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文献番号 2021WLJCC006
東京都立大学 客員教授
前田 雅英
Ⅰ 判例のポイント
本件は、アメリカのサーバを利用した電磁的記録記録媒体陳列罪、公然わいせつ罪に関する事案で、日本在住の被告人らにも、無修正わいせつ動画を投稿・配信することについて、黙示の意思連絡があったと評価することができるとして、電磁的記録記録媒体陳列、公然わいせつ罪の共謀共同正犯が成立するとした ※2。ただ、本判例の意義を考える上で特に注目すべきは、リモートアクセスをして記録媒体から電磁的記録を複写するなどして収集した証拠の証拠能力であった。
Ⅱ リモートアクセスに関する事実の概要
最高裁の認定した事実の概要は以下のとおりである。
Ⅲ 判旨
弁護士は、日本国外に所在するサーバへのリモートアクセスによる電磁的記録の取得行為は、現行刑訴法によっては行うことができず、あくまで国際捜査共助によるべきものであるところ、警察官が、これらの点を認識した上、国際捜査共助を回避し、令状による統制を潜脱する意図の下に手続㋐、㋑を実施した行為は、サーバ存置国の主権を侵害するものであり、重大な違法があるから、各手続によって収集された証拠は違法収集証拠として排除すべきである等と争って上告した。
これに対し最高裁は、「手続㋐、㋑の各リモートアクセスの対象である記録媒体は、日本国外にあるか、その蓋然性が否定できないものである。なお、上記各リモートアクセス等について、外国から反対の意思が表明されていたような事情はうかがわれない。」と認定した上で、以下のように判示した。
「刑訴法99条2項、218条2項の文言や、これらの規定がサイバー犯罪に関する条約(平成24年条約第7号)を締結するための手続法の整備の一環として制定されたことなどの立法の経緯、同条約32条の規定内容等に照らすと、刑訴法が、上記各規定に基づく日本国内にある記録媒体を対象とするリモートアクセス等のみを想定しているとは解されず、電磁的記録を保管した記録媒体が同条約の締約国に所在し、同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されると解すべきである(下線は最高裁による-筆者注)。
その上で、まず、手続㋐により収集された証拠の証拠能力について検討すると、手続㋐は、Y関係者の任意の承諾に基づくものとは認められないから、任意捜査として適法であるとはいえず、上記条約32条が規定する場合に該当するともいえない。しかし、原判決が説示するとおり、手続㋐は、実質的には、司法審査を経て発付された前記捜索差押許可状に基づく手続ということができ、警察官は、同許可状の執行と同様の手続により、同許可状において差押え等の対象とされていた証拠を収集したものであって、同許可状が許可する処分の範囲を超えた証拠の収集等を行ったものとは認められない。また、本件の事実関係の下においては、警察官が、国際捜査共助によらずにY関係者の任意の承諾を得てリモートアクセス等を行うという方針を採ったこと自体が不相当であるということはできず、警察官が任意の承諾に基づく捜査である旨の明確な説明を欠いたこと以外にY関係者の承諾を強要するような言動をしたとか、警察官に令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとも認められない。以上によれば、手続㋐について重大な違法があるということはできない。
なお、所論は、令状主義の統制の下、被疑事実と関連性の認められる物に限って差押えが許されるのが原則であり、警察官は、被疑事実との関連性を問わず包括的に電磁的記録を取得した違法があるとも主張する。しかし、前記の事実関係に照らすと、前記捜索差押許可状による複写の処分の対象となる電磁的記録には前記被疑事実と関連する情報が記録されている蓋然性が認められるところ、原判決が指摘するような差押えの現場における電磁的記録の内容確認の困難性や確認作業を行う間に情報の毀損等が生ずるおそれ等に照らすと、本件において、同許可状の執行に当たり、個々の電磁的記録について個別に内容を確認することなく複写の処分を行うことは許されると解される。・・・・・・
以上によれば、警察官が手続㋐、㋑により収集した証拠の証拠能力は、いずれも肯定することができ、これと同旨の原判決の結論は正当である(下線は最高裁による-筆者注)」。
Ⅳ コメント
1
最近では、クラウドや海外のサーバに電磁的記録を保管し、これをダウンロードするといった利用が著しく増加した。これまでのように「記録媒体を差し押さえる」という方法では、犯罪の証拠は十分に収集できないことになった。刑事訴訟法も、平成23年6月には、従来の記録媒体の差押えに加えて、①コンピュータに接続されている記録媒体から複写して差し押さえることを認め、②新たな強制処分として記録命令付差押えを創設し、③電磁的記録物の差押えの執行方法として、特定の情報にとどめる代替的方法を認め、④電磁的記録物の差押状の執行を受ける者等に協力を要請できるものとし、⑤通信履歴の保全要請ができるものと改正された。
