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判例コラム
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第83号 プロ野球の試合観戦中にファウルボールが観客の顔面に直撃し失明した事故について球団運営会社に対する債務不履行責任に基づく損害賠償請求を認容した事例 

~平成28年5月20日札幌高等裁判所判決※1

文献番号 2016WLJCC021
弁護士法人法律事務所オーセンス※2
弁護士 元榮 太一郎

〔はじめに〕

 札幌地裁平成27年3月26日判決※3 (以下「原判決」という。)は、プロ野球の試合を観戦中に打者の打ったファウルボールが顔面に直撃し失明した観客が、株式会社北海道日本ハムファイターズ(以下「被告ファイターズ」又は「控訴人ファイターズ」という。)、株式会社札幌ドーム及び札幌市に対し、損害賠償を請求した訴訟について、工作物責任及び営造物責任上の瑕疵を認定し、損害賠償請求を一部認容する判決を下した。原判決は、プロ野球の試合観戦中に生じた不慮の事故について、工作物責任及び営造物責任上の瑕疵を認定した判決として話題となった。

 これに対して、札幌高等裁判所は、球場に設けられていた安全設備等に工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵があったとは認められないとして、原判決の判断を変更し、被控訴人(原告)の控訴人らに対する工作物責任ないし営造物責任に基づく損害賠償請求をいずれも棄却する一方、被控訴人の控訴人ファイターズに対する債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求を一部認容する判決を下した。本判決は、話題となった原判決の判断を変更したものとして注目されるため、ここに紹介する。

〔事案及び原判決の概要〕

 原告が、平成22年8月21日、北海道札幌市豊平区所在の全天候型多目的施設である札幌ドーム(以下「本件ドーム」という。)において行われたプロ野球の試合(以下「本件試合」という。)を1塁側内野自由席18番通路10列30番の座席(以下「本件座席」という。)で観戦中、打者の打ったファウルボールが原告の顔面に直撃して右眼球破裂等の傷害を負い失明した事故(以下「本件事故」という。)が発生した。原告は、球団運営会社の、新しい客層を積極的に開拓する営業戦略としての、保護者の同伴を前提として本件試合に小学生を招待する企画(以下「本件企画」という。)に応じて、本件ドームに来場していた者であった。

  原告は、本件事故について、本件試合を主催し、本件ドームを占有していた被告ファイターズに対しては、ⓐ工作物責任、ⓑ不法行為又はⓒ債務不履行(野球観戦契約上の安全配慮義務違反)に基づき、指定管理者として本件ドームを占有していた株式会社札幌ドームに対しては、ⓓ工作物責任又はⓔ不法行為に基づき、本件ドームを所有していた札幌市に対しては、ⓕ営造物責任又はⓖ不法行為に基づき、損害賠償金及び本件事故日からの遅延損害金の支払を求めた。

 原判決は、本件ドームにおける安全設備等の内容は、本件座席付近で観戦している観客に対するものとしては通常有すべき安全性を欠いており、本件ドームには工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵があったと認められるなどと判断して、原告の被告らに対する上記ⓐ、ⓓ及びⓕの各請求を一部認容し、原告のその余の請求を棄却した。

 本件は、これに対して、被告らが、各敗訴部分を不服として控訴した事件である。

〔争点〕

 本件の争点は、①本件事故の態様、②本件ドームについての「瑕疵」(民法717条1項、国家賠償法2条1項)の有無、③本件ドームの管理・運営における過失の有無、④野球観戦契約上の安全配慮義務違反の有無、⑤損害、⑥過失相殺の当否及び⑦免責条項の適用の有無の多岐にわたる。その注目される主な争点は、②及び④であるため、以下では、この点について主に紹介する。

