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文献番号 2021WLJCC021
関西大学会計専門職大学院 教授
中村 繁隆
1.はじめに
本事件は、租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下、措置法という)66条の6に定める、いわゆる外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制。以下、特に断りのない限り、CFC税制という)の適用の可否が争点となった事案である。
従前より、CFC税制の適用のためには、租税回避のおそれの有無といった明文に規定された要件以外に必要とされる要件が存在するかどうかが、解釈上の論点として存在する、との指摘※2があった。
本事件にはいくつか検討すべき論点は存在する※3が、本コラムでは紙幅の関係上、上記の指摘に焦点を当て、若干の考察を行いたい。
2.事案の概要
銀行法4条所定の内閣総理大臣の免許を受けて同法2条2項所定の銀行業を営む内国法人である本銀行(以下、原告という)は、英領ケイマン諸島(以下、ケイマンという)に所在する原告の特定外国子会社等(措置法66条の6第1項)であるa社及びb社(以下、a社と併せて、本件各子SPC※4という)について、本件各子SPCの2014年(平成26年)12月30日から2015年(平成27年)12月3日までの事業年度(以下、本件各子SPC事業年度という)に係る本件各子SPCの発行済株式等のうち原告の請求権勘案保有株式等の占める割合(措置法施行令39条の16第1項。以下、本件保有株式等割合という)が0%であるとして、本件各子SPC事業年度の課税対象金額を0円と算出し、原告の平成27年4月1日から 平成28年3月31日までの事業年度又は課税事業年度(併せて以下、本件事業年度という)に係る法人税及び地方法人税(併せて以下、法人税等という)の確定申告及び修正申告を行った。麹町税務署長(処分行政庁)は、本件保有株式等割合は100%であり、本件各子SPCの適用対象金額の全額が課税対象金額として原告の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されることなどを理由として、平成29年11月7日付けで法人税及び地方法人 税に係る各更正処分並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をした。なお、上記各処分については、それぞれ、令和元年7月29日付け減額更正又は変更決定により税額が一部減額されている(以下、上記各処分につき、上記減額更正により一部取り消された後の法人税の更正処分を本件法人税更正処分、上記減額更正により一部取り消された後の地方法人税の更正処分を本件地方法人税更正処分といい、上記変更決定による変更後の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を本件法人税賦課決定処分、上記変更決定 による変更後の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を本件地方法人税賦課決定処分という。また、本件法人税更正処分と本件地方法人税更正処分を併せて以下、本件各更正処分と、本件法人税賦課決定処分と本件地方法人税賦課決定処分とを併せて本件各賦課決定処分といい、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて本件各処分という)。
本事件は、原告が、被告を相手に、本件各処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の各取消しを求める事案である。また、本事件の争点は、本件各処分の適法性(具体的には、原告の本件事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるべき本件各子SPCに係る課税対象金額)である。
3. 措置法66条の6の解釈に関する双方の主張
原告は、CFC税制が、「タックス・ヘイブンに所在する子会社を利用した租税回避を防止するための制度である。租税回避は、私法の形成可能性の濫用により不当に支払税額を減少させるものであり、租税回避の否認とは、租税回避が行われた場合に、当事者の選択した私法上の法形式を無視して課税を行うことである」と述べ、CFC税制が「租税回避否認立法である以上、租税回避が行われた場合にのみ私法の形成可能性の濫用が行われていない状態の課税に戻せばよいのであって、租税回避が行われていない場合にまでこれを機械的に適用して過重な課税を引き起こしてはならないのであり、およそ租税回避の目的も実態もない場合において、これを適用することは許されない」と述べる。そして、「本件資金調達スキーム※5は、そのスキームの構造、その組成から清算に至るまでの資金の流れにおいて、何ら租税回避の実態を伴うものではなかったから、本件各処分は、租税回避防止の目的に資するものではなく、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨・目的に反する」と主張する。
一方、被告は、「租税法規は、侵害規範であり、法的安定性が強く要請されることから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであって、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨目的に立ち戻って、その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われるべきところ、原告の主張は、措置法66条の6の条文において要求されていない『租税回避行為が存在すること』という新たな要件を同条に付加して租税法規の適用範囲を限定的に解するものにほかならない」と主張する。
