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文献番号 2021WLJCC003
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三
1.はじめに
本件は、地方議会議員である被上告人が、所属する地方議会から懲罰として出席停止処分を受けたところ、当該処分の取消し、および、当該処分に伴う議員報酬の減額分等の支払を求めた事案である。
一審判決※2では、地方議会による議員の懲罰は司法審査の対象とならないとする先例※3にしたがい、当該処分の取消しに係る訴えを却下とし、また、報酬の減額分等の支払に係る訴えの判断には、当該取消しに係る訴えの判断が不可欠であることから、報酬の減額分等の支払に係る訴えも却下とした。それに対して、控訴審※4では、先例を否定して、当該処分の取消しに係る訴えを適法とし、一審判決を取り消し、差戻しとした。本件判決は、その上告審となる。
本件判決は、これまでの先例を変更し、地方議会による懲罰である議員の出席停止処分を司法審査の対象とした点で注目されるが、そのことに加えて、当該処分を司法審査の対象とした理由に関して、控訴審とは異なっている点でも、注目すべきものと思われる。
2.判例要旨
① 多数意見
まず、地方議会から「出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは、法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって、その性質上、法令の適用によって終局的に解決し得る」とした。
そのうえで、「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項、地方自治法11条、17条、18条)、議会に議案を提出することができ(同法112条)、議会の議事については、特別の定めがある場合を除き、出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして、議会は、条例を設け又は改廃すること、予算を定めること、所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか、当該普通地方公共団体の事務の管理、議決の執行及び出納を検査することができ、同事務に関する調査を行うことができる(同法98条、100条)。議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会が行う上記の各事項等について、議事に参与し、議決に加わるなどして、住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである」とした。
しかし、懲罰として議員に出席停止処分「が科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない」ことから、「出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができるというべきである」として、「普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる」とし、「これと異なる趣旨をいう・・・・・・当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである」とした。
したがって、「被上告人に対する出席停止の懲罰である本件処分の適否は司法審査の対象となるから、本件訴えのうち、本件処分の取消しを求める部分は適法であり、議員報酬の支払を求める部分も当然に適法である」として、上告を棄却した。
なお、本件判決には、宇賀克也裁判官の補足意見が付されている。
② 宇賀克也裁判官の補足意見
まず、「法律上の争訟については、憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されており、また、法律上の争訟について裁判を行うことは、憲法76条1項により司法権に課せられた義務であるから、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される」とした。
また、「地方議会については、憲法55条や51条のような規定は設けられておらず、憲法は、自律性の点において、国会と地方議会を同視していないことは明らかであ」り、「地方議会について自律性の根拠を憲法に求めるとなると、憲法92条の『地方自治の本旨』以外にない」が、「その核心部分が、団体自治と住民自治であることには異論はな」く、「団体自治は、それ自身が目的というよりも、住民自治を実現するための手段として位置付けることができ」るとしたうえで、「住民自治といっても、直接民主制を採用することは困難であり、我が国では、国のみならず地方公共団体においても、間接民主制を基本として」いるとした。そして、「この観点からすると、住民が選挙で地方議会議員を選出し、その議員が有権者の意思を反映して、議会に出席して発言し、表決を行うことは、当該議員にとっての権利であると同時に、住民自治の実現にとって必要不可欠であ」り、「議会に出席し、そこで発言し、投票すること・・・・・・が地方議会議員の本質的責務であると理解されていることは、正当な理由なく議会を欠席することが一般に懲罰事由とされていることからも明らかである」とした。「したがって、地方議会議員を出席停止にすることは、地方議会議員の本質的責務の履行を不可能にするものであり、それは、同時に当該議員に投票した有権者の意思の反映を制約するものとなり、住民自治を阻害することにな」り、「『地方自治の本旨』としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付けながら、住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので、これにより地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付けることはできない」とした。
なお、「懲罰の実体判断については、議会に裁量が認められ、裁量権の行使が違法になるのは、それが逸脱又は濫用に当たる場合に限られ、地方議会の自律性は、裁量権の余地を大きくする方向に作用する」ため、「地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象とした場合、濫用的な懲罰は抑止されることが期待できるが、過度に地方議会の自律性を阻害することにはならない」とした。
3.検討
本件判決は、地方議会による議員に対する懲罰のうち、除名処分だけでなく、(これまでの先例を変更して)出席停止処分に関しても、司法審査の対象となるものとした。ただし、控訴審判決とは、その理由づけが異なる点には、注意が必要だろう。
控訴審判決では、「地方自治法は、普通地方公共団体はその議会の議員に対して議員報酬を支給しなければならないこととしているのであるから(203条1項)、普通地方公共団体の議員は、少なくとも、議会の違法な手続によっては減額されることのない報酬請求権を有している」点を重視して、「出席停止といえども、それにより議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は、憲法及び法律が想定する一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となる」としている。つまり、当該議員個人の財産的利益を重視しているのである。
それに対して、本件判決では、当該議員個人の財産的利益の問題ではなく、「住民自治の原則」を重視したうえで、議員の出席停止処分によって、当該議員が「議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる」ことを問題としているものである。
したがって、控訴審判決では、仮に議員の報酬の減額がなされない場合には、司法審査の対象となる根拠が曖昧となるが、本件判決では、議員の報酬に関わりなく、出席停止処分に関して司法審査の対象となる根拠が明確になったといえるだろう。
なお、地方自治法135条では、懲罰として、出席停止や除名以外に、公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝を定めている。しかし、議員の議会での活動確保の点から出席停止処分を司法審査の対象となるとしていることからすれば、公開の議場における戒告や陳謝については、なお、司法審査の対象とはならないものと考えられる。そのため、本件判決によって、地方議会による議員の懲罰のすべてが司法審査の対象となったわけではない点には、注意が必要である。
4.おわりに
しかしながら、宇賀裁判官が補足意見で指摘するように、「憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されており、また、法律上の争訟について裁判を行うことは、憲法76条1項により司法権に課せられた義務であるから、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される」はずである。
そのように考えた場合、はたして、(住民自治を重視するにしても)地方議会の自律性から公開の議場における戒告や陳謝を司法審査の対象から外すことは、正当化できるのだろうか。宇賀裁判官の補足意見が述べるように、「憲法は、自律性の点において、国会と地方議会を同視していない」のであり、そうであるならば、地方議会の自律性を重視し過ぎるべきではないように思われる。
もちろん、宇賀裁判官が補足意見で指摘するように、「懲罰の実体判断については、議会に裁量が認められ、裁量権の行使が違法になるのは、それが逸脱又は濫用に当たる場合に限られ、地方議会の自律性は、裁量権の余地を大きくする方向に作用する」ことまでは否定できないにしても、戒告や陳謝も司法審査の対象になると考えるべきかどうかは、本件判決を踏まえた今後の検討課題になるものと思われる。
(掲載日 2021年2月1日)