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青山学院大学法務研究科(法科大学院)教授 ※1
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック ※2
弁護士・ニューヨーク州弁護士
浜辺 陽一郎
会社法の見直しをめぐって、いろいろな議論がされている。
一つの対立軸として、成長戦略かコンプライアンスかの衝突のように見える対立がある。即ち、経済界を中心として、成長戦略を掲げて、規制緩和を唱え、経営に足かせとなるような規律の導入に反対する立場がある。これに対して、コンプライアンス推進の観点から、事後的な規制にせよ何らかの規律の導入の必要性を唱え、自由放任による弊害を指摘する立場がある。
もっとも、この両者は、決して単純な二項対立でも、二者択一でもない。それらの要請を止揚して、成長戦略にも結びつくような市場の好ましい規律が働くような方法が理想である。どこかに、そのようなうまい方法はないか、知恵を絞っている。しかし、これまで、そのような理想的な効果を発揮したような制度は、あまり思い浮かばない。新たに提案される制度は、「都合の良いところ」取りになってしまうことが多かった。
例えば、いわゆる「執行役員制度」は、業務執行と監督を分離して、成長戦略を促すとともに、コンプライアンスを推進するツールとしても期待されていた。しかし、執行役員制度を導入した企業は、執行役員制度を導入していない企業よりも業績が低い傾向があるという研究があるように、どうも本来の期待されていたような効果を発揮していないという現実がある(注1)。その原因は、制度本来の趣旨をほとんど離れて、経営者が自分たちに都合の良い、「安直な道」に走ってしまうところにあったようである。そうなってしまっては、企業統治の規律としても機能しないし、肝心の本業にも十分な力が発揮されないまま、新制度導入の効果がないことに対する失望感だけが残る結果となり、改革者に対して「怨嗟」の声があがる。どうも、そんなことの繰り返しが、昨今の日本経済低迷の背景にあったような気がする。
一方、執行役員制度を一歩進めた「委員会設置会社」は、会社法の制度として「規律」が設けられたが、その規律が嫌われて、ほとんど採用されないという事態となっている。これは、その規律の趣旨を積極的に受け入れながらも改革につなげていこうという考え方があまりされなかったことが一つの原因である。
こうなると、会社法のガバナンスをいじって、企業が自動的に成長するといったような楽な方法は「ない」ことを大前提と考えるしかないだろう。会社法のガバナンスの規律でなしうるのは、せいぜい、企業の成長のお手伝いができるような体制の奨励であって、それでさえハードルはかなり高いと考える必要がある。会社法の本来の目的としては、企業社会の規律として、経営者のみの都合ではなく、株主、潜在的株主である一般投資家、消費者、従業員、地域社会など様々なステークホルダーの利益にも配慮しながら、公正な企業社会のために複雑な利害を調整するルールを提供する役割を第一義とすべきだろう。
さて、その観点からすると、かつて会社法の検討対象から外れてしまった「執行役員制度」(注2)だが、今回の見直しの議論では、会社法362条4項の取締役会の専決事項を見直して、取締役の仕事を減らす可能性が検討されている。取締役会の専決事項が減らされれば、その分が執行役員に権限委譲される範囲が増えるわけであり、その規律を再考察する必要があるのではないだろうか。他方において親子会社法制において、子会社役員の責任のあり方が問題とされている。その点においても、執行役員の規律という観点から再検討をする必要があるのではないか。
これまで、企業の自由に委ねられていた執行役員制度であるが、すでに会社経営においては大きな役割を果たすようになってきている。取締役の制度見直しを図るのであれば、使用人兼務取締役の問題と併せて、執行役員のあり方から目をそらすべきではないだろう。会社法の見直し内容によっては、再度、執行役員制度に対する規律の是非・内容についても触れてほしいところである。
ただ、直接に執行役員制度について議論も法制化もされなかったとしても、取締役会の権限が縮小されるなどの改正があれば、実務における執行役員制度の新たな展開を導くことは避けられないだろう。
(注1)大柳康司・関口了「コーポレート・ガバナンスと企業業績との関係一社外取締役・社. 外監査役・執行役員制に関するアンケート調査-」 『商事法務』第1594号。このほかの文献も引用して、総じて執行役員制度の消極的な評価をまとめているものとして、拙著「執行役員制度(第4版)」580頁(東洋経済新報社)参照。
(注2)その理由としては、執行役員が基本的に従業員であると整理されてしまったこと、その実態が多様であって会社法の規制を加えるには時期尚早であること、経済界も執行役員が規制されることを嫌ったこと等が挙げられている。
(掲載日 2011年1月11日)
次回のコラムは1月24日(月)に掲載いたします。