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判例コラム

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判例コラム

 

第167号 形態模倣(不競法2条1項3号)における観察の仕方 

~知財高裁平成31年1月24日判決※1

文献番号 2019WLJCC012
弁護士法人苗村法律事務所※2
種苗法研究会メンバー※3
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子

1. はじめに

 不競法には、形態模倣(2条1項3号)といわれる類型があり、いわゆるそっくりさんの形態について、他人の商品の最初の販売から3年間ではあるが、模倣を禁じ、その違反行為に対して、差止め、損害賠償を認めている。需要者の視点で観察するか否かで、そっくりさんかどうかの観察の仕方について大きく異なることとなったように思われるのが、このサックスのストラップ事件の原判決※4と本件判決(控訴審判決)である。
 間違い探しのように、重要と思われる部分を拡大して並べて比べれば、その違いに目がいくが、サックスストラップの購入者、すなわち需要者が、そのような見方でストラップを見て購入する訳ではないであろう。全体を比較すれば、一部だけを微細に見るのとは違い、似た点が印象に残る。原審が、先の方法をとったのに対して、控訴審は、商品全体が形態としての保護を受けるとして、全体を観察して、原告商品と被告商品の実質的同一性を判断したように思う。おのずと判断は分かれ、原審が、原告、被告の商品が似ていないと判断したのに対して、控訴審は、実質的同一性がある、デッドコピーだと判断した。私自身は、控訴審判決の観察方法の方が、取引の実態に即しているのではないかと思う次第である。

2. 事案の概要

 模倣というためには、実質的な同一性に加え、依拠性が要件となるため(不競法2条5項)、本件控訴審判決は、控訴人(原告)と被控訴人(被告)の関係について詳細に認定している。大要すると、控訴人代表者は、勤務先で、サックス用ストラップの開発、販売の責任者であったところ、旧型の「バードストラップ」や、原告商品の旧モデルを開発し、その後控訴人を設立して、このサックス用ストラップの製造販売事業を勤務先から承継した。控訴人代表者と被控訴人代表者は、雑誌の編集長の紹介で知り合ったのち、バードストラップの販売等のビジネスを行った。その後、控訴人代表者は、被控訴人代表者から、被控訴人の販売するサックスの付属品として、旧モデルを仕入れたい旨の申入れを受けたが、値段が折り合わなかったため、合意に至らず、その後平成27年の取引を最後に、控訴人、被控訴人の取引はなくなった。
 控訴人は、平成28年3月頃、旧モデルをモデルチェンジした原告商品を完成し、同月ウェブサイトやフェイスブックで変更点等を紹介したうえで、原告商品の販売を始めた。一方、被控訴人は、同年5月頃に新たなサックス用ストラップの開発を依頼し、同年8月に被告商品が完成し、同年11月頃から販売を開始した。

3. 原告商品の形

 商品形状は、正確に理解してもらうには、私が文章で記すよりも、判決添付の写真※5を見てもらうのがよい。この商品の中心となるのは、サックスの演奏者が首から下げる革パッドの先にある、V型プレートといわれる部分であり、この部分が旧モデルと大きく異なり、全体としてスリムなものとなっている。

4. 原審の判断

 原判決は、まず、旧モデル(判決では、旧原告商品)と原告商品の実質的同一性の有無について判断し、V型プレートは、商品の形態において実質的に変更されたものであり、その特有の形状が美観の点において保護されるべき形態であるとして、原告商品と旧モデルは異なる、したがって、保護期間の開始時点である、最初に販売された日は、旧モデルの最初の販売日ではなく、原告商品の最初の販売日(平成28年3月頃)だとし、いまだ3年を経過していないと判断した。
 次に原判決は、被告商品が原告商品と実質的に同一であるかを判断するにあたっての基準を示し、「被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるか否かについて検討するに、旧原告商品の不競法2条1項3号による保護期間が経過した後であっても原告商品が同号の保護を受け得るのは、そのV型プレートの変更部分が商品の形態において実質的に変更されたものであり、その特有の形状が美観の点において保護されるべき形態であると認められるからである以上、・・・同号の趣旨からすれば、同号による保護を求め得るのはこの部分に基礎を置く部分に限られるというべきである。」と述べた。
 そして、原告商品のV型プレートと、被告商品のV型プレートの異同を、比較写真を判決の別紙として、これに沿って述べた。実は私は、この写真でも、どこがそんなに違うの?という印象を持ったのだが、原判決は、真ん中部分の4つの穴のうち、上二つの穴の位置の違い、真ん中部分の形状が、原告商品では中央部分にくぼみがあるのに、被告商品ではこれがないこと、両翼の角度、先端部分の形状が異なるとし、これらの違いから、被告商品は原告商品と実質的に同一ではないと判断した。