特に、刑事訴訟法218条2項は、検察官、司法警察職員等による差押えについて、コンピュータを差し押さえる場合には、当該コンピュータに接続している記録媒体のうち、当該コンピュータで作成・変更した電磁的記録又は変更・消去できるとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、当該コンピュータを操作して、必要な電磁的記録をそのコンピュータ又は他の記録媒体に複写した上、当該コンピュータ又は記録媒体を差し押さえることができることとした(池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義〔第6版〕』(東京大学出版会、2018年)181頁以下参照)。
コンピュータで作成・変更した電磁的記録を「保管するために使用されていると認められる状況にある」というのは、差し押さえるべきコンピュータの使用状況等から、保管するために使用されている蓋然性が認められるということである。
2
さらに刑事訴訟法99条の2により、「電磁的記録を保管する者その他電磁的記録を利用する権限を有する者に命じて必要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、又は印刷させた上、当該記録媒体を差し押さえること」と定義された記録命令付差押えが創設された。その場合に発付される記録命令付差押許可状には、差し押さえるべき物のほか、記録させ又は印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ又は印刷させるべき者を記載しなければならない(刑事訴訟法219条1項)。
そして、記録媒体の差押え等に当たっては、コンピュータ・システムの構成等について最も知識を有すると思われる被処分者の協力を得ることが必要であり、また、被処分者の中には、記録媒体に記録されている電磁的記録について権限を有する者との関係で、これを開示しない義務を有する者もあることなどから、捜索・差押えを実施する者が被処分者に協力を求め、また、被処分者もこれに協力することができる法的根拠を明確にしておくことが必要と考えられる。
そこで、「差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。」とする刑事訴訟法111条の2が新設されている。
3
最高裁は、本件手続㋐は、任意の承諾に基づくものではなく、任意捜査として適法であるとはいえないが、実質的には、司法審査を経て発付された捜索差押許可状に基づく手続ということができ、警察官は、同許可状の執行と同様の手続により、同許可状において差押え等の対象とされていた証拠を収集したものであって、同許可状が許可する処分の範囲を超えた証拠の収集等を行ったものとは認められないとした。
弁護側は、警察官は、被疑事実との関連性を問わず包括的に電磁的記録を取得した違法があるとも主張したが、最高裁は、複写の処分の対象となる電磁的記録には被疑事実と関連する情報が記録されている蓋然性が認められ、差押えの現場における電磁的記録の内容確認の困難性や確認作業を行う間に情報の毀損等が生ずるおそれ等に照らすと、許可状の執行に当たり、個々の電磁的記録について個別に内容を確認することなく複写の処分を行うことは許されるとしたのである(最二小決平成10年5月1日刑集52-4-275、WestlawJapan文献番号1998WLJPCA05010001参照)。
4 リモートアクセスの適法性に関しては、東京高判平成28年12月7日(高刑集69-2-5、WestlawJapan文献番号2016WLJPCA12076005参照)が、非常に制限的な判示を行っていた。重要な捜索差押許可状に基づき差し押さえたパソコンについて、差押えの数日後に検証許可状に基づき、パソコンからアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバにアクセスして、メールの送受信履歴や内容をダウンロードした措置の適法性に関し、「そのサーバが外国にある可能性があったのであるから、捜査機関としては、国際捜査共助等の捜査方法を取るべきであった」とし、当該メールサーバへのリモートアクセスが「本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである」として、違法捜査としたのである。さらに、本件検証の違法の程度は重大であり、その結果である検証調書および捜査報告書について証拠能力を否定した(なお、大阪高判平成30年9月11日高検速報平30-344、WestlawJapan文献番号2018WLJPCA09119002参照)。
5
これに対して本件決定は、「電磁的記録を保管した記録媒体が同条約の締約国に所在し、同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許される」と断じたのである。この判断の捜査機関に与える影響は、非常に大きなものがある。三浦裁判官の補足意見にあるように、権限を有する者の任意の承諾の有無、その他当該手続に関して認められる諸般の事情を考慮して判断すべきであるが、一律に国際捜査共助によらねばならないということとの差は著しい。
サイバー世界の特殊性を踏まえて、合理的な刑事介入を拡大するために締結されたサイバー犯罪に関する条約(平成24年条約第7号)を踏まえている日本の刑事訴訟法のリモートアクセスの規定が、国内の記録媒体のみを対象として想定しているとは解されないといえよう。
(掲載日 2021年3月1日)