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第230号 コンビニエンスストアのフランチャイジー(加盟者)の顧客対応等を理由とするフランチャイザー(本部)の契約解除が認められたものの、フランチャイザーからフランチャイジーに対する不動産引渡断行仮処分が認められなかった例 

~大阪地裁令和2年9月23日決定令2(ヨ)6号不動産引渡断行仮処分命令申立事件
・同令2(ヨ)3号仮処分命令申立事件 ※1

文献番号 2021WLJCC009
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝

1.事案の概要と争点

 本件は、加盟者の顧客対応等の店舗運営態度がチェーン・イメージを害し本部と加盟者間の信頼関係を破壊したとして、本部による契約解除並びに本部が所有し加盟者に使用させていた店舗用建物の明渡断行の仮処分を求めた事件(第1事件)である。これに対して、加盟者は、解除無効を理由に地位確認を求めた仮処分を申し立てた(第2事件)。
 争点としては、①加盟者による顧客への暴言等がフランチャイズ契約の解除原因となるか、②本部と加盟者との間の信頼関係が破壊されたといえるか、③加盟者が本部に対して誓約書を差し入れた場合でも改善のための催告に応じなかったといえるか、④加盟者から本部に対する独占禁止法違反を理由とする侵害予防請求は認められるか、⑤本部による明渡断行仮処分の要件は満たされるか、の5点である。①~③が認められれば、④は認められないので、本稿では①~③及び⑤を中心に解説する。
 当時、コンビニ業界では24時間営業の合理性が社会問題となっており、この加盟者も時短営業を実施していたことから、加盟者側は本部による契約解除は時短営業をしたことへの報復だとマスコミ等で主張し、それに同調するネット記事も多数掲載された。しかし、実際にはこの加盟者は顧客や近隣住民とのトラブルが絶えず、裁判所もそれによるチェーン・イメージの毀損と信頼関係の破壊を解除原因として認めた。

2.加盟者の顧客対応上の問題がフランチャイズ契約の解除原因となるか

  1. (1) フランチャイズ契約は本部が加盟者に対して商標やノウハウの仕様を許諾し、加盟者がそれに対して対価(加盟金、ロイヤルティ)を支払う契約である。そして加盟者は独立した事業者として店舗を営むことから、形式的にみると顧客対応はもっぱら加盟者の店舗運営の問題にとどまるようにも見える。
     しかし、フランチャイズ・ビジネスでは、チェーンとしての統一的イメージを確保することが契約内容となるので(公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」1(3)②)、加盟者はチェーンとしての統一的イメージを害しないことが義務付けられる。
  2. (2) 問題は、「チェーンとしての統一的イメージ」の内容である。フランチャイズ本部としては、加盟者に対してチェーンの統一的イメージを維持することをフランチャイズ契約上明記するとともに、その具体的な内容をマニュアルや規約で明示することが望ましい。
     本件フランチャイズ契約書では、「一定の仕様による共通した独特の店舗の構造・形状・配色・内外装・デザイン,店内レイアウト,商品陳列,サービスマーク,看板等の外観,商品の鮮度など品質のよさ,品ぞろえ,清潔さ,ユニフォーム,接客方法,便利さなど際だった特色」が当該チェーンのイメージを構成するとされ、加盟者が、当該チェーン・イメージを変更し、またはその信用を低下させることが禁じられていた。そして、その中でも「接客方法」の具体的な内容として、顧客に対して笑顔で挨拶をすることや丁寧な言葉遣いを用いるなどの「フレンドリーサービス」を実践する義務があると認定された。
  3. (3) 本件加盟者は、顧客に対して暴言を吐いたり、顧客等の自動車を傷つけるなどの行為を繰り返しており、顧客から本部に送られてきたクレームは通常の店舗の10倍の件数であった。暴行事件に発展することもあり、警察官が臨場したことも数回あった。また、近隣の学校からも加盟者の行為について苦情が出されていた。
     過去の裁判例でも、加盟者が掲示板を設置して本部を批判した行為(名古屋高判平成14年5月23日判タ1121-170、WestlawJapan文献番号2002WLJPCA05230003)、加盟者が他の加盟者を扇動して本部と対立・対抗しようとした行為(大阪地判昭和61年10月8日判タ646-150、WestlawJapan文献番号1986WLJPCA10081002)について、本部による契約解除が認められている。また、加盟者が顧客から多数の苦情やクーリングオフを受けた事案でも本部による契約解除が認められている(東京地判平成21年7月10日WestlawJapan文献番号2009WLJPCA07108003)。これらの裁判例に照らせば、本件加盟者の行為が解除事由に当たることに争いはないであろう。ただ、加盟者によるチェーン・イメージの毀損は必ずしも定型的な債務不履行ではないので、本部としては加盟者のこうした非違行為を具体的に証拠化しておく必要がある。
  4. (4) フランチャイズ契約のような継続的契約においては、当事者間の信頼関係が破壊されないと解除は認められない(東京地判平成14年10月16日WestlawJapan文献番号2002WLJPCA10160006)。そのため、本件でも当事者間の信頼関係が破壊されるに至っていたかが争点となった。裁判所は、本件の加盟者が上記非違行為を繰り返していたことや、自己の非違行為の原因を年中無休・24時間営業に責任転嫁するような発言をしていることに照らして、当事者の信頼関係は破壊されたものと評価した。
  5. (5) こうして、裁判所は、本部によるフランチャイズ契約の解除を認めた。ただ、この加盟者は、本部による契約解除は24時間営業に反対したことに対する本部からの報復だと主張し、マスコミもそれに同調する記事を載せた。こうしたマスコミの対応を見ていると、本件の実態が社会一般に正しく理解されたかは疑わしい。フランチャイズ本部としては、裁判対策とともにマスコミ対策も不可欠といえる。

