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判例コラム

 

第181号 携帯電話とカーナビのワンセグ機能はNHK受信契約を導くか 

~最高裁判所第三小法廷平成31年3月12日決定と東京地方裁判所令和元年5月15日判決~

文献番号 2019WLJCC026
中央大学法科大学院 教授
佐藤 信行

1.はじめに

 周知のように、日本においては日本放送協会(以下「協会」または「NHK」という。)が公共放送を担っているが、そのあり方については、ここ数年多くの訴訟で争われている。とりわけ、最高裁判所大法廷は平成29年12月6日に、放送法が公共放送の財政基盤として、受信設備設置者に対して受信契約の締結を強制するという方法を採用していることの合憲性を認め、この点に係る違憲の主張を退けると共に※1、NHKが主位的に主張したNHKからの受信契約締結の申し出がなされれば、一定期間後に契約が成立することとなるという受信契約強制の手法を否定し、個別に承諾の意思表示を命ずる判決を要するとの判断を示して、受信契約に係る基本的な枠組みを確定した※2
 爾後、論点は、より詳細な放送法の解釈をめぐるものとなっているが、その論点の一つが、放送法64条1項にいう「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」「放送の受信を目的としない受信設備」とは何かという点である。そこでは、(a)ワンセグ放送※3を受信できる携帯電話やカーナビが、「協会の放送を受信することのできる受信設備」に当たり、かつ、これを使用可能な状態に置く者が「受信設備を設置した者」に当たるか、またこれに該当した場合において、(b)そのような携帯電話やカーナビを使ってNHKを受信する意思がない場合に、それが受信契約を要しない「放送の受信を目的としない受信設備」に当たるか、という問題が争われてきている。
 こうした中、東京地方裁判所は、令和元年5月15日に、ワンセグ機能を有するカーナビを自家用車に装備した者も「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当し、NHKとの間で放送受信契約を締結する義務を負うとの判断を示した※4。この判決は、それまでのワンセグをめぐる訴訟が携帯電話に係るものであったのに対して、カーナビに係るはじめての判断であったこと、さらには、ワンセグ携帯電話を保有する者が「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するとの高裁判決に対する上告を退けた最高裁判決※5後はじめての下級審判決であったことから、注目をもって迎えられた。そこで、以下においては、先行する諸判決と共に同判決を紹介し、若干の検討を加えることとしたい。

2.ワンセグ携帯をめぐる先行判決

 放送法64条1項本文は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に対してNHKと放送受信契約を締結する義務を課している。その標準的な形は、自宅にテレビ受像機を据え置くことであるが、2011年に地上波アナログ・テレビジョン放送から全面移行したデジタル放送において、1チャンネルが用いる5.57MHzの周波帯域を13セグメントに区分した上で、これを12セグメント(フルセグ)と1セグメント(ワンセグ)に分けて利用し、後者をもって携帯電話や移動体端末向けの部分受信サービスとすることが認められたことから、携帯電話やカーナビ等にワンセグ受信機能を持たせることが一般化した。そこで、問題となったのが、このような携帯電話を保有することやカーナビを自家用車に装備することが「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置」することといえるか、ということであった。
 この点についての訴訟では、携帯電話の問題が先行して争われてきた。地方裁判所の判決としては、次のようなものがある。