5. 控訴審の判断

  控訴審判決は、原判決とは、異なる順序で判断し、まず、原告商品と被告商品の実質的同一性について判断した。そして、その前提として、商品の形態(不競法2条4項)が、不競法2条1項3号の保護を受けるのはありふれたもの以外だとして、ありふれた形態であるかは、商品を全体として観察して判断すべきであり、全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断することは相当ではないとし、被控訴人が提出した他業者の商品と比較して、原告商品がありふれたものでないとの認定をした。
 そのうえで、旧モデルとの同一性については、原判決と同じくV型プレートが一見して明らかに異なること、この部分が需要者の注意を惹きやすい部分であることを踏まえると、この部分の相違により、「原告商品から受ける商品全体としての印象と旧原告商品から受ける商品全体としての印象は異なるものといえるから、原告商品の形態は、全体としても、旧原告商品の形態とは実質的に同一のものではなく、別個の形態であるものと認められる」として、原告商品の形態は、その全体が、不競法2条1項3号の保護を受けるとした※6
 控訴審判決は、そのうえで、原告商品と被告商品を全体として比較し、原判決が着目したV型プレートの両者の相違を含め、細部の違いはささいだとして、被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一だとした。
 そして、控訴審判決は、控訴人と被控訴人の関係から、被控訴人が被告商品の開発を依頼した先を含め、控訴人の商品について販売当時からウェブサイト、フェイスブック等から原告商品の形態にアクセスし、原告商品の形態を知ったうえで、これと酷似した形態の商品を作り出すことを認識していたと認定し、依拠性も認めて、被告商品が原告商品の模倣品であると認定した。

6. 商品形態の比較と観察方法

 原判決、控訴審判決ともに、原告商品の形態における特徴がV型プレートであるとした点は共通している。原告商品は、控訴人も認めるように、旧モデルをモデルチェンジしたもので、その変更点の中心は、このV型プレートであった。
 しかし、このV型プレートへの着目において、原判決と控訴審判決で原告商品と被告商品の形態の観察方法は、ずいぶんと異なる。
 原判決は、旧モデルと原告商品の形態の大きな違いはV型プレートの形状にあることを意識し、ここにこそ原告商品固有の形態があるとして、「V型プレートの変更部分が商品の形態において実質的に変更されたものであり、その特有の形状が美観の点において保護されるべき形態であると認められるから・・・同号による保護を求め得るのはこの部分に基礎を置く部分に限られるというべきである。」として、このV型プレートの形状を細部にわたって、被告商品と見比べる観察方法をとった。原判決がこのような観察方法をとったのは、それまでの判例を踏まえてのことと思われる※7。これに対し、控訴審判決は、実質的変更があったのは、V型プレート部分であることは認めつつも、この新たなV型プレートの形状により、原告商品の形態全体が、不競法2条1項3号の保護の対象になるとして、原告商品と被告商品の全体を比較したのである。冒頭にも述べたが、全体を比べれば、総体としては、酷似しているといえ、細部の違いは、控訴審判決が述べるとおり、「ささいな」ものと見える。

7. 比較方法の違いと不競法の趣旨

 原判決も控訴審判決もともに、不競法2条1項3号の趣旨は、他人が資金、労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらず、ことさら模倣した商品を、自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為は、模倣者においては、商品化のための資金、労力や投資のリスクを軽減することができる一方で、先行者である他人の市場における利益を減少させるものであるから、事業者間の競争上不正な行為として規制したものと判示しており、その理解は全く共通している。にもかかわらず、実質的同一性の判断が真逆になったのは、この周知表示規制的視点や、意匠法的視点などいくつかの視点を組み込んだ目的の理解に若干、何に重点を置くか、その比重が違っているからのように思える。原判決は、より意匠法的に、控訴審判決は、より周知表示規制的に、目的を解釈したのではないだろうか?
 判断手法については、その保護目的から、学説も様々に分かれているようである中※8、私のような者がいうのは僭越ではあるが、比較観察の方法については、問題となっている商品の需要者の視点を加味してはどうかと思われる。確かに、需要者の混同は要件ではないから、周知表示規制のような離隔観察までは必要ないであろうが、対比観察をするにしても、その商品の需要者であれば、どのようにその商品の形態を見るであろうかという視点で観察すると、その商品にあった比較ができるのではないだろうか?不競法2条4項は、商品の形態につき、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状・・・」と規定し、需要者の視点に立って商品の形態を見るように述べていることからしても、実質的同一性についても、需要者の視点から観察方法を考えればよいと思われる。
 このような需要者、本件では、サックスの楽器演奏者の視点で、サックスストラップの形態をみてみると、サックス演奏者がサックスストラップを買おうとして商品を見る場合には、V型プレートにだけ注目して商品を選ぶのではなく、全体を見て商品を選択すると考えられる。したがって需要者の視点で見れば、おのずと商品全体を観察することになる。控訴審判決は、需要者云々といったことに言及しておらず、商品全体の形状を見るべきという、しごく当然のことを述べているように思われるが、需要者の視点で観察をしたように思われる。
 どこまで、商品の形態を保護するかは、難しいところであるが、需要者目線で、商品比較をした控訴審判決の方が実際の取引の実情に沿ったもののように思われる。

(掲載日 2019年5月13日)

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