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早稲田大学教授・弁護士
道垣内 正人
作詞家で、「おニャン子クラブ」、「AKB48」などの仕掛け人である秋元康氏ほど時代を的確に読むことができる人も少ないと思うが、彼の最近のアイデアで感心したのはAKB選抜「総選挙」である。新発売のCDには投票券が同封されており、自分の支持する候補者(主にAKB48のメンバー)に投票するためにはCDの購入等の方法によって「選挙権」を得る必要がある。※1 しかも、熱意の程度が大きければCDを何枚も購入してよいわけで、人気の程度が投下された資金量で計られる仕組みとなっている。これは、ビジネスとして極めて合理的である。
このAKB選抜総選挙に倣って、日経ビジネス2011年7月11日号では、「エネルギー”総選挙”」という特集を組んでいた。各種のエネルギーが政党になっており、「原子力党」は「もう事故は起こしません」、「風力党」は「日本の追い風」など、それぞれの政党の選挙ポスターには気が利いたキャッチフレーズが記されている。
さて、法律学はサイエンスではなく、真実の発見で決着がつくことはないため、大小ほとんどあらゆる論点について学説は分かれ、対立している。そのため、通説、有力説、多数説、少数説、反対説、折衷説など、さまざまに言い表される学説が乱立している。そのような中で、司法試験を目指す法科大学院の学生は、判例の立場とともに、通説・多数説はどうなのかを把握すべく努力している。しかし、時として学生のいう多数説には違和感を抱くことがある。それは、学生が、やや古い時代の学説状況を前提に議論しているからであるように思われる。定評ある教科書は一定の年齢以上の方のものであり、中にはお亡くなりになった方のものもあって、現在の学界での議論状況は一般には見えないため、それは仕方ないようにも思われる。
しかし、情報化の進んだ現代にあっては、現在の学説状況を客観的に把握する試みがあってもいいのではないだろうか。上記の学説の位置づけのうち、通説や有力説という呼び方には微妙な価値判断が入っているためここでは措くとしても、少なくとも多数説・少数説は数の問題であり、「総選挙」をすれば決まるはずである。問題はその方法である。たとえば、次のような試みはどうであろうか。
学会の数は多く、相互に一部重なり合っているが、特定の学会の会員を有権者とする「総選挙」であることがはっきりしていれば、その選挙結果の評価は情報の読み手に委ねれば足りるであろう。
AKB選抜総選挙のように、学説に投票するために学会に入会して会費を支払おうという人はまずいないと思われるので、学説総選挙は学会運営費の確保には繋がらない。また、エネルギー総選挙のように結果がビジネスに直結するわけではないので、華やかな選挙戦は望めない。しかし、一定の条件のもとでのことであるという留保つきではあるものの、錯綜した学説状況の整理は、法律を学ぶ者を含む法曹界全体にとって、それなりに意味はあるのではないかと思われるが、どうであろうか。
(掲載日 2011年9月12日)
次回のコラムは9月26日(月)に掲載いたします。