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文献番号 2016WLJCC003
同志社大学
教授 高杉 直
1.はじめに
子の養育費の算定が問題となる場合、我が国では、いわゆる「養育費・婚姻費用算定表」が基準とされることが多い。しかし、養育費の算定基準は、国によって異なっている。そこで、扶養権利者(未成年子)と扶養義務者(親)が異なる国に居住する場合、どのような基準で養育費を算定するかとか、外国裁判所がその国の基準に従って算定した養育費の支払を命ずる判決を下した場合、その外国判決を日本で承認執行できるかが問題となる。特に外国判決が外国通貨建てで養育費を定めている場合には、その後の為替レートの変動等によって日本円で計算した養育費が大きく変動することがあり、この点をどのように考えるかも問題となる。
本判決は、我が国の算定表に基づく基準額を上回る養育費(米ドル建て)の支払を命じた米国カリフォルニア州裁判所の判決につき、日本での承認執行を認めた。
2.事実の概要
共に日本に住所を有する日本人であるX(原告・被控訴人)とY(被告・控訴人)は、平成8年に婚姻し、平成10年から平成16年の間に3人の子が生まれた。平成18年6月、XとYは、子らとともに、米国カリフォルニア州に移り住んだ。
平成23年2月、Xは、Yに対し、カリフォルニア州ロサンゼルス郡上級裁判所(本件外国裁判所)に離婚等請求訴訟(本件外国訴訟)を提起した。同年3月、本件外国訴訟の訴状がYに適式に送達され、Yは応訴した。
平成23年5月、Yは、単身日本に帰国したが、Xと子らは、現在も、米国カリフォルニア州に居住している。
平成24年11月、本件外国裁判所は、XとYとの離婚等のほか、Yに対し、子らの養育費として、原則として18歳に達する時点までの間、合計3416米ドルを支払うことなどを命ずる判決(本件外国判決)を言い渡し、この判決は確定した。
平成26年、Xは、本件外国判決につき執行判決を求める訴え(民事執行法24条)を東京地裁に提起し、原審(東京地判平成26年12月25日※2)は、Xの請求を認容した。
そこでYが控訴したのが本件である。Yは、本件外国判決後の為替レートの変動によって円換算した養育費の額が150パーセント以上増加したが、このような当事者の収入と関係のない偶然の事情によって養育費の額を定めることは、養育費の算定に「懲罰的」ないし「博打的」な要素を含めることに等しく、また、本件外国判決の命ずる養育費の額が日本における養育費の適正額を大幅に上回っていてYの支払能力を超え、日本におけるYの最低限の生活を侵害するから、本件外国判決の内容は我が国における公序良俗に反する(民訴法118条3号)などと主張した。
3.判 旨
控訴棄却。
「外国裁判所の判決の執行判決を求める訴えは,その判決が確定したことが証明されないとき,又は民事訴訟法118条各号に掲げる要件を具備しないときは,却下しなければならないものとされている(民事執行法24条3項)ところ,前提となる事実……によれば,本件外国判決は確定していること,民事訴訟法118条2号及び4号に掲げる要件並びに同条3号中本件外国判決の訴訟手続が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないとの要件を具備することが認められる。……
民事訴訟法118条は,外国で正当に追行された訴訟の結果としての判決について,我が国でも原則としてその効力が認められるべきであるとの判断のもと,同条各号に掲げる要件に適合する外国判決を法律上当然に承認するものであり,外国判決の内容が我が国の一般的な基準と合致しない場合があることは,その当然の前提となっている。そうすると,本件外国判決が支払を命じた額が我が国における適正額を上回っても,そのことのみから当然に本件外国判決の内容が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反するということはできない。そして,Yは,我が国における養育費の適正額は20万円から22万円程度であると主張するが,仮にそうであったとしても,後述するYの収入と対比すると,本件外国判決が支払を命じた養育費の額(Yがその主張において用いている為替レートである1米ドル当たり102円で換算すると,34万8432円になり,また,1米ドル当たり120円で換算すると,40万9920円となる。)が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反するというべきほど高額であるとは認められない。」※3
「我が国の民事執行法24条は,外国裁判所の確定判決が民事訴訟法118条所定の要件を具備する場合には,その効力を認める旨規定しているから,為替レートの変動があるというだけでは,当該外国判決の内容が我が国の公序良俗に反するとはいえない。そして,為替レートに変動がある以上,現実の負担額に増減が生ずることは常にあり得ることである。確かに,円安が進んだことから,Yの日本円による負担額は本件外国判決が出された当初よりも本件口頭弁論終結時において増加していることが認められる。しかし,X及び子らは現在も米国に居住していて,Xが米ドルで受領する養育費の額に変動はないこと,Yは,平成24年以降も年間約1400万円程度の収入を継続的に得ていて,本件外国判決が命じた額の養育費を支払っても,Yの生活に大きな支障が生ずるとは認め難いことからすると,本件外国判決後の事情を考慮しても,本件外国判決の内容の妥当性が失われているとはいえない。
以上によれば,本件外国判決の内容は,我が国の公序良俗に反しないものと認めるのが相当であるから,本件外国判決は,民事訴訟法118条3号の要件を具備するというべきである。」
4.本判決の意義と今後の問題
本判決は、親族関係に基づく扶養料の支払を命ずる外国裁判所の判決に関して、養育費が我が国における適正額を上回っていても、あるいは為替レートの変動があったとしても、それだけでは直ちに民訴法118条3号の「公序」に反するわけではないとの判断を示した。
扶養義務者が失職したなど外国判決後に事情の変更があった場合にも本判決と同様に外国判決の承認執行を認めてよいか、仮に減額などを認めるとすればどのような理論枠組みを利用すべきかなどの問題が残されているが、これらの問題については今後の議論が待たれる。
なお、平成27年10月9日の法制審議会第175回で、「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制の整備に関する要綱」が採択されている。近い将来、この要綱に基づき、養育費の支払を命ずる外国判決の承認執行や、国際的な養育費支払請求事件の国際裁判管轄権に関する法整備が行われる予定である。
(掲載日 2016年2月8日)