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苗村法律事務所※
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
先日、大学対抗交渉コンペティションが行われた。この大会は学生達が、仲裁と交渉の2つの場面で交渉を行い、様々な観点からの評価で高得点を競うというものである。私もほぼ隔年ごとには審査員として参加し、学生達の熱闘を感心しながら審査し、日頃の自らの交渉力を反省することになる。
このコンペティションでは、発展途上のN王国のR社と日本に似た工業先進国A国のB社が2日にわたり、仲裁廷および会社だけでの交渉を繰り広げる。今年は、N国の環境大臣を勤める王子から、王族の経営する会社に技術ライセンスをせよと言われ、抗しきれなかったB社は、この技術供与を行い、後にR社から同社と締結している契約中にある独占交渉権違反を問われている、B社は、不可抗力を主張できるかというのが、論点の一つとなった。
この問題、運営委員会は、早くから準備されていたので、よもや尖閣諸島問題や北朝鮮から韓国への砲撃を予想された訳ではないと思うが、改めて、不可抗力条項を考える契機となってくれた。不可抗力条項は、日本の契約書では、定められないことも多く、国際契約でも雑則の章に定められることもあり、また想定外の事態に対する対処条項であるので、チェックの際に、つい気を抜きがちになる。しかし、自然については、気候変動の影響か激烈な風雨、寒波などが物流等に深刻な影響をもたらし、また様々な地域で国際的な緊張関係が高まる中では、その条項の持つ意味は重要である。
日本法では、永小作権、転質の他に金銭債務について不可抗力による免責を認めないという規定があるばかりで、その反対解釈として、他の債務については、不可抗力による免責主張も許されると考えられるだけであるし、仮にユニドロア国際商事統一規則を準拠法とすることが出来たとしても、不可抗力について定める同規則7.1.7条は、何が「当事者のコントロールを越えた障害」か、いかなる場合に「結果回避を期待するのが」合理的でないのか、評価要素が多く、この条文だけに依拠することは出来ない。勢い契約条文に例を列挙することになる。
例題の王子の事実上の権勢はActs of Godかと言われると悩ましい。N王国のカントリーリスクとして、B社としてははじめから予想出来たとも言える。確かに当事者のコントロールを越えた障害であるが、予想出来た以上、その上で、独占交渉権を付与した以上、不可抗力とは主張できないとも言えよう。現実の問題として、今のこの時点で、例えば、中国の子会社から物を送るというような義務を伴う契約を締結した場合、また何かの国家間トラブルで中国政府が輸出制限をした場合、これも先のレアアース問題から予想できたとなれば、納期遅延は不可抗力と言えるのか、当事者間では争いになる可能性もある。不可抗力条項に定めには、留意が必要である。