  1. (1) さいたま地判平成28年8月26日(2016WLJPCA08266001
     ワンセグ機能つき携帯電話について、それを携帯するに過ぎないものは、受信設備を「設置」したとはいえないとして、受信契約義務不存在確認を認容した。
  2. (2) 水戸地判平成29年5月25日(2017WLJPCA05259001
     ワンセグ機能つき携帯電話について放送受信契約を締結し受信料を支払った者が、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たらないので、受信契約は錯誤無効であるとして、既払受信料の返還を求めたところ、それが否定された。
  3. (3) 東京地判平成29年10月11日(2017WLJPCA10118007
     被告NHKが、ワンセグ携帯を所有していれば受信料の支払義務があると放送したところ、ワンセグ携帯を所有していてもNHKとの受信契約の締結義務がないという意見を有する政治団体である原告が、この意見と同趣旨のさいたま地方裁判所の判決もあるので、本件放送は、視聴者に虚偽の情報を提供するものであって、放送法4条1項3号及び4号に抵触し違法であると主張すると共に、原告の選挙運動や政治活動に大きな被害を受けたなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。判決は、「原告の上記意見とは異なる意見に基づく内容の放送をしているにとどまり、その内容も放送法64条1項の解釈の相違に起因するものであるから、そのことによって、原告の意見表明に対して圧迫、干渉を加えるものとも、原告の社会的評価に影響を与えるものとも見ることができず、原告に一定の不快感を与えたことの外は、原告の主張をみても、原告の見解の真偽につき問われることにつき一定の対応をした程度のものにとどまっている。以上のような、本件番組の性質、本件放送の内容、意見の対立状況、原告の不利益の程度等を考慮すると、本件放送については、著しく相当性を欠くものとはいえず、不法行為法上、違法であるということはできない」として、請求を退けた。
  4. (4) 大阪地判平成29年10月13日(2017WLJPCA10136005)
     原告が所持していたテレビ受信機を譲渡し、ワンセグ放送対応の携帯電話以外に被告NHKのテレビ放送を受信できる機器を所持しなくなったことから、解約事由を満たしたとして解約申出をしたことにより契約は解約されたと主張して、被告に対し受信料として支払った金員について不当利得返還請求をしたが、これが否定された。
  5. (5) 東京地判平成29年12月27日(2017WLJPCA12276002
     ワンセグ機能付き携帯電話について放送受信契約を締結した原告が、ワンセグ機能付き携帯電話を保有している者は放送法64条1項にいう「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たらないから、本件契約は強行法規に反し民法90条によって無効であり、また、民法94条1項によっても無効であるなどと主張したが、これが否定された。
      このうち、(1)は、ワンセグ機能付き携帯電話自体は、「被告の放送を受信することのできる受信設備」であることを認めつつ、立法や法改正の経緯を検討して、「放送法64条1項の『設置』を受信設備を使用できる状態に置くことと解することはできず、本件携帯電話を携帯するにすぎない原告は『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』に該当しない」として、他の判決(争点が異なる(3)を除く。)が、携帯電話を保有する者は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するものと判断したことと結論を異にする。そこで、上級審の判断が待たれていたが、(1)の控訴審である東京高等裁判所は、「放送法64条1項の定める『設置』には、同法制定当時においては、受信機を物理的に一定の場所に備え置く場合だけではなく、携帯型受信機を携行する場合も含めていたと解され、その後の同法の改正においても、これが変更されたと解すべき事情がないことからすれば、同条項の『設置』には『携帯』も含むとすべきである。」として※6、さいたま地裁判決を覆した。さらに、上告を受けた最高裁判所は、最三小決平成31年3月12日※7において、上告を棄却しまた上告受理をも認めないとしたことから、高等裁判所判決が確定することとなった。すなわち、ワンセグ機能付き携帯電話を所持する者は、NHKとの間で放送受信契約を締結する義務を負うとの規範が確認されたのである。
      なお、上記(b)の点については、(a)のレベルで原告の主張を認めた(1)の地裁判決とそれが争点となっていない(3)を除き、「放送の受信を目的としない受信設備」か否かは、当該受信設備が設置されている目的が客観的に放送の受信を目的としているか否かによって判断すべきであって、設置者の主観的な目的によって左右されるものではないと解すべきとされている。
      こうした中、東京地方裁判所は、令和元年5月15日に、ワンセグ放送を受信できるカーナビゲーション(以下「本件カーナビ」という。)を自家用自動車に装着することが放送受信契約を義務づけるとの判断を示したのである。以下では、この判決を紹介する。

3.本案前の争点

 日本放送協会放送受信規約が受信契約を①地上契約(地上系によるテレビジョン放送のみの受信についての契約)、②衛星契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送の受信についての契約)及び③特別契約(地上系によるテレビジョン放送の自然の地形による難視聴地域又は列車、電車その他営業用の移動体において、衛星系によるテレビジョン放送のみの受信についての契約)に分けているところ、本件カーナビではそもそも衛星系の受信ができないことから②及び③の契約がありえないことは原告及び被告に争いはない。このような場合において、②及び③の放送受信契約の締結義務が存在しないことについての確認の利益があるか否かで主張が対立したが、裁判所は確認の利益を否定し、専ら①の契約についてのみ検討している。以下、本稿でも①の契約についてのみ述べる。

