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文献番号 2019WLJCC008
京都女子大学 教授
岡田 愛
Ⅰ はじめに
本件は、団地管理組合法人が、専有部分で使用する電力について電力会社と一括して高圧電力の供給契約をすることを目的として総会決議を行うとともに、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けることなどを定めた細則を定めたにもかかわらず、解約申入れをしない建物所有者Y(被告)らに対して、他の建物所有者X(原告)が、Yらが解約申入れをしないことにより割安な電力を受けられず損害を被ったとして、不法行為に基づく損害の賠償を求めた事案である。
原審はXの請求を認めたのに対して、本件最高裁は、電力の一括供給を決定した総会決議及びそのために定めた細則のうち、団地建物所有者等に専有部分で使用する電力の供給契約(以下「個別契約」という。)の解約申入れを義務付ける部分は効力を有しないと判断し、Yらの行為は不法行為に該当しないとして、Xの請求を棄却した。
電力の一括供給をめぐるマンションの決議及びそれに基づく規約の効力が示された最高裁判決は本件が初めてである。本件最高裁の見解に従うと、専有部分を含めた一括受電契約を実現しようとして総会で決議をしても、供給の前提となる個別契約の解約申入れを各区分所有者に法的に求めることはできないことになる。本件最高裁の判断により、マンションや団地において今後一括受電契約を締結しようとする場合には、全戸から同意を得なければならなくなるため、マンション管理の実務にも一定の影響が生じるといえよう。
また、現在多くのマンションで割安な一括受電方式での電力供給契約を締結しているが、本件最高裁の判断がすでに一括受電契約を締結しているマンションにも及ぶのか否か、その射程範囲が今後問題になると考えられる。
Ⅱ 事実の概要と判決要旨
1 事実の概要
判旨及び新聞記事によると、以下のような事実が認められる。
本件のX(管理組合の元理事)及びYは、いずれも札幌市内の区分所有建物5棟から成る総戸数544戸のマンションの団地建物所有者である。本件マンションでは、平成26年8月の通常総会の特別決議(4分の3以上の賛成)で、専有部分の電気料金を削減するため、本件団地管理組合法人が電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結して、各団地建物所有者等が電力の供給を受ける方式(いわゆる一括受電契約)へ変更をする旨の決議がされた。また、平成27年1月に開催された臨時総会では電気設備に関する団地共用部分の規約を変更し、その細則として、本件高圧受電方式以外の方法で電力の供給を受けてはならないことなどを定める旨の決議がされた。この決議は、団地建物所有者等に、個別契約の解約申入れを義務付ける内容を含むものであった。
しかし、Yら2名がこれに反して解約申入れをしなかったため、一括受電を実施できなかった。このため、XがYらに対して、専有部分の電気料金が削減されないという損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償(約9100円)を請求した。
2 判決要旨
本件最高裁は、①高圧受電方式への変更をすることとした一連の決議のうち、個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決する事項であって、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)66条で準用する法17条1項(共用部分の変更に関する規定)又は法18条1項(共用部分の管理に関する規定)の決議としての効力はないこと、②決議とは別に細則で解約申入れを義務付けることを定めたとしても、その部分は、法66条で準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」に該当しない以上同項の規約として効力を有しないとした。②のように解した理由として、「団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである」としている。
Ⅲ 検討
1 判旨①について
団地建物所有者に対する個別契約解約申入れの義務付けが、法66条で準用する法17条と法18条で定める共用部分の変更又は管理に該当するか否かにつき、本件最高裁は、共用部分の変更又は管理について集会の決議で決めることができる事項に該当しないとして、決議の効力を否定する。これに対して原審は、電力が団地共用部分から専有部分に供給されていることを根拠に、個別契約解約申入れを義務付ける決議は共用部分の変更又は管理に関する事項であると解していた。
両者の見解の違いは、原審では電力供給の物理的部分に着目して判断されたのに対し、本件最高裁では、いわばソフトの部分を重視されたことから生じたといえるであろう。
これまで、電力供給の物理的関係性について判断した判例は見当たらなかったが、上下水道の配管についての先例は散見される。水道の配管も、電力供給と同じように共用部分と各専有部分にのみ供される枝管とがあるが、マンションの特定の専有部分のみが使用する排水の枝管について、法2条4項の共用部分と解する最高裁判例がある(最判平成12年3月21日 判時1715号20頁、WestlawJapan文献番号2000WLJPCA03210001。他に排水の枝管を共用部分とした事案として、東京地判平成28年11月8日 WestlawJapan文献番号2016WLJPCA11088018、また、ベランダ部分の排水管を共用部分と認めた事案として、東京地判平成26年11月25日 WestlawJapan文献番号2014WLJPCA11258012)。