〔判旨〕

 本判決は、まず、②本件ドームについての「瑕疵」の有無について以下のように判示した。「民法717条1項……及び国家賠償法2条1項にいう……『瑕疵』とは、それぞれ当該工作物又は営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、上記各『瑕疵』の有無については、当該工作物又は営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。」「本件ドームは、……プロ野球の試合が頻繁に行われることが予定されている球場施設(以下『プロ野球の球場』ということがある。)であって、……本件事故もプロ野球の観戦中に起きたものであるから、本件ドームの『瑕疵』の有無については、プロ野球の球場としての一般的性質に照らして検討すべきである。」球場におけるプロ野球の試合観戦は、本質的に危険性を内在しているものであるから、「プロ野球の球場の所有者ないし管理者は、ファウルボール等の飛来により観客に生じ得る……危険の程度等に応じて、……安全対策を講じる必要がある……。」「他方で、プロ野球は、……国民的な娯楽の一つとなっているから、プロ野球の試合を球場で観戦する場合の……本質的・内在的な危険性も、少なくとも自ら積極的にプロ野球の試合を観戦するために球場に行くことを考える観客にとっては、通常認識しているか又は容易に認識し得る性質の事項であると解され、観客は、相応の範囲で、プロ野球……の観戦に伴う……危険を引き受けた上で、プロ野球の球場に来場しているものというべきである。したがって、……観客の側にも、基本的にボールを注視し、ボールが観客席に飛来した場合には自ら回避措置を講じることや、それが困難となりそうな事情……が観客側に存する場合には、予め上記危険性が相対的に低い座席……に座ることなどの相応の注意をすることが求められており、本件当時も、そのことが前提とされていたというべきである。」プロ野球の試合観戦の危険性をあまり認識していない者や自ら回避措置を講じることを期待し難い者(以下「本件保護者ら観客」という。)に対するプロ野球の試合観戦の危険性の具体的な告知や安全対策等は、「プロ野球の試合を主催する球団による興業の具体的な運営方法の問題というべきであって、仮にそれが十分に行われなかったとしても、当該球団と当該観客との関係で個別に安全配慮義務違反となる余地があり得ることは別として、通常の観客を前提として通常有すべき安全性を欠いているか否かを判断すべき上記『瑕疵』の有無を左右する事情とはいえない。」「また、……安全性の確保のみを重視し、臨場感を犠牲にして徹底した安全設備を設けることは、プロ野球観戦の魅力を減殺させ、ひいては国民的娯楽の一つであるプロ野球の健全な発展を阻害する要因ともなり……、……上記『瑕疵』の有無は、上記……のとおり……判断されるべきものである以上、プロ野球の球場として通常の観客がどの程度の安全設備を備えることを求めているか及びどのような野球場が現実に社会的に受容されているかということも、当然考慮されるべきであるから、臨場感の確保が安全性の確保とともに重要な判断要素となることは否定できない。なお、……本件事故当時においては、社会通念上、臨場感を犠牲にしてでも、安全性の確保を重視して、徹底した安全設備を設けるべきであるとの考えが一般的であったとは認められない。」「以上の諸事情に鑑みると、……プロ野球の球場に設置された物的な安全設備については、それを補完するものとして実施されるべき他の安全対策と相まって、社会通念上相当な安全性が確保されているか否かを検討すべきである。」「本件ドーム……における安全設備及びそれを補完するものとして実施されるべき他の安全対策について検討すると、本件ドームの1塁側内野席前に設置されていたグラウンドと観客席との間の内野フェンスの高さが、本件座席付近の前において、約2.9メートルであったこと、……本件当時に本件ドームにおいて実施されていた他の安全対策の内容……、本件当時の本件ドーム以外のプロ野球の各球場における内野席前のフェンス及び防球ネットの高さ、並びに公益財団法人日本体育施設協会が作成した『屋外体育施設の建設指針』……では、硬式野球場における内野フェンスの高さに関し、バックネットの延長上に外野席に向かって高さ3メートル程度の防球柵を設けるものと定められていたこと等……の各事実によれば、本件当時、本件ドームにおける上記内野フェンスの高さは、上記指針及び他のプロ野球の球場におけるフェンス等と比較しても、特に低かったわけではないことが認められる。上記の諸事情に照らすと、本件当時、本件ドーム……における上記内野フェンスは、本件ドームにおいて実施されていた他の上記安全対策を考慮すれば、通常の観客を前提とした場合に、観客の安全性を確保するための相応の合理性を有しており、社会通念上プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえ」ず、本件ドームに「瑕疵」があったとは認められないから、被控訴人の控訴人らに対する前記ⓐ、ⓓ及びⓕの各請求はいずれも理由がない。