4.原告の主張

 原告の主張は、(a)自らは「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たらず、また仮にこれに当たるとしても、(b)当該カーナビは、受信契約を要しない「放送の受信を目的としない受信設備」に当たるので、放送受信契約の締結義務がないというものである。具体的には、まず(a)については、「放送法64条1項所定の『設置』とは、一定の場所に備え置くことを意味するものであり、本件カーナビの設置場所は、自動車保管場所証明書に記載される自動車保管場所である原告の自宅敷地…内である。同所では、被告の放送の電波が届いておらず、被告の放送を受信することができないから、原告は、『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』に該当しない」とする。また、(b)については、本件カーナビは「自動車ナビゲーションのために購入したものであって、テレビ放送を受信するために購入したものではない。原告は、本件カーナビでワンセグ放送を受信したことはなく、今後も受信する予定はないから、本件カーナビは『放送の受信を目的としない受信設備』に該当する」というものである。

5.被告の主張

 被告NHKは、上記(a)(b)いずれの点についても主張を異にする。まず(a)については、「放送法64条1項所定の『設置』とは、被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことを意味する」とした上で、本件カーナビの自家用車への設置はこれに当たり、原告は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するとする。この際、 自家用自動車は、一般に、移動のために使用するものであり、常に所有者の自宅敷地内に停められているということは想定できず、カーナビのワンセグ機能は、一般に、自宅敷地内ではなく、当該自動車での移動中に又は移動先で利用することが想定されるのであるから、「自宅敷地内においては、自家用自動車に設置されたワンセグ機能付きカーナビにより被告の放送を受信することができない場合であっても、自家用自動車の通常の使用により自宅敷地外へ移動すれば、被告の放送を受信することができるのであるから、『協会の放送を受信することのできる受信設備』を使用できる状態に置いていることとなる。」としている。
 次に(b)については、「放送の受信を目的としない受信設備」とは、「電波監視用の受信設備、電気店の店頭に陳列された受信設備、公的機関の研究開発用の受信設備、受信評価を行うなどの電波監理用の受信設備等、放送の受信を目的としないことが客観的、外形的に明らかな場合をいうものと解される。受信設備の設置者が実際に放送を視聴していなかったり、主観的に放送の受信を目的としない意思を有していたりしたとしても、そのことをもって、当該受信設備が『放送の受信を目的としない受信設備』に該当することにはならない」として、本件カーナビの該当性を否定している。

6.本件判決

 本件判決は、「本件訴えのうち、原告の住所地において、契約種別を衛星契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分及び契約種別を特別契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分を、いずれも却下する」とした上で、原告のその余の請求を棄却した。
 まず上記(a)については、「放送法64条1項にいう『設置』とは、広く、被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことをいうと解するのが相当である。受信規約1条2項が『設置』について『使用できる状態におくことをいう。』と規定しているのも、このような解釈を前提にしたものであるといえる」として、原告の主張を退けている。その根拠として本件判決は、平成29年12月6日最高裁大法廷判決を引用して、被告NHKが「特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が被告に及ぶことのないようにし、現実に被告の放送を受信するか否かを問わず、受信設備を設置することにより被告の放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、被告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべき」であって、「被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、実際に放送を受信しているか否かにかかわらず、被告との間で放送受信契約を締結して受信料を支払わなければならないものというべき」とするほか、「本件カーナビの『設置』場所を自家用自動車の保管場所に限定し、その場所における受信可能性の有無のみによって放送法64条1項本文該当性を検討するとすれば、受信料の負担につき不公平な結果を招来」することを指摘している。
 また上記(b)については、(a)と同じく「被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって被告の財源を賄うこととした受信料制度の趣旨」を根拠として、「『放送の受信を目的としない受信設備』に当たるか否かについては、当該受信設備を設置した者の主観によるのではなく、放送を受信し、これを視聴しない目的であることが、客観的、外形的に認められるか否かにより判断するのが相当である」とし、「本件カーナビは、原告が所有し、使用する自家用自動車に取り付けられたものであるから、放送を受信し、これを視聴しない目的であることが、客観的、外形的に認められるとはいえない。原告がワンセグ放送を受信するために本件カーナビを購入したものではなく、実際にワンセグ放送を受信したことがなく、今後受信する予定がないとしても、そのような主観があることをもって、『放送の受信を目的としない受信設備』に該当するということはできない」としている。

