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成城大学教授
指宿 信
世はインテリジェント端末時代だ。iPodが市場を席巻したと思ったら、iPad、Kindleなど様々なデジタル情報端末、携帯端末が次々と現れている。我が国では携帯でのワンセグ機能が売れ筋だそうだが、テレビ映像といったマスメディアだけではなく、多様な動画・音声情報がネット上に提供され、YouTube上には個人制作のビデオクリップがあふれかえっている。そうしたICT技術やネットワーク上の情報環境は法情報と無関係だろうか?少なくとも日本国内ではそう思えるかもしれない。だが、海外に目を向けてみると実は非常に多くの音声や動画サービスが法情報として提供されている。
以下では、YouTube時代の法情報環境の到来の実際を見てみたい。読者諸兄は実際にアクセスされ、その世界に触れてみられることをお勧めする。多くの人が検索の際に気づいていることだが、YouTubeやiTunesには様々な法律関連情報があふれており、KW検索でいろんなコンテンツを入手することができる。提供元は様々で、個人や機関、団体など多様である。内容面についても、講義、専門的なレクチャー、シンポジウムや講演会、宣伝クリップと多彩だ。最も簡単な検索方法は、Googleで検索語を入力した後左上にある「動画」をクリックする方法だろう。たとえば、”law school”と”video”を検索語とした場合、一万件以上ヒットする。
そのロー・スクール自身のホームページを見ても、今やハーバード、イェール、シカゴといった米国トップ・ロー・スクールのホームページでは日々、ポッドキャストによる情報提供や学校の様々な活動を配信することが当たり前になっている※1。他方、日本のいわゆる上位校と呼ばれる法科大学院のホームページを見るとそうしたコンテンツはほとんど見あたらないし、あっても学校紹介のような固定的な情報で、常時更新され活気のある研究や教育の実態に触れることが出来る米国のものとは大きく異なる。
実務も同様だ。たとえば、裁判所では合衆国最高裁の口頭弁論の音声ストリーミングならびに同時反訳表示をおこなうプロジェクトOYEZのマルチメディアぶりは際だっているし(http://www.oyez.org/)、オハイオ州最高裁判所は口頭弁論のビデオ記録をライブでもアーカイブでも提供している(http://www.sconet.state.oh.us/videostream/default.asp)。商業コンテンツは言うまでもない。Lexis社は法律ニュースの音声サービスをポッドキャストで始めているし、Westも音声ニュースをiTunesでサービスしている(Legal Current で検索)。
もちろん法律や判例はそもそも文字情報で構成されているので、これまでの法の世界は活字文化であった。だが、裁判員法廷は今やビジュアル・プレゼンテーション真っ盛りとなり、分かりやすい裁判の追求に法律家は追い立てられている。教師も教室でパワーポイント・スライドを駆使し、学生の興味と関心をモニターに引きつけようと躍起になっている。既にわれわれの法情報環境は、映像や画像などビジュアルな世界と密接に結びついているのだ※2。
そんな時代を象徴する出来事が米国最高裁で起こった。合衆国最高裁は、ある上告事件についついて、2007年4月そのサイト上に歴史上初めて判決文と共に判断の基礎となった主要証拠であるビデオ・クリップをアップしたのである※3。パトカーに追跡を受けて停止しなかった原告が警察官を訴えた事件で、原告の運転がどの程度公共の安全に危険であったかが事実問題として争われたケースである(スコッツ事件)※4。最高裁は2台のパトカーのダッシュボードに登載された二つのビデオカメラ映像を主要証拠として取り扱い、被告側の主張を受け入れて多数意見は原告の走行の危険性を容認した。この事件で争われているのは事実そのものより、むしろ感じ方、受け止め方の問題であった。まさに核心はビデオ映像の印象にある。
その後、合衆国最高裁はカリフォルニア州における死刑事件に関し、被害者遺族が作った20分のビデオクリップ※5-被害者の生前のホームビデオにナレーションが挟まれ、enyaの音楽がBGMとして流れるもの-を使った被害者遺族供述の合憲性についての審査をおこなわない決定をした(ケリー事件)。それは、少数意見※6が懸念するように法廷弁論や供述がもはや「編集された」ビデオ映像に支配される時代を象徴したものとなっている。
われわれは、今や証言や答弁といった口頭の証拠のみならず、画像や映像から事実を認定し、法律判断を下さなければならない時代にある。裁判員裁判の開始は、ようやく我が国に供述調書を多用していた調書裁判時代の終わりを告げた。だが、そこに立ち現れたのは英米法に伝統的であった単純な口頭主義、直接主義の風景ではなく、スクリーンやモニターというヴァーチャルな世界である。いま、法律学と法実務はまったく新たな挑戦を受けていると言えるだろう※7。
さて、このトレンドは法情報産業にとっても無縁ではないはずだ。先に述べたように、海外では各種の情報が音声や動画として提供され、携帯端末に届けられるようになっている。日本にYouTube時代を切り取るような革新的な情報サービスはいつ訪れるだろうか?
(掲載日 2010年6月21日)