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判例コラム
(旧)コラム

 

第72回 監査役の役割

弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄

度重なる商法改正とりわけ昭和56年および平成5年の商法改正ならびに平成18年の会社法施行により、委員会設置会社以外の公開会社でありかつ大会社(最終事業年度の貸借対照表における資本の金額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上の株式会社)では、監査役(会)の権限が強化されてきた。すなわち、監査役会設置会社では、監査役の員数は3人以上でその任期は4年とされ、常勤監査役を互選で選定するとともに半数以上は社外監査役でなければならない。

監査役会が制度化されることによって事実上取締役会との関係における監査の独立性が高まったことは間違いないが、監査役の独任制の長所を損なわないようにするとともに、監査に関する職務権限を監査役個人と監査役会とに配分していることに特徴がある。監査役会の法定権限は、①監査報告の作成、②常勤監査役の選定および解職、③監査の方針、会社の業務および財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定、ならびに④会計監査人の選任・解任・不再任に関する同意権の行使にある。しかし、業務監査は本来多数決になじむものではないし、監査の主体はあくまでも個々の監査役にあるから、監査役会の監査役の職務の執行に関する事項についての決定は、各監査役の権限の行使を妨げることはできないとの明文を置いているのである。

要するに、会社法は、監査役会の法的性質は、会議体の意思決定機関というよりも調整的機関の色彩が強いものではあるが、監査役会に対して,監査役間の役割分担、情報の共有化、組織的監査の効率性強化等による経営陣に対する影響力の確保(独立性の確保)に一層の期待を寄せているのである。

ところで、ここ2,3年来、株主代表訴訟で取締役のみならず監査役の法的責任も認められた判例が現れ、監査役が取締役の不正行為を追及する事例が目立ってきた。A社では、同じく代表取締役を兼務している他社に数億円の不正融資をしようとしていたのに対して、違法行為差し止めの仮処分を申し立ててその責任を追及し、辞任に追い込んでいる。同様にB社では、前社長が経営している他社との間で不正取引があったとの監査役の指摘を受けて、弁護士らで構成する社外調査委員会の設置を公表した。また、C社では、前社外監査役が取締役らを相手どって提起した、新事業への巨額投資による損害賠償請求訴訟を現監査役陣が継承した。これらの事案は、明らかに経営者が取締役会や監査役会を、ひいては株主や従業員を軽視していた前近代的事例といってよい。これに対し、銀行や警察などから天下りの社外監査役を招請し、その監査役が役員の不正支出の調査資料を要求したり、取締役会の承認を経ない子会社取引の是正を求めて、経営陣と深刻な対立に陥いる会社もあらわれている。

私は、ある証券会社の社外監査役に就任して3年になるが、毎月1回は開催される取締役会および監査役会に全部出席している。取締役会では、議題のほか、毎月の予算および実績の件ならびに取引の公正および財務の健全性確保の件について報告がなされる。監査役は、社長(議長)から取締役会の全議題および報告について意見を求められる。監査役会では、前記法定権限事項に関する議題のほか、常勤監査役(議長)から各営業所の往査実施結果の報告を受け、質疑応答をする。会議の翌日には、議事録の確認と記名押印をする。そして、4半期に一度、社長と監査役会との協議会が開催される。ちなみに、私の主な活動状況は、「当該事業年度の取締役会及び監査役会の全てに出席し、必要に応じ、会社法学者及び弁護士としての専門的見地から当社のコンプライアンス体制の構築・維持について発言を行っております」と、今年の株主総会招集通知に紹介されている。

(掲載日 2009年8月24日)

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