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(旧)コラム

 

第39回 外資企業における社内労務規定の整備

上海錦天城律師事務所
弁護士 王麗敏

中国では、今年に入り「労働契約法」(1月1日)、「労働争議調停仲裁法」(5月1日)、「労働契約法実施条例」(9月18日、以下「実施条例」という)及び「企業従業員年次有給休暇条例」(9月18日、以下「休暇条例」という)が相次ぎ公布された。

関係法規の制定・公布につれて労働者が自身の権益を守ろうとする意識が高まってきた。労働事案における労働者側の勝訴率は06年に80%以上に達しているといわれており、外資企業が労務問題を念頭に入れるようになった。しかし、法令の規定の不明瞭さ、運用の難しさに加え、最高人民法院、労働部、地方省庁政府などが下す解釈なり政令なりが多数あることは、企業法務関係者を悩ませている。

実務上、法令の施行にあわせて、速やかに自社の労務関係の規定を顧問弁護士と検討し見直す企業が見られるようになった。例えば、中国の「休暇条例」に定められる休暇規定を就業規則に取り入れ、会社独自の休暇制度とあわせて検討し、休暇制度を詳しく制定する企業が増えてきた。休暇制度を利用するにあたり、勤続年数がひとつのポイントになっている。労働派遣された社員に関しては、派遣元に問い合わせても人数が多すぎて把握できないと返答された場合には、本人申告制をとっていいかどうかという問題が生ずる。実際に勤務した期間の証明ができないときには気の毒に思うが、企業としては申告を鵜呑みにすることは無理もあるため、関係証拠を提出してもらうことをアドバイスしている。

また、「労働契約法」第39条2項及び「実施条例」第19条3項において、労働者が使用者の就業規則を重大に違反したときに、使用者が労働契約を解除することができるとしている。しかし、就業規則に列挙していない「違反」については、会社が罰則を適用することが認められない。したがって、本社の就業規則を中国で援用しようとする外資企業に対しては、現地の環境、従業員の資質等の諸事情を十分考慮し、奨励及び罰則条項の詳細設定、関係証拠を保存するように勧めている。

「労働契約法」において、企業を困惑させる「終身雇用」的な条項がある。同法14条1項によると勤続10年以上の場合に、労働者からの要望があれば期限の定めのない労働契約を結ばなければならない。本条は昨年の年末に企業の間に恐慌を引き起こした。「無期契約」を回避するために、「労働契約法」が施行する前の昨年11月に、広東省に全従業員に自主辞職させ、雇用契約を一旦中断したあとに再雇用をした企業がある。当該騒動は「華為事件」と呼ばれ全国から注目を浴びた。後に行政の指導を受け一応解決した。
企業が証拠により解除要件を満たすことが証明できれば、「無期契約」も解除できる。今年3月、日系H社(中国)の従業員Jは会社から解雇されたことを不服として、北京の東城法院に提訴した。会社との間に期限の定めのない労働契約があることを理由に、労働契約の継続履行を求めた。しかし、裁判所はJの就業規則違反を認定し、会社の主張を認めた(京華時報2008年7月16日)。

労働法規の制定及び運用は社会経済の動きに連動する。目下の経済状況が続くと、半稼動、帰休、人員削減、清算に直面する企業が現れると思われる。関係法規を精査した上、法に基づく処理が望まれる。

(掲載日 2008年12月8日)

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