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成城大学法学部資料室
隈本 守
25年ほど前の学生時代、アメリカのプライバシーに関する判例、論文を調べた。ナショナルリポーターやハーバードローレビューなどの特定の判例、論文を略称、巻号頁で示されるサイテーションを使って取り出し、この前後の関連判例などをシェパードサイテーションやアメリカンダイジェストシステムで探した。さらにアメリカンジュリスプルーデンスやコーパスユリスセカンダムを使ってその他の判例、法令、論文等のこの問題全体の概要を調べた記憶がある。このときアメリカのシステマティックな情報管理方法にちょっとしたショックを覚え、判例、論文と同時に法情報共通の引用方法が重視されている国と実感した。この直後カリフォルニアに留学した時には、すでに普及していた法情報データベースに更に驚かされ、また、当時一般への普及実験段階にあったインターネットを見て法学に大きな影響を与える可能性を感じていた。
日本に帰り、アメリカ法情報データベースを電話回線で利用できるようにして頂いたが、従量制であったため気楽に使える状況ではなかった。自由に使えるようになったのはインターネットが普及し、固定料金制になってからのことである。当時の法学部はワープロ専用機の普及期であり、資料室では国内の判例オンラインデータベースも利用できたが、研究室でパソコンを利用することはまだ少ない時代であった。
この時代から、現代の法情報環境をみると隔世の感がある。当時はテキストデータでしか利用できず引用に苦労したデータベースが、今ではPDF等の画像データで提供され、あたかも手元の資料をコピーしたように利用できる。国内の法情報も、当時のアメリカと同等とはいかないまでも法令・公式判例集、判例評釈の情報までは、かなり利用できるようになった。特に海外のオフィシャルの法情報については国境、距離を意識する必要がないほど手軽に利用できるものが増えている。
では、この先はどうなっていくのであろうか。雑誌、大学紀要等のPDF化はますます進み、判例評釈、論文が本文までネット上で利用できることが普通になり、明治期、昭和初期の法律関係書のように単行本もPDF版の存在、利用が当り前となり、図書館とは紙の本の保管をする施設という時代になるかもしれない。また雑誌や図書のデータベースが目次レベルで各データベースの本文情報とリンクされると、現在のようにどの資料がどのデータベース、あるいはネット上のどこにあるのかを探す手間が軽減され、システマティックに探せるようになるであろう。さらに、ペイ・パー・ビュー形式の情報形態が普及し、雑誌論文に限らず、図書でも利用できるようになると、著作権の問題やデータベースの収益方法の問題、図書館会計や支払方法の問題もあるとはいえ、図書館に行かなくても、研究室や自宅からほとんどの資料を利用できるようになる時代も近いのかもしれない。
資料本体は図書館にあり利用はオンラインでという時代から、図書館にすら資料本体が保存されず、各社のデータベース、各大学の公開情報、個人研究者の公開情報など情報公開元がバラバラに情報を持ち個別に提供する時代になると、法情報をどこかに安全なかたちでまとめ、法情報アーカイブスとしてシステマティックに保存、利用する方法を提供することが求められる時代となるように思うが、はたしてこれらは遠い将来のことであろうか。
(掲載日 2009年8月10日)