3.明渡断行の仮処分

  1. (1) 本件フランチャイズ本部は加盟者に対して建物所有権を被保全債権として明渡断行の仮処分を申し立てた。
     不動産の所有者や賃貸人が、当該不動産を不法に占拠する者に対する強制執行を保全するためには占有移転禁止の仮処分や処分禁止の仮処分を申し立てる必要があるが、勝訴判決を得て強制執行するまでには一定の時間を要することから、それでは十分な権利回復が望めない場合がある。そこで本案で勝訴したのと同様の状態を暫定的に実現し権利の保全を図るのが明渡断行の仮処分である。明渡断行の仮処分は、仮の地位を定める仮処分なので「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」が要件となる(民事保全法23条2項)。この保全の必要性の判断については、被保全権利の性質や内容、被保全権利についての疎明の程度、仮処分申立に至った経緯、仮処分が認められないことによって債権者に生じる損害の内容・程度、仮処分が認められることによって債務者に生じる損害の内容・程度といった諸般の事情を総合的に比較衡量して判断されることになる。具体的には以下のように類型化され検討されている(満田明彦「最近における東京地裁保全部の断行仮処分認容事例の研究」判時794号7頁、森剛「建物明渡し等の断行の仮処分」『民事保全の実務(上)』(金融財政事情研究会)313頁)。
    1 債務者の行為が執行妨害的と評価される場合
    2 債務者の占有取得が暴力的行為によった場合
    3 債務者において目的物を使用する必要性が著しく小さい場合
    4 債権者の受ける損害が著しく大きい場合
    5 債務者の行為が著しく信義に反し不誠実であると認められる場合など
  2. (2) まずフランチャイズ本部は、被保全権利を建物所有権に基づく建物引渡請求権だとした。その上で、保全命令が発令されない場合に本部(債権者)側が被る損害として、①本部は、直ちに本件建物の仮の引渡しを受けなければ、本件建物や設備機器類等の保守管理ができず、仮に本案訴訟に勝訴しても、これらの修理や買替え等により多額の損害が生じる、②加盟者は本部を誹謗中傷する発言を繰り返しており、本件建物の仮の引渡しが認められなければ、本部は本件店舗を経営することができず、加盟者により大きく毀損された本部のブランドイメージを回復させる機会を与えられないまま、加盟者から一方的にブランドイメージを毀損する誹謗中傷を受け続けることになる、③本案審理を待っていては、多額の逸失利益(本件店舗を24時間営業することにより得べかりし利益及び仮に本部との土地賃貸借契約が解除された場合には商圏喪失により失われる利益)が生じ、加盟者から回収することはできない等と述べた。そして、もし本案訴訟で加盟者が勝訴したとしても、本部は加盟者が被った損害を即金で支払う資力があると述べた。要するに債権者(本部)が被る損害は、債務者(加盟者)が被る損害より大きいことを列挙したのである。
     しかし、裁判所は、①については、建物や設備機器類が劣化することの費用が後日の金銭賠償では賄えないほどに著しく多額に上るとはいえないとした。②については、加盟者(債務者)による本部(債権者)への誹謗中傷は建物引渡しとは次元を異にする問題だと判断した。③については、逸失利益の発生はこの種の事件一般に生じる問題であるとした。こうして、裁判所は、本件について直ちに建物を引き渡さなければならない保全の必要性は基礎付けられないと判断した。