7.研究

 本件判決は、これまでのワンセグ放送を受信できる携帯電話に係る一連の判決と同様、カーナビを装備した者についても、放送受信契約の締結義務が生じるとしたものである。その論理構造も携帯電話に係るものと、ほぼ同一であるといってよい。
 そこで争われた具体的な問題は、放送法64条1項の「設置」の解釈である。一連の判決は、そもそも携帯電話であれカーナビであれ、ワンセグ放送を受信できる機能を有している以上、それが「受信設備」に当たるとの前提に立ち、問題を「設置する」ということの意味に帰着させているのである。
 この点、一連の判決の中で最も詳細な検討が行われているのが、平成28年8月26日さいたま地裁判決である。この判決では、まず、NHK受信料は租税ではないものの、放送受信契約締結義務及び受信料の負担については、憲法84条(租税法律主義)及び財政法3条の趣旨が及ぶ国権に基づく課徴金等ないしこれに準ずるものとして、課税要件明確主義に従った厳格な法解釈が必要であることを指摘する。その上で、放送法2条14号が「設置」と「携帯」を区別している中で、同64条1項の「設置」には「携帯」が含まれるとする解釈は取り得ないとする。すなわち、「設置」概念を導入した昭和27年放送法改正の段階においては、移動体機器を受信機とするテレビ放送が予定されていたとはいえないから、受信契約との関係における「設置」(当時は放送法32条1項)とはまさしく「設け置く」という意味であって、後の平成21年及び22年改正において「移動受信用地上放送」や「移動受信用地上基幹放送」の定義として「携帯」という文言が放送法に取り入れられることになったにもかかわらず、受信契約との関係における「設置」については、改正が行われていない以上、その意味は変化していないと解すべきであるとするのである。また、同判決は、他の法令において「設置」が目的物を一定の場所に設け置くという意味ではなく、観念的な意味で用いられている場合があり、そこから放送法の「設置」も「使用できる状態に置く」という意味であるという解釈や、同じ放送法の有料放送に係る規定において「設置」には「携帯」が含まれるのであるから、同法64条1項についてもそのように解すべきとの主張について、いずれも、同法64条1項には課税要件明確主義が及ぶことを指摘して、これを否定している。
 これに対して、同判決の控訴審判決(平成30年3月26日)は、放送法が制定された昭和25年段階で、携帯ラジオが存在していたことを指摘して、当初から「設置」には「携帯」が含まれていたとの解釈を採用する。そこでは、平成29年12月6日最高裁大法廷判決にも言及があるが、結論を導いた主たる根拠は、上記の立法・法改正過程を踏まえた条文の文言解釈である。
 他方で本件判決は、こうした立法・法改正経緯については言及することなく、また細かい文言解釈に踏み込むこともなく、平成29年12月6日最高裁大法廷判決を引用した上で、「公平な費用負担を求める受信料制度の趣旨に鑑みると、被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、実際に放送を受信しているか否かにかかわらず、被告との間で放送受信契約を締結して受信料を支払わなければならないものというべきである。したがって、放送法64条1項にいう『設置』とは、広く、被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことをいうと解するのが相当である。」としている。
 もとより、判決の論理構造は、当該訴訟における当事者の主張を基礎とするから、本件判決が、携帯電話に係る平成28年8月26日さいたま地裁判決及び同30年3月26日東京高裁判決と異なり、放送法の立法過程や他法令との比較を用いていないことの理由の一つは、そこに求めることができよう。しかし、他方では、平成29年12月6日最高裁大法廷判決が、先例として定着してきているという点も指摘すべきものと思われる。同判決は、早くは翌平成30年1月24日の東京地裁判決※8で引用されて以来、最高裁自身の判決※9を含め、数多くの判決で引用されており、「公平な費用負担を求める受信料制度の趣旨」から多くの論点に回答を導くものとして用いられている。本件判決も、そうした流れの中に位置付けられるものということができよう。
