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判例コラム
(旧)コラム

 

第150回 中南米諸国のアメリカ合衆国との距離感

非常勤講師(大東文化大学・國學院大學・東海大学)
税理士 佐々木 雄一

昨今、中南米におけるアメリカ合衆国の経済面の影響力が低下しているといわれるが、ここでは、影響力の尺度の1つとして、経済協定のネットワークをみてみたい。対象としてアメリカ合衆国と中南米諸国との間で調印され、発効している多国間協定及び二国間投資協定として、FTA(自由貿易協定)、TPA(貿易促進協定)、TIFA(貿易及び投資枠組協定)及びBIT(二国間投資協定)をとりあげる。

FTAには、NAFTA(メキシコ)、チリFTA、ドミニカ共和国及び中米FTA、ペルーTPA(貿易促進協定)・コロンビアTPAおよびパナマTPAがあり、コロンビアとパナマとの条約だけが未発効である。現在、新たにエクアドルと交渉中である。BITは、アルゼンチン、ボリビア、エクアドル、ホンジュラス、ジャマイカ、パナマ、トリニダド・トバゴ、ウルグアイと締結している。TIFAには、CARICOM(カリブ共同体:カリブの15の島国から成る)TIFAとウルグアイTIFAが調印・発効済である。

締約されているBITは、投資保護に特化した協定内容となっているが、FTAおよびTPAにおいては、投資および知的財産の保護を網羅した内容となっている。BITだけ締約している国はエクアドル、ボリビア、アルゼンチンの3か国だけである。結局、中南米ではベネズエラ、ブラジル、キューバとパラグアイの4か国との間だけに何の協定も結ばれていない。

この4か国は、中南米諸国との間では、ブラジルとパラグアイがMERCOSURとしてFTAを締結している例外を除いてはBITのみを締結しており、ベネズエラはバルバドス、コスタ・リカ、エクアドル、ペルー、ボリビア、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチンの10か国と、ブラジルはキューバ、ベネズエラ、チリの3か国と、キューバはメキシコ、グアテマラ、バルバドス、ペルー、ボリビア、ブラジル、チリの7か国と、パラグアイはベネズエラ、チリ、コスタ・リカ、エクアドル、ペルーと締結している。

大雑把な分類を試みると、アメリカ合衆国と接点を持つ中米、カリブ海諸国と、アメリカ合衆国と接点の少ないブラジルを核とするキューバ、ベネズエラの国々、更にこれらの双方と接点を持つチリ、ペルー、コスタ・リカなどの国々に分かれているようである。 

一方、もともとBIT締結に積極的な欧州各国や、更にはキューバ、メキシコ、アルゼンチンなど中南米14か国とBITを締約している(内ペルー、チリとはFTAも締約)中国が、中南米諸国とアメリカ合衆国との隙間を埋めて、中南米全体に影響力を強めている。

(掲載日 2011年5月30日)

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