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判例コラム
(旧)コラム

 

第133回 知財権に関する二題 -Miffyと無断電子化-

おおとり総合法律事務所弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 昇治

新聞を読んでいたら、「Nijintje boo op Cathy」の文字とMiffyとCathyの絵が飛び込んできた。人気のある兎のキャラクターMiffyの原作者、Dick Bruna氏側がHello Kittyの創作者であるサンリオ社に対して著作権侵害を理由に、Cathy商品の製造と販売の差し止めを求めてアムステルダム裁判所に提訴したという記事である。サンリオピューロランドが開業20周年を迎える矢先の出来事である。そして、Miffyは55回目のお誕生日を迎えた。二匹のキャラクターを見比べて、正直いって、「似て非なり」。あの特徴ある動物、兎のフォルムだから。人間や動物のような生物などあらゆる概念は、擬人化とデフォルメを介することでキャラクター化される。わが国の著作権法によっても、このキャラは、オランダと同様に判断されることになるのであろうか。いずれにせよ、差止めは認められた。法律家にとっては、キャラクラ-の類似性の判断は至難である。しかし、当職は、この差止めがある理由で、認められるであろうと確信していた。それは、王立オランダ造幣局により生誕55周年記念貨miffy 55thが鋳造されると仄聞していたからである。

私は、数年前、文科省専門職大学院のプロジェクトの一環として、Hello Kittyの偽物を調査したことがある。上海、香港、マカオ、ソウルなどの都市についてである。結果はといえば、無論、本物がほとんどと言っていいほど存在しない。国営企業(公司)が堂々と偽物を製造して、販売する店舗や店員も偽物であることにそもそもはばからないことに驚いた。偽物天国だ。

Miffyの記事のまもなく後に、『「1Q84」無断電子化』の文字が紙面を賑わせた。当然の一大事だ。日本のベストセラーの小説が中国語訳され、著作者と出版社に無断で電子書籍化されたのだ。紙媒体の海賊版の存在は、上海の本屋でも山ほど確認されていた。紙媒体の違法行為であれば、その侵害対策は、さほど困難ではない。しかし、インターネットを媒介とした違法行為は、海賊版の正体が容易に把握できないとすれば、アップロードにより売り上げを享受している、配信サイトたるアップストアー、そして、当然のことながら、そこで販売されるソフトを事前に一括審査するアップル社にその削除を求めることになろう。侵害された著作物を特定して、削除を速やかに求めるべきである。そうすれば、この審査にあたり、著作権者からの許諾を得ているかをチェックする責任は両者にある。ロシアにも拡大する無断電子化、しかるべき対策が求められる。

先日、出版4団体は、この問題につきアップル社を「非難」するとともに、対策として協議を要求するとの記事が出た。しかし、情報開示を求めるというのは、手ぬるいと思う。海賊版の削除、掲載禁止を求める仮処分の申立てをなすべきではないか。尖閣を糧とすべし。

(掲載日 2010年12月20日)

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