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第169号 居住用建物清掃サービスのフランチャイズにおいて、元加盟店の競業避止義務違反を理由に営業差止と違約金の支払が認められたが、元加盟店が本部の作成した写真を無断で使用した点についての違約金が減額された裁判例 

~東京地裁平成30年10月26日判決・平成29年(ワ)第41259号※1

文献番号 2019WLJCC014
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝

1.事案の概要と争点

 本件の原告は居住用建物清掃サービスのフランチャイズ・チェーンを展開する本部であり、被告はその元加盟店である。
 被告は本フランチャイズ契約を自ら中途解約した後も、居住用建物清掃業を継続していたため、原告は、被告に対して競業行為の差止と違約金(ロイヤルティの40ヶ月分)の支払を求めて訴訟を提起した。また、被告は、自己のウェブサイトで本部が作成した著作物(エアコン洗浄の様子を撮影した写真)を掲載していたため、原告は、本部写真等の無断使用を理由とした違約金の支払もあわせて請求している。
 これに対し、被告は、競業避止義務の対象事業が広範に過ぎる等として、競業避止義務違反を理由とする営業差止等が公序良俗違反ないし権利濫用に当たると主張した。そこで、本稿では、競業行為の範囲について説明する。
 また、本件では主たる営業活動(競業行為)についての違約金の他に付随的な営業活動(宣伝広告活動)についての違約金もあわせて請求されていることから、それぞれの違約金の調整についても触れることにする。

2.契約終了後の競業避止義務の有効性

  1. (1)  まず、前提として契約終了後の競業避止義務の有効性について説明する。
     フランチャイズ契約終了後の競業避止義務については加盟店の営業の自由の要請が強く働くことから、加盟店にとって過度な制約であってはならない。公正取引委員会も「特定地域で成立している本部の商権の維持、本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと」は優越的地位の濫用に当たると指摘している(「フランチャイズ契約に関する独占禁止法上の考え方について」3(1)ア)。そのため、契約終了後の競業避止義務については、①禁止される業務の範囲、②禁止される場所、③禁止される期間の3点において限定されることが必要とされている。
     しかし、下級審裁判では、契約終了後の時間的制限や場所的制限のない場合でも、「フランチャイズ契約における競業避止義務規定全部を過度の規制であり公序良俗に反するものとして無効と解する必要はなく、適用する場面において、それが過度の制限に当たらないかを判断すれば足りる」と判断したもの(東京地判平14.8.30 WestlawJapan文献番号2002WLJPCA08300019)、契約終了後2年間という時間的制限はあるが場所的制限の定めのない場合に、本部が元加盟店の住所地を中心に半径5kmの範囲内に限定して営業停止を求めたことに照らして、契約終了後の競業避止義務も有効であるとしたものがある(東京地判平22.2.25 WestlawJapan文献番号2010WLJPCA02258008)。
     このように、時間的制限や場所的制限のない場合でも、契約条文の文言だけで直ちに当該競業避止義務条項が無効とされることはなく、実際の適用場面が過度の制限に当たらないならば、競業避止義務規定を有効と解するのが現在の裁判実務といえる。
     本件フランチャイズ契約書では、競業行為が禁止される場所は特に限定されていなかった。しかし、原告が訴状において元加盟店に対して営業禁止を求めた地域は静岡県浜松市内に限定されていたことから、実際の適用場面は過度な制限に当たらない。そのため、本件裁判所も競業避止義務を有効と判断した。
  2. (2) なお、本件では元加盟店(被告)は契約終了時に競業避止義務の内容を再確認する誓約書を本部(原告)に差し入れている。労働契約上の競業避止義務においても「競業避止義務が定められた退職時誓約書を差し入れるということは、従業員側としても、当該誓約書において制限される具体的な競業避止義務を十分に認識していると思われる以上、退職時の方がかかる合意が有効になりやすいのではないか」と考えられていることに照らせば(高谷千佐子「秘密保持義務・競業避止義務・引抜きの法律相談」201頁)、独立した事業者である加盟店が契約終了時に誓約書を差し入れれば、競業避止義務の有効性はさらに補完されると考えられる(東京地判平30.6.21 WestlawJapan文献番号2018WLJPCA06218002も同様)。

