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青山学院大学法務研究科(法科大学院)教授※1
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック※2
弁護士 浜辺 陽一郎
会社法見直しが進められている。その中で一つ気になる提案が、監査・監督委員会設置会社(仮称)の「提案」もしくは「解禁」なる議論である。法制審議会会社法制部会においても賛否は分かれているようだが、財界の意向を受けてか、一部の弁護士が熱心にその理論構築に励んでいる。
委員会設置会社のネックである指名委員会、報酬委員会を設けない監査委員会だけという体制は、経営者からすると恐らく採用しやすい形態である。しかも、あまり役に立っていないとの評価もある「監査役」を葬り去ることもできるが、表面的には監査役会が監査・監督委員会に変わるだけだといった説明もある。日本特有の監査役のようなものは廃止して、外国投資家にもなじみがある監査委員会にするのであれば、国際的にも通りがよいといったメリットなどが主張されている。
しかし、そうした新しい制度を一つの選択肢として認めるならば、せっかくの監査役型の良さが失われ、委員会設置会社の厳しいところの抜けた経営者に都合の良すぎる体制になってしまいかねないという問題がある。
もとより、委員会設置会社は、指名委員会と報酬委員会とセットで認められるものであるため、それがネックとなって多くの企業は委員会設置会社への移行には躊躇する状況にある。即ち、社長の権力の源泉である「個別の報酬決定権」と「次期取締役候補の決定権」という重大な権利を社外取締役が過半数を占める委員会に渡さなければならないというのだから、これを手放したくないと思うトップの意向を忖度すれば、委員会設置会社などは論外である。だから、いくら執行役に大幅な権限委譲ができるとか、スピーディな経営判断ができる等のメリットがあっても、委員会設置会社への移行に踏み切ることはできないのが日本のコーポレートガバナンスの現状である。
他方、監査役型の場合には、監査役会が何かを決めて個々の監査役を抑えようとしても、それはできない制度となっている。
個々の監査役が独自に調査権限を持ち、強力な権限を行使することもできる。ところが、監査委員会においては、独任制が否定され、委員会の決議に従わなければならず、各人の調査権限も委員会の定めた範囲内でしか認められないことになる。
その意味で、監査役制度は、少なくともトップをはじめとする経営陣をチェックする仕組みとしては、かなり強力なものなのである。
しかし、監査・監督委員会にさえしてしまえば、そうした目の上のたんこぶのような存在である監査役がいなくなってしまうのだ。
これは、監査が嫌いな経営者にとっては、あまりにも都合が良い話である。このため、本来のこの提案の理念がどうであるかは別として、ガバナンスに問題がある企業に限って、「監査・監督委員会設置会社」に移行してしまう恐れさえある。そうなれば、再び日本法における経営者にとっての「良いとこ取り」の制度によって、結果として経営者に対する制度的な牽制の弱体化を招くことになるだろう。一部の論者が監査・監督委員会設置会社の「解禁」という表現を用いているものがあるのは、こうした危険性を孕んでいる制度への道を開くかどうかという問題だからであろう。
もっとも、監査・監督委員会を許容する立場からすると、そんな監査役の権限は現実には使われておらず、ほとんど錆付いているのだから、監査・監督委員会にしても、大差はないという考え方もあるようだ。
しかし、監査役が取締役とは違う立場で、独立した立場から意見を表明することができる制度は、周囲の雰囲気や空気に流されてしまいがちな日本の組織において貴重な存在である。
せっかく、内部統制の制度化によって、日本の監査役が少しずつ機能し始めているのに、監査・監督委員会という「魅力的で都合の良い」選択肢ができてしまうと、本家の委員会設置会社は完全に潰れてしまい、実質的には公開大会社の選択肢は、監査役会設置会社なのか、監査・監督委員会設置会社なのかという選択ということになるだろう。委員会設置会社が少ないから、その代わりに監査・監督委員会設置会社を解禁するというのは、まったく合理的な目的でもない。
本来、会社法に期待されているのは、どうやって効率性が高く、健全性が確保できる、より望ましいガバナンスを構築するかという問題であったはずである。その本来の目的を忘れて、目先の使いやすさを口実として、日本のガバナンス体制に新たに歪な選択肢ができてしまうことを危惧する。
新たな選択肢を増やす制度に対しては、これが一般株主・投資家の期待するガバナンス改革であるのかという疑問も提起されている。実は、形式的には選択肢が増えるが、実質的には選択肢が増えてわかりにくくなるのが問題ではない。この問題は、制度としても監査役が取締役の仲間に取り込まれながら、委員会設置会社に見られるような牽制も働かない新しい形態を許容できるかどうか、即ち、機関設計の規制緩和もそこまでやっていいのか、が問われているものにほかならない。
(掲載日 2011年10月3日)
次回のコラムは10月17日(月)に掲載いたします。