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判例コラム

 

第124号 特殊詐欺に途中から加わった『受け子』の共同正犯の成否 

~最高裁平成29年12月11日決定 詐欺未遂被告事件※1

文献番号 2017WLJCC032
日本大学大学院法務研究科
教授 前田 雅英

Ⅰ 判例のポイント

 いわゆる「振り込め詐欺」に代表される特殊詐欺事案の被害額は、刑事司法の懸命の取組にもかかわらず、現在に至るまで、高水準を保っている。そこで、捜査機関では「だまされたふり作戦」を実施し、かなりの数の検挙者が報告され、一定の成果を挙げていると考えられてきた。しかし、本決定の第一審判決※2は、同作戦で検挙された、いわゆる「受け子」、すなわち、氏名不詳の者が虚偽の電話をかけて被害者に送らせた荷物(現金)を受け取るよう依頼された者について、詐欺未遂罪の共同正犯の成立を否定し無罪とした。この他にも、下級審において、だまされたふり作戦に関連し、無罪判例が登場する(名古屋高判平成28年9月21日Westlaw Japan文献番号2016WLJPCA09216006、拙稿・WLJ判例コラム98号参照)。特殊詐欺を担当する捜査機関にとっては、「困惑する裁判例」であった。
 そのような中で、最高裁が、これらの判断を実質的に否定する判断を示した。本決定は、「被害者が途中で詐欺と見破っていても共犯者と共謀して(荷物を)受け取った場合、詐欺未遂罪の共同正犯の罪に問い得る」とした。これにより、だまされたふり作戦は、基本的に継続されることになろう。ただ、詐欺における電話をかける(欺罔)行為と金品受取を一体の詐欺行為とみなす判断は、捜査実務のみならず、共犯論をはじめとして刑法理論にも大きな影響を与えることになろう。

Ⅱ 事実の概要

 最高裁は、原判決 ※3の認定を踏まえて、本件の事実関係を、「Cを名乗る氏名不詳者は、平成27年3月16日頃、Aに本件公訴事実記載の欺罔文言を告げた(以下「本件欺罔行為」という。)。その後、Aは、うそを見破り、警察官に相談してだまされたふり作戦を開始し、現金が入っていない箱を指定された場所に発送した。一方、被告人は、同月24日以降、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、氏名不詳者から報酬約束の下に荷物の受領を依頼され、それが詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつこれを引き受け、同月25日、本件公訴事実記載の空き部屋で、Aから発送された現金が入っていない荷物を受領した(以下「本件受領行為」という。)」という形でまとめている。
  第一審判決は、被告人が共謀・加担したのは本件欺罔行為より後の時点であるから、承継的共同正犯の成否が問題となるとした上で、本件荷物は被害者が「だまされたふり作戦」として発送したものであるから、その受領行為は詐欺の実行行為には該当せず、被告人が詐欺の結果発生の危険性に寄与したとはいえないなどと判示して、被告人を無罪とした。
 検察官が控訴したところ、原判決は、被告人が欺罔行為後の共謀に基づき被害者による財物交付の部分のみに関与したという事実関係を認定し、これを前提として、だまされたふり作戦の開始にかかわらず、被告人については詐欺未遂罪の共同正犯が成立するとし、これを認めなかった第一審判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとして、第一審判決を破棄し、被告人を懲役3年、5年間の執行猶予に処した。

Ⅲ 判旨

 最高裁は、被告人の上告を棄却し、「特殊詐欺におけるいわゆるだまされたふり作戦(だまされたことに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が、捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法)と詐欺未遂罪の共同正犯の成否について、職権で判断する」として、以下のように判断した。
 「被告人は、本件詐欺につき、共犯者による本件欺罔行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。…したがって、本件につき、被告人が共犯者らと共謀の上被害者から現金をだまし取ろうとしたとして、共犯者による欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めた原判決は、正当である。」

Ⅳ コメント

(掲載日 2017年12月25日)

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