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TMI総合法律事務所
弁理士 佐藤 睦
昨今、特許庁において、特許法の大幅な改正に向けての動きが活発化している。
まず、我が国の産業力強化及び経済成長に向けた知的財産システムの構築を目的として、昨年1月に、特許庁長官の私的研究会「特許制度研究会」が設置され、そこでの検討結果として、昨年12月に、「特許制度に関する論点整理について」と題する報告書が提出された※1。
また、イノベーション促進の観点から、今年4月に開催された産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会以降、特許制度の法制的な課題として、15の検討項目について検討が行われている※2。現在、特許庁のHPには、第25回~第28回までの議事要旨が掲載されているが、この中で、「登録対抗制度の見直し」、すなわち、現行の登録対抗制度に代えて、当然対抗制度を導入すべきかについて、改正に対して前向きな意見が最も多いように見受けられる。
特許法における現行の登録対抗制度とは、例えば、A社がB社からある特許権についてライセンスを受けたとき、当該ライセンスを特許庁に登録しておけば、当該ライセンスは、当該特許権がB社からC社に移転されたとしても、C社に対してなお効力を有するというものである。すなわち、A社は、当該特許権について、C社から差止請求や損害賠償請求を受けることがない。
このように、登録対抗制度は、ライセンスを受ける者にとって重要な意義を有する制度であるものの、殆ど利用されていないというのが実情である。これは、登録にコストがかかってしまう、登録するとライセンス契約の存在を一般に知られてしまう、登録対抗制度を有しない外国の企業とのライセンス交渉において登録の必要性について理解が得られない、などの理由によるものである。
しかし、近年、特許権の流動性が上がるにつれて、ライセンスを保護する重要性が高まっている。例えば、上記の例において、ライセンスが登録されていなかった場合、A社はC社から当該特許権の行使を受けるリスクがある。最近、特許権がM&Aや破産によって移転するケースや、特許権がいわゆるパテントトロールに売却されるケースが増えてきていることなどもあり、かかるリスクは増大している。
このような背景から、ライセンスについて、現行の登録対抗制度に代えて、当然対抗制度を導入することが前向きに検討されている。当然対抗制度が導入されれば、上記の例において、A社は、当該ライセンスを特許庁に登録しなくとも、当該特許権について、C社から差止請求や損害賠償請求を受けることがなくなる。
特許権のライセンス交渉や、特許権のライセンスを受けている企業の買収におけるデューデリジェンスなど、日々の業務において、現行の登録対抗制度が問題となるケースに出会うことは多い。個人的には、当然対抗制度が導入され、ライセンス交渉がスムーズに進むようになり、また、ライセンシーの事業の安定性が高まり、ライセンス制度自体がより活性化することを期待する。
(掲載日 2010年7月26日)