別具体的に判断される(上田徹一郎『民事訴訟法』第7版(法学書院)212頁)。本件FC契約では競業避止義務の期間は「営業を完全に停止した後1年間」と定められていたため、被告が審美歯科医の営業を継続している限り「営業を完全に停止した」といえるかどうかを審理する必要はある。その意味でこの点についての裁判所の判断は妥当といえる。
  2. (2) ただ、契約終了後の競業避止義務については加盟店の営業の自由の要請が強く働くことから、加盟店にとって過度な制約であってはならず、契約終了後の競業避止義務については、①禁止される業務の範囲、②禁止される場所、③禁止される期間の3点において限定される必要がある。だとすれば、本件FC契約のように「営業を完全に停止した後1年間」という定め方では、事実上禁止期間を定めないのと同じなのではないかが問題となる。
     この点、下級審裁判では、契約終了後の時間的制限や場所的制限のない場合でも、「フランチャイズ契約における競業避止義務規定全部を過度の規制であり公序良俗に反するものとして無効と解する必要はなく、適用する場面において、それが過度の制限に当たらないかを判断すれば足りる」とされている(東京地判平14.8.30 WestlawJapan文献番号2002WLJPCA08300019)。すなわち、時間的制限のない場合でも、契約条文の文言だけで直ちに当該競業避止義務条項が無効となるのではなく、実際の適用場面が過度の制限に当たらないならば、競業避止義務規定は有効と解されている。
     本件でも、原告(本部)は、契約終了後1年以内に営業差止めを求める訴訟を提起しており、他方、被告(元加盟店)は訴訟期間中も競業行為を停止しなかったことから、本件に適用される場面においては過度な制限には当たらない。その意味で、本件における原告の請求が公序良俗に反するとまではいえない。

3.競業避止義務の対象たる事業

  1. (1) 本件FC契約が禁止する競業行為とは「ホワイトエッセンスと競合する事業」である。そのため、「ホワイトエッセンスと競合する事業」の具体的範囲が問題とされた。
     この点、裁判所は本件FC契約書の前文の文言から「『ホワイトエッセンス』事業とは、一般的な審美歯科の領域に含まれるホワイトニング等のサービスを中心としつつも、これにとどまらず、口内のアロママッサージ、リップエステ、プラセンタなど必ずしも一般的な審美歯科の領域に含まれないサービスメニューや、健康者に対して、クリーニング等の過程で恐怖や痛みを与えない施術及び物品販売を加えて経営ノウハウ化し、これらを顧客に対して一体として提供する事業をいうのであって、これと『競合する事業』についても、上記ホワイトエッセンス事業又はこれに類する事業を指すと解すべきである。」と限定し、その上で、「被告が現在も提供するサービスは、一般の歯科診療のほか、(本件FC契約の締結前から行っていた)一般的な審美歯科の領域に含まれるホワイトニングのみであり、しかも、被告が平成30年2月頃、本件歯科医院の顧客約2000名に対して、本件歯科医院におけるホワイトエッセンスメニューの終了を知らせる葉書を送付していること…をも勘案すれば、被告が、現在、『ホワイトエッセンスと競合する事業』を行っているとはいえない。」と判断した。
  2. (2) フランチャイズ契約では、競業行為の概念として「本フランチャイズ事業と同種又は類似の事業」などといった抽象的な定め方がされるため、その禁止の範囲が争いとなることがある。
     この点、競業行為の概念については「その事業の類似性の程度により、社会通念によって個別具体的に判断」される(東京地判平11.9.30 判時1724-65・WestlawJapan文献番号1999WLJPCA09300019:スパークルウォッシュ事件)。過去の裁判例では、通常の居酒屋チェーンに加盟していた元フランチャイジーが他の海鮮居酒屋のチェーンに加盟した事案で競業避止義務違反が認められたもの(東京地判平16.4.28 WestlawJapan文献番号2004WLJPCA04280003)、串焼きフランチャイズ・チェーンの元従業員が居酒屋を営んだ事案において、業態の類似性、主要商品の共通性、従業員の引継ぎなどを理由に競業避止義務違反が認められたものがある(東京地判平20.9.25 WestlawJapan文献番号2008WLJPCA09258015)。
     本件裁判所はフランチャイズ契約書の前文から「ホワイトエッセンス事業」の内容を特定し、被告が営む一般的な歯科診療や一般的な審美歯科としてのホワイトニング行為は禁止の対象ではないと判断した。
  3. (3) ただ、裁判所による「ホワイトエッセンス事業」の定義はかなり限定的である。その背景には加盟店が、もともと同種事業を営んでいたことが影響していると思われる。
     過去の裁判例では、子供用ロボット教室を営んでいた者が、他のロボット教室のフランチャイズに加盟した後に、新たに子供用ロボット教室を始めた事案で、従来営んでいた子供用ロボット教室を開校することは競業避止義務違反にならないとされ、フランチャイザーが開発した特徴的な指導方法を現に利用している等の事情がない限り、フランチャイザーのノウハウを利用して競業行為をしているとは認められないと判断された(東京地判平25.5.17 判時2209-112・ WestlawJapan文献番号2013WLJPCA05178003)。この事案と本件とを照らし合わせると、被告である(元)加盟店がフランチャイズ加盟前から同種事業を営んでいた場合は、裁判所は競業行為の範囲を限定的に捉える傾向にあるといえる。加盟店に同種事業の経験がないならば、そのフランチャイズ・チェーンに加盟することで当該事業の経営ノウハウを修得したといえるが、加盟店が同種事業を営んでいた場合は、その事業について基礎的なノウハウをもともと有していたはずだから、フランチャイズ本部が提供したノウハウはそれなりに限定されるからである。それがどの程度限定されるかはケースバイケースといえよう。

4.今後の課題

 本件は競業避止義務条項の定め方及び同種事業を営む者を加盟させた場合の競業行為の判断の仕方など、実務的に非常に興味深い点が議論されている。近年、働き方改革による兼業副業の緩和から、労働者向けの個人加盟型フランチャイズが増加しつつあるが、その労働者の本来のスキルを活かせるフランチャイズ事業の場合(例えば、システム会社従業員を対象とする副業としてのシステム開発業務紹介のフランチャイズなど)は本件と同様の問題が生じる可能性がある。


(掲載日 2020年11月16日)

» 判例コラムアーカイブ一覧