3.禁止される競業行為の範囲

  1. (1)  被告(元加盟店)は競業禁止の範囲が広すぎるとして「フランチャイズ契約によって知り得た独自のノウハウや同じく入手した特殊器材を使用したハウスクリーニング業」のように範囲を限定すべきであると主張していた。そのため、禁止される競業行為の範囲が問題となる。
     競業行為の概念については、まずは契約条項の文言から判断されるが、最終的には「その事業の類似性の程度により、社会通念によって個別具体的に判断」することになる(東京地判平11.9.30 判時1724-65・ WestlawJapan文献番号1999WLJPCA09300019:スパークルウォッシュ事件)。過去の裁判例では、通常の居酒屋チェーンに加盟していた元フランチャイジーが他の海鮮居酒屋のチェーンに加盟した事案で競業避止義務違反が認められたもの(東京地判平16.4.28 WestlawJapan文献番号2004WLJPCA04280003)、串焼きフランチャイズ・チェーンの元従業員が居酒屋を営んだ事案において、業態の類似性、主要商品の共通性、従業員の引継ぎなどを理由に競業避止義務違反が認められたものがある(東京地判平20.9.25 WestlawJapan文献番号2008WLJPCA09258015)。
     本件競業避止義務条項では、「居住用建物の清掃を主な内容とする清掃サービスと同種の事業」が競業行為として禁止されていた。ここでの業務の対象物は「居住用建物」であり業務内容は「清掃サービス」であるから、上記裁判例と比較しても十分に特定されているといえよう。
  2. (2)  さらに、本件裁判所は、本チェーンの加盟店が1000店を超えること、本部が加盟店に対して研修や営業支援を行っていること、このようなフランチャイズ・チェーンの構築や運営には多大な資本やノウハウが投入されていることは公知の事実であることなどを理由に、本部が「居住用建物の清掃業」の差止を求めることは、必要かつ合理的な範囲であると判断した。すなわち、競業行為の範囲を判断する上で、本部が(元)加盟店に提供したノウハウの実績や提供の方法なども考慮されている。その意味で、競業行為の範囲が争点となった場合、本部としては自社のノウハウの内容をできるだけ具体的に主張立証する必要があるといえよう。具体的な立証方法としては、チェーン業務の実態の報告書、運営マニュアル、研修スケジュールなどを証拠として提出することになる。

4.競業避止義務違反を理由とする違約金

  1. (1)  本件では契約終了後の競業避止義務違反を理由に月額ロイヤルティの40ヶ月分相当額の違約金が認められている。
     違約金についてはロイヤルティの30ヶ月分程度にとどめる例が多いが(東京地判平6.1.12 WestlawJapan文献番号1994WLJPCA01120001、東京高判平8.3.28 WestlawJapan文献番号1996WLJPCA03280012、東京地判平7.2.27 WestlawJapan文献番号1995WLJPCA02270006)。ロイヤルティの60ヶ月分や(大阪地判昭61.10.8 判タ646-150・WestlawJapan文献番号1986WLJPCA10081002)、加盟金の3倍額(1500万円、東京地判平21.1.27 WestlawJapan文献番号2009WLJPCA01278006)が違約金として認められた例もある。本件ではロイヤルティ自体が月額4万1100円と低額であったことから、ロイヤルティの40ヶ月分(164万4000円)の違約金も有効とされたと思われる。
  2. (2)  被告は自己のウェブサイトで本部が作成した著作物(エアコン洗浄の様子を撮影した写真)を掲載したことから、本部は、本部の著作物を無断使用したことについての違約金をあわせて請求している。
     しかし、これについて本件裁判所は違約金の額を10分の1に減額した。その理由として、本部が直ちに写真の削除を求めなかったこと、訴状送達後被告が直ちに本件写真を削除したこと、無断掲載された写真がエアコン洗浄の様子を撮影した写真1枚であったことなどが挙げられている。本件裁判所としては、主たる営業活動(競業行為)自体の違約金について本部の請求額の全額を認めたことから、付随的な営業活動(宣伝広告活動)についての違約金は、実害の発生の程度に照らして相当な範囲に減額したものと評価できる。(元)加盟店の違反行為が複数の条項に抵触する場合(例えば、元加盟店が本部が提供したマニュアルを使用しながら競業行為をした場合は、秘密保持義務違反と競業避止義務違反が生じる)、それぞれの違約金の調整が問題となるので、今後の裁判例の蓄積に注目したい。

(掲載日 2019年6月10日)

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