 しかしながら、私見によれば、このような本件判決を含む一連の判決の論理構造は、必ずしも盤石なものではなく、換言すれば平成29年12月6日最高裁大法廷判決に加重な負担を強いているようにも思われるところである。同判決で最高裁判所は、受信契約強制について、「特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が原告に及ぶことのないようにし、現実に原告の放送を受信するか否かを問わず、受信設備を設置することにより原告の放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、原告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない」と述べ、テレビを保有する者全体に受信契約締結義務を課すことが立法裁量の範囲内にあり、違憲ではないとしている。しかし、この公平負担論による正当化がどこまで可能であるのか、換言すればその判決の射程がどこまで及ぶのかについては、実は、同判決からは決して自明ではないのである。
 たとえば、令和元年6月5日に公布された「放送法の一部を改正する法律」(令和元年法律23号)は、NHKの番組のインターネット同時配信解禁を定めている。もとより、現行法体系は「放送」と放送以外の「電気通信」(インターネットはこちらに含まれる)を截然と区分しているので、現行法の「解釈」としてインターネット・ユーザ全体に「『放送』受信契約」を強制することはできないが、NHKの公共性や費用公平負担論を強調して、インターネットへのアクセス環境を有する者は、「現実にNHKのインターネット同時配信を受信するか否かを問わず」受信契約を締結する義務を負わせるべきという「考え方」も、論理的にはあり得る。そこで仮に、インターネットへのアクセス環境を有する者について「受信契約」締結強制を行う立法がなされた場合、それまでもが平成29年12月6日最高裁大法廷判決の射程内にあり、公平負担論から「合憲」であるということができるのであろうか?私見では、同判決の射程をそこまで広く理解するべきではない。つまり、NHKが提供するコンテンツへのアクセス方法はいくらでも拡大し得るのであるから、その全てについて公共放送を支えるための負担を求めることを同判決が許容していると理解すべきでなく、そこには、一定の限界があると考えるべきなのである。
 実は、ワンセグ携帯電話やワンセグ・カーナビを利用する者に対して受信契約を強制することが、公平負担論から正当化できるかというのは、原理的には同じ問題である。新規の科学技術の進歩により、法制定時には予定されていなかったテレビの視聴形態が登場したとき、そこにも費用公平負担を求めるべきかが問われているのである。上述したように、地上波デジタルテレビは、1チャンネルあたり5.57MHzの帯域を13セグメントに分割し、これを12セグメント(フルセグ)と1セグメント(ワンセグ)に分割して利用している。よって、ワンセグの情報量はフルセグに比して圧倒的に少なく、具体的には画質が劣ることになる。このような場合に、そもそもワンセグ・カーナビを通常のテレビ受信機と同様に扱うことが、公平負担論から正当化し得るものであろうか?現行放送法64条1項ただし書きは、ラジオ放送のみを受信できる受信設備を設置した者は受信契約を締結することを要しないとしているが、費用の公平負担という点からは、この立法政策とワンセグ・カーナビにフルセグ・テレビと同様の負担を求めることの整合性をも考える必要があろう。
 こうしてみると、本件判決が「公平な費用負担を求める受信料制度の趣旨に鑑みると、被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、実際に放送を受信しているか否かにかかわらず、被告との間で放送受信契約を締結して受信料を支払わなければならないものというべきである。」という前段から、「したがって、放送法64条1項にいう『設置』とは、広く、被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことをいうと解するのが相当である。」という後段部分の文言解釈を自動的に導いていることは、やや論理の飛躍があるように思われる。
 もとより、上の指摘に対しては、その点は立法論として議論されるべきことであって、法解釈論としては、「設置」には「携帯」も含まれるとすれば足りるという反論もあり得るところである。しかし、これに対しては、公平な費用負担という目的から、直ちに上のような結論を導くことの方が、実は「立法論的」な議論の仕方であるという再反論も可能である。公平な費用負担が重要な原則であればあるほど、具体的負担に係る法解釈には、一層の緻密さが求められることになろう※10

(掲載日 2019年10月21日)

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