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おおとり総合法律事務所 弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 曻治
日本司法支援センター歌舞伎町出張所における医療相談のおり、ある女性から医療ミスによりRSDが発症したので、法的な救済をして欲しいと要請された。今まで、幾つかの医療過誤事件を担当してきたが、RSDという稀少難病の患者に初めて遭遇した。
RSD(Reflex Sympathetic Dystrophy:反射性交感神経性ジストロフィー)とは、受傷するとその損傷を最小限に止めようとする人体の生理的機能によって交感神経反射が作用し,血管の収縮が出血を抑えようとする動きを生じさせるが、時として、この交感神経反射が働き続けるために、末梢組織に交感神経冗進状態を維持したままの状態になり、末梢の血流が阻害され、その結果、末梢軟部組織に対する栄養が行きわたらず組織がやせ細るために、新たな激痛が生じこれが悪循環する病態である。1996年、世界痙痛学会は類似した症状の疾患をCRPS(Complex Regional Pain Syndrome)と呼ぶことを提唱し、従来のRSDをtype 1、神経損傷と関係したカウザルギーをtype 2とした。
この病気の臨床的な特徴は、様々である。疼痛、皮膚の変化、腫張、運動障害、これらの症状の拡大、骨変化(斑状の骨粗鬆症)などである。疼痛と運動障害が顕著な特徴を有するRSDは、外傷から予想される程度を遙かに超えるのである。採血注射により、関節炎の治療のための注射でも容易に発症する。患者により発症の形態が一様でなく、症状の拡大の時期も進行も異なるのも厄介である。そして、幾つの別称があるこの難病は、発生の機序、病態また定義においてコンセンスをえていない。無論、治療方法が確立していない状況にある。
とにかく、ある医療機関で注射により、相談者がRSDに罹患したと診断された。これを受けて、証拠保全手続を行ったが、現場で期待していた検証物が乏しいことに唖然とした。膝の関節のカルテとレントゲン写真だけであり、MRI検査写真もサーモグラフィー、神経伝達速度、三相骨シンチグラフィーなどの報告書も存在しなかった。訴訟に向けての一抹の不安が過ぎった。しかし、この検査だけで、担当医師は、関節注射の実施の必要性と可能性が判断できたのであろうか。闘いはこれから始まる。
ふと稀少難病患者に関する新聞記事「ひと」を思い出した。「遠位型ミオパチー」に罹患した中岡亜紀さんが常任理事を務めるNPO法人「稀少難病支援事務局」(SORD)の紹介記事である。依頼人同様に、進行性の病気を持つ人々への難病対策が放置されているわが国において、RSDについても単発的な訴訟手段ではなく、国際RSD/CRPS研究財団のような組織の構築が望まれる。
(掲載日 2009年10月19日)