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成城大学法学資料室
隈本 守
スマートフォンを利用していると、新しいアプリケーションソフト(以下、通称「アプリ」)を使うときや、アプリ、OSの更新の度に、[同意]が求められる。これはゲーム機やタブレット、パソコンなどネットワークに接続してプログラムをダウンロード、更新する機器ではいずれも日常的なことであるが、多くの人は、この同意の内容を理解することなく、場合によっては読むこともなく、「同意」をしている。
このような同意は時として社会的問題となる。この一例が最近問題となった、スマートフォンに特定のアプリを導入したところ、導入者の「同意を受けて」、そのアプリによって位置情報、アドレス帳、あるいはカメラの映像など、極めて個人的な情報が「同意者が知らないうちに」外部に送信され、この被害者数は数万件から数十万件にものぼった、というものである※1。ここでの同意は「同意をしないと先に進めないから同意をする」、「同意をしないと先へ進めないのだから内容に問題があっても同意をする。だから読んでも仕方がない」という感覚で行われているのが実態であろう。法律を扱うものからは怪訝に思われるところではあるが、このような同意は書面による場合でも同様かもしれない。しかしこれが、スマートフォンで大量に行われると異質の問題となる。
個々の情報流出とその同意の問題については、その有効性を争い、場合によっては取り消し、損害賠償などを求める。ここまでは書面による場合と類似の民事的対応の範疇である。しかし、スマートフォンが広範囲で利用されていることから、短期間であるにもかかわらず被害が広がったため大きな社会的混乱となった、その社会的責任については民事的な個別の問題とは別の問題と考えられる。また、同じ社会的問題のなかでも刑法ですでに規制されたコンピュータウイルスなどと違い、利用者本人がそのアプリの導入に際し、情報流出の危険を警告する通知画面を看過し、同意した上で流出している点、加えてパソコン利用者と比較しても老若男女を問わず多くの一般市民が被害者となる点が、今回新たな問題として認識されるところであろう。
もちろん、この問題に対しての一義的対策は、利用者個人が「同意」に注意を払う情報教育であろう。が、これとは別に、これから一層普及するネットワーク情報機器としてのスマートフォン等の利用において、今後も同種の問題が頻発することが充分想定されること。そして、その起こるべき被害、混乱が広範かつ、重大なものとなることも容易に想像されること。これらをあわせて考えるとき、情報機器に依存する社会において、故意に情報社会の基盤に障害を引き起こし、あるいはその社会の混乱を引き起こす行為は、電子計算機、電磁的記録関連犯罪に対応する法整備における新たな一類型として、対応が検討されるべき事案となるのではなかろうか。