これに対し、専有部分への水道の供給のためにのみ存在する水道支管について、建物部分の附属物にほかならないとしてマンションの共用部分に当たらないとした事案もある(東京地判平成5年1月28日 判タ853号237頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA01280009)。また、特定の専有部分にのみガスを供給するための枝管について、利用関係や設置場所、点検等の方法などを検討して、共用部分にあたらないとした事案がある(東京高判平成30年5月23日 WestlawJapan文献番号2018WLJPCA05236001)。いずれの事案も、配管が建物全体から見てどのような状態で敷設されているかなどを勘案し判断されている。今回の事案の原審も、専有部分の電力供給が共用部分である設備を通じてなされることを理由に決議の効力を認めており、電力供給に必要となる設備の物理的状況を勘案したうえで、個々の電力供給契約は共用部分の変更又は管理に含まれる付随的な事項と解したと考えられる。しかし、本件最高裁は、このような物理的状況には触れず、専有部分で使用する電力の供給契約は、専有部分の使用に関する事項であるとした。このような判断には、水道とは異なり、電力供給事業者を個人が選ぶことができるという、2016年4月から実施されている電力自由化も背景にあるのではないかと考えられる。
2 判旨②について
法30条では、区分所有者相互間の事項について広く規約で定めることを認めており、区分所有者の団体の私的自治を尊重している(規約自治の原則)。したがって、区分所有者間の利害の衡平に反するような内容でない限りは、区分所有者は団体の意思決定に従うことになるが、本件最高裁は、本件の規約はそもそも法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」に含まれない事項を定めたものであり、効力を生じないと判断した。
法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」について規約で定めることができる旨規定している。その具体的内容として、「建物」については共用部分だけではなく、専有部分についても、その管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項については規約で定めることができると解されている(ペットの禁止など)。なお、「管理」の具体例として、建物を維持するために必要な共用部分の補修など、また「使用」の具体例としては、専有部分の居住目的以外の使用禁止(民泊利用の禁止)などがある。今回の事案は、専有部分の電力供給に関する事案であり、建物の管理又は使用に含まれそうであるが、本件最高裁は、「団地建物所有者相互間の事項(法30条1項の「区分所有者相互間の事項」)」に該当しないとした。
この点、専有部分の電力供給契約について電気料金の負担部分を定める規約が法30条1項の規約事項に含まれるか争われた事案として、東京地判平成23年7月28日(WestlawJapan文献番号2011WLJPCA07288003)がある。1階が店舗、2階以上が居住用となっているマンションの規約で各店舗等の電気料金の負担部分の算定方法を規定していたが、この規約をめぐり争われた事案において、東京地裁は、「本件マンションの1階店舗部分及び共用部分は、本件マンションの区分所有者が共有する変電設備室及びキュービクルを介して配電されている構造となっているため、管理組合である原告が業務電力契約を締結して電気料金を支払っていることが認められるから、このような電気料金の負担に関する本件規約は、区分所有法30条1項の建物の管理又は使用に関する区分所有者相互間の規約事項を規定するものというべきである。」、法30条1項は「規約事項について「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」と規定し、共有部分に限定していないから、専有部分についても規約事項とすることができると解される。」として、電力供給契約に基づく電気料金の負担についても法30条1項に従い、規約で定めることができるとの判断を示していた。
また、直接的に規約の効力を争った事案ではないが、横浜地判平成22年11月29日(判タ1379号132頁、WestlawJapan文献番号2010WLJPCA11297002)がある。この事案は、本件と同じく、団地で電力の一括供給を受けることを総会決議したにもかかわらず、その決議に従って個別の電力供給契約を解除しない区分所有者1名について、法6条1項に定める共同利益違反行為にあたるとして、法59条1項に基づく競売申立てが認められた事案である。本件と異なり、決議に従わなかった区分所有者が以前から他の事柄で繰り返しトラブルを起こしていたり、団地の受電設備が老朽化していたなどの事情があり単純に比較できない部分があるが、判決では、一括受電契約をする旨の総会決議が有効であることを前提に判断がなされている。
これに対して本件最高裁は、物理的状況には触れず、他の団地建物所有者等の専有部分の使用等に影響を及ぼさないこと、また変更されないことによる不利益の度合いを勘案して、規約で定めることができる事項に含まれないと判示した。
Ⅳ まとめ
本件最高裁判決により、専有部分の一括受電契約締結の前提となる、個別契約の解約申入れを義務付けることは、法17条1項又は法18条1項の共用部分の変更又は管理に含まれず、また、法30条1項で定めることのできる規約事項にも含まれないことが示された。これまで規約による自治を重視してきた法の趣旨からすると、その限界を示す判例として注目される。
今回の事案は、これから一括受電契約をするための規約の変更に関する事案であるが、仮に、すでに一括受電契約を定めていた場合に、後からの購入者等にもその規約の拘束力を認めるのか否か(認めるのであれば、すでに割安な電力を受けている他の区分所有者等への影響を勘案することになると考えられる)など、今後新たな問題が生じる可能性がある。
(掲載日 2019年4月8日)