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東海大学法学部教授
西山 由美
日本の中小企業に関する中小企業庁のデータによれば、その数は全企業数の99.7%、その雇用は全雇用の約70%を占める。(「中小企業」の定義については、中小企業基本法2条を参照。) 中小企業は、地域の雇用を創出し、そこから得られる税収によって地域の福祉が支えられている。このような中小企業の経済的・社会的重要性を考えるとき、中小企業政策を主要な国策として位置づけなければならないことは明白である。その際に留意すべきことは、中小企業は大企業に比べ、資金調達・市場調査・技術革新・環境対策の点で競争上不利な立場にあることだ。
それでは国レベルで、具体的にどのような施策を講ずるべきなのか。昨年6月にEUの欧州委員会は、EUの将来が中小企業の持続的成長と競争力強化にかかっているという認識に立ち、EUと加盟各国が政治的イニシアティブをとるべく、中小企業の促進・支援のための10項目の具体的施策を示した(COM(2008)394 final)。この政策は、「Think Small First」と命名された。
まず「施策1」として、「中小企業が生き残り、かつ尊重されるための環境をつくる」ことを掲げ、EUレベルでは「企業文化の育成、および事業者育成教育の中で優れた技術の伝承を進めるために、EU域内での若者の留学プログラムを活用する」こと、また各加盟国レベルでは「学校教育の初期段階から事業者育成教育を取り入れる」ことを提唱している。また環境対策については、それが中小企業にとって大きな負担であるものの、エネルギー効率を高める好機、さらには環境配慮型の商品やサービスの開発のビジネスチャンスととらえ、「中小企業のグリーン市場への参入を促進する」(施策9)。その達成のために、EUレベルではネットワークの構築やエネルギー効率に携わる専門家への資金提供、各加盟国レベルでは税制を利用したエコビジネスの推進、中小企業のエコビジネスに対する約25億ユーロの資金供与を提示している。以上のような企業家教育や環境政策といった、比較的中長期的な施策のみならず、廃業した中小企業者への「セカンドチャンス」を与えるための法整備、中小企業にとっては過重負担となりがちな法令順守にかかるコストの25%軽減化、取引代金の速やかな回収のための資金援助なども施策の中に含まれている。
現在日本が苦しんでいる経済危機において、雇用を経営の調整弁としなかったのは、むしろ高い技術力のある中小企業だったことを考えれば、「良い中小企業は国が支える」という国の強力かつ具体的な施策が不可欠である。
(掲載日 2009年2月16日)