  3. (3) 債権者(本部)側の主張は前掲類型の34に沿ったものであり、特に4の事情を重点的に挙げている。しかし、4の類型については、「債権者側の事情のみを重要視して必要性を肯定することには慎重であるべきである」と評価されており(木納敏和「断行の仮処分」『現代裁判法大系第14巻民事保全』(新日本法規出版))、債権者側としては債務者にとって物件を使用する必要性が小さいことを強く疎明する必要がある。
     通常、フランチャイズ契約終了時には店舗の引渡し作業がなされるが、本部が平穏に明渡しを求めたにもかかわらず、加盟者が異常な手段で居座り続けた場合は、2の類型に当たるともいえる。特に本件では、マスコミを呼びつけるなどして居座っており偽計的な手段での居座りということもできたように思える。
  4. (4) また、本件の本部は、その被保全債権として建物所有権を挙げているが、②③の事情は建物所有権との関連性が強いとはいえない。むしろ、②③の事情は、本部の営業権との関連性が強い事情である。
     加盟者はフランチャイズ契約に基づき本部のブランドとノウハウを使用して店舗を運営する営業権を許諾されたものであるが、本件契約では店舗建物・内外装設備全てを本部が準備していることから(Cタイプ、本部店舗型契約)、加盟者には単なる抽象的な営業権が許諾されたのではなく「この場所で小売業を営む具体的な営業権」が許諾されている。また、コンビニエンスストアでは、加盟者は店舗運営のみを担当しており、それ以外の①マーケティング調査、②チェーンの広告宣伝活動、③商品・サービスの開発、④仕入先の選定・交渉、⑤物流体制の整備、⑥生産体制の整備、⑦POSシステム等の整備、⑧店舗開発といった小売業を営むために必要な様々な業務は、全て本部が担当している(公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(令和2年9月)」29頁)。そのため、加盟者が本件建物に居座る限り、本部としては「この場所で小売業を営む具体的な営業権」が侵害され続けるのである。
     本件でも、本部が、こうしたコンビニ・フランチャイズの構造を疎明し、「この場所で小売業を営む具体的な営業権」を被保全債権としていれば、②③との関連性もより説得的に主張できたように思われる。
  5. (5) 明渡断行の仮処分を申し立てる場合、債権者としては損害発生の危険に目を奪われがちであるが、保全の必要性と被保全債権の関連性を慎重に検討すべきである。特に、フランチャイズ契約のような複雑な契約の場合、裁判所もその構造を十分理解していないことが多いので、ビジネスの構造から被保全債権をより具体的に疎明し、それとの関係で保全の必要性を疎明すべきといえる。また、保全の必要性を疎明する際には、契約終了から不退去にかけての債務者側の行動を写真やビデオを用いて疎明するなど、疎明方法の工夫も必要となる。

4.今後の課題

 コンビニ・フランチャイズでは店舗の物件契約だけでなく内外装・什器備品を全て本部で準備する方式(Cタイプ、本部店舗型契約)が80%以上を占める(前掲公正取引委員会報告書55頁)。こうした契約形態において、元加盟者が契約終了後も店舗に居座り続けると、本部としては多大な損害を被るが、だからといって本部が店舗内の設備や在庫品の撤去を強行すると、そのことが不法行為になることもある(前掲名古屋高判平成14年5月23日判タ1121-170、WestlawJapan文献番号2002WLJPCA05230003)。フランチャイズ本部としては、こうした事態を生じさせないためにどうするか、もし生じた場合はどうするかを事前に想定しておく必要がある。


(掲載日 2021年4月26日)

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