4. 東京地裁の判断
東京地裁は、まず、「措置法66条の6は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。もっとも、措置法66条の6は、1項において、その適用要件を具体的に規定するとともに、他方で、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記のような益金算入の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから、3項において、事業基準等の具体的な適用除外要件を定めた上で、これらが全て満たされる場合には、1項の規定を適用しないこととしているものである・・・。そして、同条1項及び3項のいずれにおいても、租税回避の目的の有無や、税負担の不当な軽減となる実態の有無、あるいは特定外国会社等がその所在する国又は地域で事業を行うことの経済的合理性の有無は、同条1項の規定が適用され、あるいはその適用が除外される要件として規定されていない」と指摘した上で、「タックス・ヘイブン対策税制を定める措置法66条の6の規定は、原告のいうとおり租税回避を防止することをその趣旨・目的とするものであるけれども、その具体的な適用に当たっては、同条1項に規定する適用要件及び同条3項に規定する適用除外要件の各該当性の有無により客観的に判断するものとし、このような各要件に係る判断を通じて上記趣旨・目的の実現を図ることとしたものと解するのが相当である」と判示した。
そして、「租税については、租税法律主義の下、課税要件の明確性が強く求められ、租税法規を解釈するに当たっては、原則として文理解釈によるべきであって、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではないから、同条が明文で規定する各要件とは別に、租税回避の目的や実態の有無等が同条1項の適用又は適用除外の要件となるものとは解することができないというべきである・・・。以上によれば、措置法66条の6第1項所定の要件を満たす場合には、同条3項所定の適用除外要件を満たす場合を除き、租税回避の目的・実態の有無や当該特定外国子会社等の所在国・地域における事業の経済的合理性の有無等にかかわらず、同条1項が適用されるというべきであり、本件において原告が主張するような、本件各子SPCを用いた本件資金調達スキームが租税回避を目的としたものでないことや、これと同様の資金調達スキームがバーゼルⅡに対応するための合理的な方法として邦銀において当時広く採用されていたことなどの事情は、仮にこれらの事情が認められるとしても、同条1項の適用の可否を左右するものではないというべきである。したがって、この点についての原告の主張は採用することができない」と判示した。
5. 検討
5.1. 評釈
本事件のポイントは、「CFC税制の趣旨・目的である“租税回避の防止”について、仮に、租税回避の目的や実態がなくても、CFC税制の適用要件を満たす場合には、同制度が適用されることが示された点だろう※6」との指摘や、「文理上CFC税制の対象となることが明らかなケースについて目的論的解釈を行うことは、地裁判決において明確に否定されて※7」いるとの指摘がある。これらの指摘は、文理解釈を法律解釈の原則とする東京地裁の判断に賛同したものと思われる。
私見もこれらの指摘と同じである。また、判示において、「資金調達スキームがバーゼルⅡに対応するための合理的な方法として邦銀において当時広く採用されていたことなどの事情は、仮にこれらの事情が認められるとしても、同条1項の適用の可否を左右するものではないというべきである」という点から、現行法の解釈としては受け入れられないとする点も賛同できる。なぜなら、原告の主張は目的論的解釈というよりも立法論に近い主張と考えられるからである。
5.2. 実務的な観点
実務的な観点から、「文理上CFC税制の対象となることが明らかなケースについて目的論的解釈を行うことは、地裁判決について明確に否定されており、現実的には、そのような不合理な課税関係を生じさせないような事前の慎重なプランニングが重要となる※8」とのコメントがある。つまり、当該コメントは、「外国関係会社の事業年度末における外国関係会社の株式の保有状況によっては、その事業年度の外国関係会社の所得について稼得した所得が経済的に本邦法人に帰属しない場合であっても、当該本邦法人においてCFC税制による課税を受けてしまうという、一見不合理な課税関係が生じてしまう※9」ことを前提とした上で、CFC税制の適用を未然に防ぐための事前プランニングが重要である、というものである。
ちなみに、原告は、「本件資金調達スキームにおいて、原告が本件各子SPCに平成27年6月29日を終了日とする決算期を追加していたとすれば、本件各処分がされる余地はなかった」と主張している。従って、本事件も当該主張の中で示された方法を採用していれば、CFC税制の適用を回避できたと思われる。
6. おわりに
本コラムでは、従前から指摘されていたCFC税制における解釈上の論点に焦点を当て、本事件について若干の検討を行った。その検討結果からいえることは、CFC税制の法的枠組みは税務執行上の簡便さを有する反面、租税回避の目的や実態がない場合であっても措置法66条の6に定める課税要件に該当する場合には、CFC税制が適用されるということである。実務的な観点からは、「一見不合理な課税関係が生じてしまう※10」ような事態を招かないように慎重な事前プランニングが重要となってくるが、問題解決への望ましい方向性は、措置法66条の6における目的論的解釈が困難である以上、立法によらざるを得ないのではないかと思われる。
なお、本事件は控訴されている※11。控訴審の判断が待たれるところである。
(掲載日 2021年10月4日)