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判例コラム

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判例コラム

 

第101号 広域窃盗事犯の尾行とGPSを用いた追跡捜査 

~最高裁大法廷平成29年3月15日判決 窃盗、建造物侵入、傷害被告事件※1

文献番号 2017WLJCC009
日本大学大学院法務研究科
教授 前田 雅英

Ⅰ 判例のポイント

 捜査対象者の車に衛星利用測位システム(GPS)の発信器を取り付けた捜査の違法性について、判例の判断が分かれていたが※2、最高裁は大法廷を開いて、それが強制処分であることを明示すると共に、立法的措置がなされない限り、捜査の手段としては許容されないとした。検証許可状(あるいはそれと併せて捜索許可状)の発付を受けても、車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものなので、実質的に令状主義の趣旨を満たすことができないおそれがあり、そのおそれを回避するため、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等、令状に様々な条件を付するとすると、「令状審査を担当する裁判官により的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分」を認めることになって、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に反するとした。「立法的な解決が望ましいとした」との判示であるが、実質的には「立法によらなければ、GPS捜査は許されない」としたものといってよい。

Ⅱ 事実の概要

 最高裁が、原判決及び第1審裁判所の平成27年6月5日付け決定を基にまとめた事案の概要は「被告人が複数の共犯者と共に犯したと疑われていた窃盗事件に関し、組織性の有無、程度や組織内における被告人の役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として、平成25年5月23日頃から同年12月4日頃までの約6か月半の間、被告人、共犯者のほか、被告人の知人女性も使用する蓋然性があった自動車等合計19台に、同人らの承諾なく、かつ、令状を取得することなく、GPS端末を取り付けた上、その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査が実施された(以下、この捜査を「本件GPS捜査」という。)。」というものである※3

 第1審の大阪地裁は平成27年6月5日の証拠決定において、GPS捜査が「プライバシーを侵害するため、令状が必要な強制捜査に当たる」として令状なしの捜査を違法とし、本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定したが、その余の証拠に基づき被告人を有罪と認定した※4

 弁護側の控訴に対し、大阪高判平成28年3月2日※5は、本件捜査が強制捜査であるか否かについては正面から判示することはなかったが、①本件捜査で得られる情報は、対象車両の所在位置に限られ車両使用者らの行動の状況などが明らかになるものではなく、②車両位置情報を間断なく取得・蓄積し、過去の位置(移動)情報を網羅的に把握したものでも無く、③プライバシーの侵害の程度は必ずしも大きいものではなかったというべきで、④一審証拠決定のように、本件GPS捜査に重大な違法があるとは解されないとし、被告人の控訴を棄却した。

Ⅲ 判旨

 最高裁は、有罪の結論を維持して上告を棄却したが、GPS捜査の適法性等に関する原判決の判断は是認できないとして、以下のように判示した。

 「(1) GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。

 (2) 憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

 (3) 原判決は、GPS捜査について、令状発付の可能性に触れつつ、強制処分法定主義に反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できないと説示しているところ、捜査及び令状発付の実務への影響に鑑み、この点についても検討する。

 GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の「検証」と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、「検証」では捉えきれない性質を有することも否定し難い。仮に、検証許可状の発付を受け、あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても、GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。さらに、GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。

 これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。

 以上のとおり、GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

 (4) 以上と異なる・・・説示に係る原判断は、憲法及び刑訴法の解釈適用を誤っており、是認できない。」

 ただ、本件GPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠の証拠能力を否定する一方で、その余の証拠につき、同捜査に密接に関連するとまでは認められないとして証拠能力を肯定し、これに基づき被告人を有罪と認定した第1審判決は正当であり、第1審判決を維持した原判決の結論に誤りはないから、原判決の法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすものではないとして、上告を棄却した。

Ⅳ コメント

 本判決において、決定的なのは、GPSを用いた捜査のプライバシー侵害の重大性の評価にある。

  下級審の中には、広島高判平成28年7月21日※6のように、「車両は、通常、公道を移動し、不特定多数の者の出入り可能な駐車場に駐車することが多いなど、公衆の目にさらされ、観察されること自体は受忍せざるを得ない存在である。車両の使用者にとって、その位置情報は、基本的に、第三者に知られないですますことを合理的に期待できる性質のものではなく、一般的にプライバシーとしての要保護性は高くない」とした高裁判例もある。同判決は、その上で、「少なくとも、本件のような類型のGPS捜査」は、法定の厳格な要件・手続によって保護する必要のあるほど重要な権利・利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う捜査活動とはいえず、任意処分であるとした。

  それに対し、本判決は、GPS捜査を類型的・一般的な形で問題とし、「その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする」とし、「このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものである」としたのである。ICT社会に移行した中で、「プライバシー侵害の大きな機器」の持つ、人の視力や聴力を大きく超えた「可能的情報把握力」を重視し、捜査機関がそれを利用することには、厳しい法的制約が必要だとし、一般的には、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきであるとしたのである。

  まさに、プライバシー侵害の重大性の評価は、法的価値判断そのものであり、本件大法廷の判断が当面の基準とならざるを得ない。それと異なる判断は、今後は否定されることになる。

 これに対し、本件原審である大阪高判平成28年3月2日は、「少なくとも、本件GPS捜査に重大な違法があるとは解されず、・・・強制処分法定主義に違反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できない。」としていた。ただ、GPS捜査一般に関しては、対象車両使用者のプライバシーを大きく侵害するものとして強制処分に当たり、無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしていたのである。

