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おおとり総合法律事務所弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 昇治
自動車のファイナンスリース契約において、リース業者がリース物件の消滅、毀損ならびに盗難などに備えて損害保険を付すことは、商慣習となっている。ところが、当職が受任した事件においては、リース契約条項の特約条項中、「保険契約の締結」の見出しの下で、車両保険を担保種目として含む自動車保険の締結義務をリース業者に課しており、さらに、「特別の事由」により、リース業者の相手方である注文主が自ら保険契約を締結する場合には、リース業者の承諾を得るものとされ、その場合には、車両保険についてはリース業者を被保険者とし、注文主は、保険証券の写しを保険契約の締結後速やかに業者に交付する義務を定めていた。
本件において、注文主であるユーザーは、盗難保険を含む車両保険がリース業者により付保されると考え、自らは車両保険契約を締結しなかった。そして、リース業者も、車両保険を付保することを失念していた。不幸にも、当該車両は窃取され、2年後に、リース業者からユーザーに対して残リース料金の支払いを求める訴訟が提起されたのである。
第1審判決は、不可解であるが、「本件リース契約の下においては、車両保険を付保するか否かは、ユーザーたる注文主の任意の判断に委ねられている」ことを前提とし、注文者が任意保険を付保するとの意思表示が「特別の事由」に当たるとされ、ユーザーの全面敗訴となった。
両者痛み分けの和解に終わる控訴審で、ユーザーは車両保険と分離される任意保険の可能性を主張したが、リース業者から、保険業界では「1台1証券」「1自動車1保険」の原則が存在すると主張された。これに対して、当職は、リース業者とユーザー双方が「異なる保険契約者として」それぞれ当該車両について被保険利益を有するのでリース業者の盗難保険とユーザーの任意保険は併存しうると反論した(名古屋地裁判決昭和61年12月24日交通事故民事裁判例集19貫6号174頁)。教科書レヴェルでも、「1自動車1保険」なる原則が明確に否定されているからである。
しかし、保険実務においては、自動車損害保険(PAP)や自家用自動車総合保険(SAP)では、全担保種目が合一的に取り扱われることから「1自動車1証券原則」が採用されていることが判明した。この原則は、重複的な契約による二重の利得の弊害を防止するために日本損害保険協会らにより講ぜられた措置の一貫である。しかし、車両に固有の被保険利益を有する者が「1自動車保険」の原則、すなわち「1自動車1保険会社」の実務に拘束されるのであり、このような実務が業界を支配している。
保険実務に蔓延るこれらの原則は、損害保険契約に係る自由競争を阻害する、まさしく「闇カルテル」と云わざるをえないのではあるまいか。
(掲載日 2009年4月27日)