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判例コラム
(旧)コラム

 

第108回 「C効率性」―消費税の効率性―

東海大学法学部教授
西山 由美

「消費税の意義は、唯ひとつ、国家に金銭をもたらすことである。」
これはドイツ連邦財政裁判所の判決(1973年)であるが、消費税の課税根拠を専ら財政目的であると明言したことに対しては、批判も多い。「この説明では、国家に収入をもたらす手段がなぜ消費課税でなければならないのかが明らかにされない」と。

確かに「困ったときの消費税頼み」では、身も蓋もない。しかし消費税は今もなお、その生い立ち(第一次世界大戦の戦費調達のために独仏が導入)を引きずり、その主たる存在意義は「財政再建の切り札」であると認めざるを得ない。消費税の課税根拠として、「所得の消費もまた、担税力の表れである」と説明されはするけれども、本音はやはり「財政目的」である。そうであるとすれば、消費税は効率的な税収の稼ぎ手とならなければならない。

消費税の効率性を示す指標として、「C効率性」というものがある。これは、すべての消費財に単一税率を乗じた場合の税収を「100」として、複数税率を導入したり、非課税項目を増やしたりすることで、税収がどれ程になるかを示すものである。現在、最終的な取りまとめ作業が進んでいる英国の「マーリーズ・レビュー」(正式には「マーリーズ卿を座長とする21世紀税制改革委員会報告書」)を構成する付加価値税報告書「付加価値税およびその他の消費税」によれば、EU諸国の消費税率は15パーセントから25パーセントと極めて高いが、C効率性はすこぶる低い。たとえば、ドイツは54、フランスは51、イギリスは49である。これに対して、単一税率の日本は72であり、ニュージーランド(税率は12.5%の単一税率)に至っては、ほぼ100である。ニュージーランドでは、単一税率であるほかに、金融サービスや公共団体によるサービスの多くのものが、課税対象となっている。効率的な消費税の鍵は、税率の高さではなく、「単一税率・広い課税ベース」であることは明白だ。

先月、国際通貨基金(IMF)は、「日本は2011年度から消費税率を含む財政再建を始めるべきだ」という声明を発表した(日本経済新聞2010年5月20日朝刊)。日本の消費税率の引き上げについては、いよいよ外圧も加わってきた感がある。しかし税率を引き上げても、引き上げに伴う制度設計にしくじれば、効率的な税収確保につながらない。上記の付加価値税報告書によれば、英国の(そしてEUの)消費税の現状を「老化し、機能不全に陥ったシステム」と評価し、それは複数税率構造によってもたらされたと分析している。

消費課税に内在する逆進性の緩和対策として、軽減税率が賢明な手法ではないとすれば、考えうる最良の方法は、所得税の税額控除(場合によっては給付)または社会保障給付であろう。しかしそのためには、個人の所得状況を正確に把握するための納税者番号制度の構築が不可欠なのである。

(掲載日 2010年6月7日)

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