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第82回 変わり始める南米における国際投資保護

大東文化大学・東海大学・國學院大學 非常勤講師
税理士 佐々木 雄一

今日、各国間で締結されるBITs(二国間投資協定)等の紛争処理規定において、ICSID(国際投資紛争解決センター)に附託することが一般的に規定され、外国投資家のカントリーリスクへの不安が払拭されている。しかし、2007年5月にボリビア、2009年7月にはエクアドルがICSID条約(国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約)よりの脱退を発表した(6か月後に発効)。脱退の動機として、ICSIDの制度は、多国籍企業に対して投資受入国の採り得る行動を制限するので投資受入国は事案のほとんどで訴えられる側になり不公平である、水道システム・先住民の土地・エネルギー部門など国民生活にとって重要な部分が脅かされている、ICSIDの費用が高過ぎる、外国投資家の補償額には実際の投資額のほかに喪失が見込まれる予想収益まで含まれる、世界銀行はICSIDのほかにIDA、IFCのような金融機関やMIGAのような保証機関にも関与しておりICSIDは中立の立場にならない、投資受入国の法が適用されない仕組は投資受入国の憲法違反であり主権侵害である、等が挙げられている。両国以外にも、現在まで脱退していないが、ベネズエラ、ニカラグアがボリビアの脱退表明時に脱退の意向を示唆していた。

2004年12月にベネズエラ・キューバにより「アメリカ人民のためのボリバール連合(The Bolivarian Alliance for the Peoples of Our America:略称ALBA)」が創立された。ALBAは、FTAAに代わるものとしてベネズエラが提案したもので、ラテンアメリカおよびカリブ諸国の間の社会、政治および経済統合の思想に基づく国際協力機関であり、貿易自由化ではなく、福利厚生、バーター取引や相互の経済援助による経済統合を指向している。現在、ベネズエラ、キューバ、ボリビア、ニカラグア、エクアドル、ドミニカ、ホンジュラス、アンティーグア&バルブーダ、セント・ビンセント&グレナディーンズの9カ国が加盟している。さらに、2009年9月に「南の銀行(The Bank of the South)」がアルゼンチン、ベネズエラ、ブラジル、ウルグアイ、エクアドル、パラグアイ、ボリビアの7カ国によって創設された。この銀行は、南米諸国向けに承認した事案に無条件で資金を提供して、IMFや世界銀行に代替する金融機関であり、提案国であるベネズエラは2007年5月に両機関から脱退し、他国にも追随することを促した。ベネズエラは豊かな石油資源に基づく資金を元に南米諸国の相互扶助機関を形成して、既存国際機関の条件付融資等によって南米諸国の国内政策が歪曲されることを防止しようとしている。この動きは南米における国際投資保護のスキームを変える可能性がある。

(掲載日 2009年11月9日)

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