  本判決は、個々のGPS捜査の違法性を論じるというより、類型としてのGPS捜査の合憲性・合法性を論じる色彩が強い。そして、①GPS捜査というものは、その性質上、対象者の所在と移動状況を逐一把握することが可能で、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うもので、個人のプライバシーを侵害し得るもので、②そのような機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う捜査は、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは質的に異なる「私的領域への侵入」を伴うものなので、③そのような捜査は、「私的領域に侵入されることのない権利」をも保障する憲法35条の趣旨から、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとしたのである。ここでは、「現に権利が具体的に侵害されたか否か」というより「権利を侵害し得る捜査手法であること」が重視されている。

 同じく、プライバシー侵害を伴う捜査手法である「令状なしに行う写真(ビデオ)撮影」については、最決平成20年4月15日(刑集62・5・1398)※7が、「捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なもの」であると判断した。「類型として強制処分に当たる」とはせず、①重大犯罪が問題となっており、②犯人の特定という重要な判断に必要な証拠資料を入手するためで、③公道上など、他人から容ぼう等を観察されること自体は通常受忍せざるを得ない場所での撮影なので、手段として相当であるとしていたのである。しかし、本判決は、GPS捜査は、「カメラで撮影したりするような手法」とはプライバシー侵害の程度が異なるとしたのである。

 GPS捜査についても、下級審の中には、最決平成20年4月15日と同様の判断構造により、個別具体的な捜査について、その違法性を判断する解釈方法が見られたが、本判決は、明確に強制処分として位置づけた。この点は、覚せい剤が入っている疑いのある宅配便小包のエックス線検査を強制処分とした最決平成21年9月28日(刑集63・7・868)※8が存在することから、予想されていたことといえないことはない※9。最高裁は、承諾を得ることなく荷物(小包)に外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察した捜査方法について、「その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たる」としたのである※10

 ただ、最決平成21年9月28日は、エックス線検査については、「検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって、検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法であるといわざるを得ない」と判示したのであり、検証令状をとっていれば、同検査を行うことは可能であった※11

  それに対して、本判決は、「一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべき」としつつ、GPS捜査は、①刑訴法上の「検証」と同様の性質を有するものの、対象車両及びその使用者の所在の検索を行うもので、「検証」を超えた性質を有し、検証令状には馴染まず、②令状により対象となる車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができない、③同捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うものなので事前の令状呈示を行うことは想定できず、④事前の令状呈示に代わる公正の担保の手段が制度化されていないので、同捜査を適法化する令状が考えにくく、これらの問題を解消するため、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等が考えられるが、その内どのような手段を選択するかは、立法府に委ねられた問題で、立法を行わずに、現行刑事訴訟法下での「令状」を発付することには疑義があるとした。プライバシー侵害の程度の差もさることながら、GPS捜査は登場してさほど時間を経過したものではなく、しかしその間の「精度」の変化が著しいことなどもあり、従来の「令状による規制」の方法の枠を超える面があることが影響しているといえよう。

 かつて、強制採尿に関し、令状があれば所持している尿を強制的に取得することができるとしても、現行法上、強制的に排尿させることを内容とする種類の令状はないし、そもそも人格の尊厳を侵すもので令状があっても許容し得ないという議論がある中で、最決昭和55年10月23日 (刑集34・5・300)※12は「強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないというべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」とした。

  しかし、GPS捜査に関して本判決は、許容し得る「強制の処分」とするために令状に条件を付し、事案ごとに担当裁判官の判断により選択が行われる強制の処分を認めることは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に沿うものとはいえないと断じたのである。

  もとよりここでも、GPS捜査の「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う手法」という類型的評価が影響しているが、IT機器の「進化」も関連しているように思われる。

 本件補足意見は、GPS捜査一般を強制捜査とし、立法が行われない以上、それを用いて得られたものはすべて証拠能力を欠くとすることは妥当とはいえないと考えている。生命の侵害の危険を伴うような、ごく限られた極めて重大な犯罪の捜査のため、その必要性が極めて高く、対象車両の使用者の行動の継続的、網羅的な把握が不可欠であるような場合には、正当化される余地を認めるべきであるとする。非常に傾聴に値する内容であるが、多数意見を前提とする限り、捜査機関がGPS捜査を実施する可能性はほぼなくなったといわざるを得ない。捜査の現場では、他の新たな捜査手法を研究・模索していくべきである。また、機器の利便性に頼りすぎることなく、伝統的な捜査方法を着実に実施することも重要となろう。

  なお、本判決により、プライバシーの保護が今まで以上に重視され、写真撮影、尾行、防犯カメラの利用等、プライバシー侵害を伴う「広い意味での捜査手法」が制限されるというわけではない。「広い意味でのプライバシー侵害」を伴わない尾行は考えられないのであるが、尾行を限定すべきだとしているわけではない。本判決も、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法はGPS捜査とは異なることを認めている。あくまで「公権力による私的領域への侵入を伴うもの」が問題とされているのである。

 本判決は、「GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。」とするが、日本において、刑事立法は非常に困難で時間がかかる。通信傍受がその典型例であったが、不正指令電磁的記録に関する罪も、条約締結後10年を経て完成する。強制執行関係の刑法改正などは、成立したときには、立法事実がほとんど無くなってしまっていた。特に、IoTの世界は日々刻々、急激なスピードで変化発展している。2~3年が経過すると、状況は全くの「別物」に変わっていく。そして、「職業的犯罪者集団」は捜査目的のGPS機器に注意を払い、かなりの部分が「回収」されてしまっていると聞く。GPS捜査は「今後も広く用いられ得る有力な捜査手法」とはいいきれない。少なくとも、立法作業に莫大なエネルギーをかけて、急いで手に入れなければならない捜査手法ではないかもしれない。むしろ課題は、科学技術の進歩を踏まえた新しい捜査関連ツールの開発と、その内容を「国民の視点から見て許容し得るもの」としていく作業にあるように思われる。

(掲載日 2017年3月22日)

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