 次に、本判決は、③本件ドームの管理・運営における過失の有無について、控訴人らには、十分な安全設備を設けるべき注意義務違反があったとは認められないとして、被控訴人の控訴人らに対する前記ⓑ、ⓔ及びⓖの各請求はいずれも理由がないとした上で、④野球観戦契約上の安全配慮義務違反の有無について、以下のように判示した。「被控訴人は、野球に関する知識も関心もほとんどなく、……硬式球の硬さやファウルボールに関する上記危険性もほとんど理解していなかったこと、そのような被控訴人が本件試合を観戦することになったのは、……本件企画に応じることとし、……本件ドームに来場したという経緯であったこと、本件座席は、内野席の最上部や外野席等と比較すると、相対的には……ファウルボールが衝突する危険性が高い座席であったが、本件企画において選択可能とされていた席であったことが認められる。」「本件企画を実施した控訴人ファイターズとしては、本件企画に応じて本件ドームに来場する保護者らの中には、……ファウルボールに関する……上記危険性をほとんど認識していない者や、小学生やその兄弟である幼児らを同伴している結果として、ファウルボールが観客席に飛来する可能性が否定できない場面であっても、試合中に多数回にわたってそのような場面が発生する度に、ボールを注視して自ら回避措置を講じることが事実上困難である者が含まれている可能性が相当程度存在することを予見していたか又は十分に予見できたものと解される。そして、控訴人ファイターズは、そのような者が含まれていることを暗黙の前提として本件企画を実施する以上、通常の観客との関係では、観客が上記危険性を認識した上で危険を引き受けているものとして、観客が基本的にボールを注視して自ら回避措置を講じることを前提に、相応の安全対策を行えば足りるとしても、少なくとも上記保護者らとの関係では、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、本件企画において上記危険性が相対的に低い座席のみを選択し得るようにするか、又は保護者らが本件ドームに入場するに際して、上記……危険があること及び相対的にその危険性が高い席と低い席があること等を具体的に告知して、当該保護者らがその危険を引き受けるか否か及び引き受ける範囲を選択する機会を実質的に保障するなど、……その……安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていたものと解するのが相当である。」「控訴人ファイターズは、……被控訴人ら家族の安全により一層配慮した安全対策を講じていたとは認められない……から、被控訴人に対し、債務不履行(上記安全配慮義務違反)に基づく損害賠償責任を負う……。」

 そして、本判決は、⑥過失相殺の当否について、本件事故における過失割合は、控訴人ファイターズが8割、被控訴人側が2割と認めるのが相当であるとした上で、⑦免責条項の適用の有無について、免責条項の合意が成立したとは認められない等として、被控訴人の控訴人ファイターズに対する前記ⓒの債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求を一部認容する判決を下した。

〔検討〕

 争点②について、原判決も本判決も、上記「瑕疵」の有無の判断要素を前提とした上で、「瑕疵」の有無の判断については、プロ野球の球場としての一般的性質に照らして検討すべきであり、プロ野球の球場の管理者ないし所有者は、観客に生じ得る危険を防止するため、その危険の程度に応じて、安全対策を講じる必要があるとしている。

 それにもかかわらず、原判決と本判決の争点②の結論が分かれた理由は、第1点として、本件ドームの「瑕疵」の有無を検討する際の、一般の観客の注意義務の内容及び程度の認定に関して、観客一般のプロ野球観戦の危険性に対する認識及びその危険の引受けに関する考え方に違いがあること、第2点として、プロ野球観戦の臨場感の確保の要請の考え方に違いがあること等にある。

 まず、第1点について、原判決は、本件ドームの「瑕疵」の有無を判断するに当たっては、プロ野球の球場において観客が観戦する場合の実態を踏まえた「通常一般の観客」に求められるべき注意義務の内容が含まれるとした上で、プロ野球の試合の主催者やプロ野球の球場の管理者ないし所有者は、プロ野球の観戦が格段に危険性の高いものであるとの一般的認識があるわけではない旨を認識していたはずであるから、野球のルール等を知らない観客の存在にも留意した安全対策を行うことが必要であり、また、プロ野球の試合観戦が、重大な傷害等を負う可能性があり、高度の注意義務を果たすべきであるものとして、広く国民一般に知られ社会的に受け入れられているとはいえず、プロ野球の球場を訪れる観客においても、周知され受け入れられているとはいえない等としている。その上で、原判決は、プロ野球の観客に求められる注意義務の内容について、打者による打撃の瞬間を見ていなかったり、打球の行方を見失ったりした場合には、自らの周囲の観客の動静や球場内で実施されている安全対策を手掛かりに、飛来する打球を目で補足するなどした上で、当該打球との衝突を回避する行動をとる必要があるという限度で認められ、かつそれで足りるとして、このような観客の注意義務を前提に、プロ野球の球場が通常有すべき安全性を備えるものであるかどうかを検討する必要があるとしている。これに対して、本判決は、上記のとおり、プロ野球の試合観戦の危険性の内在を前提として、少なくとも自ら積極的にプロ野球の試合観戦をするために球場に行くことを考える観客は、相応の範囲で、その危険性を引き受けているといえることから、相応の注意をすることが求められていたとしている。すなわち、原判決は、プロ野球の観戦の危険性が高いものであるとの一般的認識はないから、本件保護者ら観客を含む「通常一般の観客」に求められる注意義務の内容が上記で足りるとしているのに対して、本判決は、少なくとも自ら積極的にプロ野球の試合観戦をするために球場に行くことを考える観客(本件保護者ら観客を含まない「通常の観客」)は、プロ野球の試合観戦の危険性を通常認識している又は容易に認識し得るから、相応の注意義務が求められるとしているのである。たしかに、原判決の述べるとおり、プロ野球の試合観戦が、重大な傷害等を負う可能性があるものとして、広く国民一般に知られ社会的に受け入れられているものとはいえないであろう。しかし、本判決も述べるとおり、本件ドームの物的な通常有すべき安全性を論じるに当たっては、本件ドームの社会通念上の相当な安全性の確保の有無が検討される以上、「通常の観客」を前提とせざるを得ない。そして、プロ野球の娯楽としての要素に鑑みれば、一般的に、自ら積極的にプロ野球の試合を観戦するために球場に行くことを考える観客こそが、「通常の観客」であるといわざるを得ないであろう。また、プロ野球の試合観戦により重大な傷害等を負う可能性があることは受け入れていないとしても、プロ野球が我が国において国民的な娯楽の一つとなっていることを考慮すれば、その「通常の観客」は、プロ野球の試合観戦の危険性を通常認識している又は容易に認識し得ると解され、相応の範囲で、プロ野球の試合観戦の危険の引受けをしているといえるであろう。したがって、上記「瑕疵」の有無を判断するに当たって、本件保護者ら観客を含む「通常一般の観客」の注意義務を前提とした判断をした原判決は妥当でなく、第1点に関する本判決の判断は妥当であると考える。

