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法律事務所アルシエン※1
共同代表パートナー 弁護士
木村俊将
オフィスビルのオーナーをとりまく経営環境が著しく悪化している。
定期的にビルオーナーが集まる勉強会や相談会に参加しているが、テーマや相談を受ける内容は共通している。以下、簡潔ながらビルオーナーの悩みの種を紹介し、その支援について述べる。
① 空室率の上昇、賃料水準の低下
オフィスの空室率は上昇の一途を辿っている。ここ数年間における東京都心5区のオフィス空室率を比較しても、2007年では年平均2.65%だったが、2011年には9.01%まで上昇している※1。空室率の上昇に伴い、賃料水準が下落している。東京都心5区のオフィスの平均賃料を比較すると、2007年には年平均で1坪21,998円だったが、2011年には1坪16,932円まで下落している※2。テナント確保のため募集賃料も下げざるを得ない状況がみてとれる。
弁護士としては直接リーシングに関与することはないが、随時リーシング業者を紹介する等の支援をしている。
② 賃料滞納
正確な滞納件数は把握できないが、賃料滞納に関する相談件数の増加を実感している。賃料滞納が発生すると減収となるだけでなく、テナントを退去させるための無用なコストがかかるので、経営上重大なリスク要因である。
滞納期間が長期化すると敷金の担保余力を超え、賃貸物件の原状回復費用等も持ち出しとなるため、ダメージを最小化するためには、賃料滞納が発生したら迅速かつ毅然とした対応をとることに尽きる。訴訟は相当の期間と費用を要するので、占有移転禁止の仮処分や即決和解の手続を利用して依頼者の負担を減らす工夫をしている。
③ 老朽化に伴う建替え
保有ビルが老朽化し、近い将来建替えを考えているオーナーも多い。建替えを進めるにあたってのテナント対応が悩みの種となる。建替えの時期が迫り、焦ってテナントとの間の賃貸借契約の更新を拒絶し、退去を申し入れる形となると正当事由を補完するために多額の立退料を支払うことになりがちである。
まだ余裕があるうちに耐震診断や建物検査を行い、その結果をテナントに周知し、「近い将来、建替えが必要」という意識を植え付ける。その上で、個々のテナントと協議し、徐々に定期賃貸借契約に切り替えていく。場合によってはテナントの移転費用を負担したり賃料を減額するなど、友好的な関係を維持しつつ、任意の移転を促すことが得策である。
④ 耐震診断義務化
平成23年4月1日、東京都では「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」(東京都条例第36号)及び同条例施行規則(東京都規則第22号)が施行され、対象となる建物所有者に耐震診断が義務付けられた。耐震診断にかかる費用は建物の規模によるが数百万円にのぼることも珍しくない。助成制度もあるが、全ての建物が助成の対象とはなるわけではなく、また助成の対象となっても補助支払の限度額がある。
耐震診断を行わないことは条例違反となるし、仮に耐震診断を行って結果が芳しくない場合には事実上、耐震補強工事を行う必要性に迫られる、という悩ましい問題である。
⑤ 後継者育成
ビルオーナーにとって後継者の育成も懸念事項である。長年培ってきたスキル・ノウハウを、自分が健在なうちに円滑に次世代に伝える必要がある。そこで、後継者向けに、興味がありかつ役立ちそうなテーマに絞り定期的にレクチャーを行う、オーダーメイドの研修を実施している。
以上のようにビルオーナーの悩みの種は尽きないが、今後も既存のリーガルサービスの枠にとらわれず、広い視野で支援していきたい。
(掲載日 2012年5月21日)
次回のコラムは6月4日(月)に掲載いたします。