  次に、第2点について、原判決は、被告らが、防球ネットを設置しないことにより、臨場感等を高め、観客を増加させているのであれば、これによって多くの利益を得ているのであるから、他方において、防球ネットを設置しないことにより、ファウルボールが衝突して傷害を負った者の損害を賠償しないことは、到底公平なものということはできないとしている(報償責任の原理)。これに対して、本判決は、上記のとおり、臨場感の確保が安全性の確保とともに重要な判断要素となることは否定できないとしている。たしかに、原判決の述べるとおり、報償責任の原理の考え方を持ち出すことも、価値判断として一考の余地があるものと考えられる。また、臨場感の確保の要請によって、多数の観客の身体等の安全が軽視されることは当然是認されるべきものではない。しかし、プロ野球の娯楽としての性質に鑑みると、臨場感の確保の要請と観客の安全性の確保の要請に関するプロ野球ファンの意見も尊重せざるを得ず、臨場感の確保が、観客の安全性の確保に必ずしも劣後するとはいえないであろう。すなわち、本判決も述べるとおり、「通常の観客」に含まれない本件保護者ら観客を前提として、危険がほとんどないような徹底した安全設備を設けることを法律上要求することは、プロ野球の娯楽としての本質的な要請に反する面があり、相当とはいえない。したがって、第2点に関する本判決の判断も妥当であると考える。

  争点④について、上記のとおり、本判決は、控訴人ファイターズは、「通常の観客」に含まれない本件保護者ら観客との関係では、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、本件保護者ら観客の安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っているとしている。この判断は、「通常の観客」を前提とした争点②の判断を踏まえた上で、本件ドームの物的な安全性により保護され得ない本件保護者ら観客の安全性を、契約の付随義務(安全配慮義務)として保護するものである。本件ドームの物的な安全性により保護されない観客が存在し得ることを前提とする以上、危険の具体的な告知により、「通常の観客」と同程度に危険を引き受けたといえる機会を実質的に保障すべきとする本判決の判断は妥当であろう。ただ、本判決の判断は、被控訴人が、「通常の観客」ではないことを前提とするものである。上記のとおり、本判決は、本件企画を実施する控訴人ファイターズは、「通常の観客」については、相応の安全対策を行えば足りるとしており、今後、「通常の観客」に対して同様の事故が発生した場合には、本判決と同内容の結論になるとはいえないことに注意したい。本判決の述べる、「通常の観客」に対する相応の安全対策の内容及び程度は不明であるものの、本判決を前提とすれば、少なくとも、「通常の観客」には危険の引受けが認められる以上、プロ野球の試合観戦の事故の結果は自己責任と判断される可能性が高いであろう。

  なお、本判決については、双方が上告しなかったため、判決が確定したようである。本判決が今後の球団運営等にどのような影響を与えるかが注目される。

(掲載日 2016年8月4日)

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