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文献番号 2021WLJCC023
若葉パートナーズ法律会計事務所 弁護士
若松 亮
1.事案の概要と争点
本件は,幼児向け英会話教室のフランチャイズチェーンを展開する本部(被告)との間でフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結した加盟店(原告)が、本部に対し、やむを得ない事由が存在しないのに更新を拒絶したことが債務不履行に該当するとして損害賠償や情報提供義務違反による損害賠償、保証金等の返還等の各金員の支払を求める本訴を提起したのに対し、本部が講師新規採用研修費や未払ロイヤリティ債権の支払等を求める反訴を提起した事件である。本判決では、本訴請求の一部を認め、反訴請求の全部を棄却しているが、主争点である更新拒絶が不当であり、本部の債務不履行に該当するかという点については、不当な更新拒絶ではないとして更新拒絶の有効性を認める内容となっている。なお、本件については、現在、控訴審である東京高等裁判所に係属中である。
本件の争点は多岐に亘るが、本判決は、更新拒絶の有効性以外の争点については、情報提供義務違反は簡潔に理由を述べてこれを否定するとともに、その他の本部及び加盟店の金員請求については契約書等から請求の可否を個別に認定した内容であることから、本稿では紙面の都合上、フランチャイズ法務にとって特に参考になると考えられる更新拒絶の有効性に関する判断部分を紹介することとする。
なお、本件と同じ本部に関し、加盟店に対する更新拒絶が不当な更新拒絶であり、債務不履行に該当するとされた裁判例※2(結論において本件と逆の結論。以下「別件判決」という。)が存在するため、適宜、本判決と同判決との比較検討も行うこととする。
2.更新拒絶の有効性の判断基準
フランチャイズ契約の終了の是非が争いとなる局面は、契約期間中の中途解約の場面と、契約期間満了後の更新拒絶の場面に大きく分けることができる。本件は、後者の契約期間満了後の更新拒絶の事案である。
継続的契約の終了の是非に関する判断は、契約関係からの離脱の自由の要請と、契約継続に対する期待の尊重の要請をどのように調整するかが問題となり、特にフランチャイズ契約については、加盟店側が相当額の初期投資を行っている場合が多いため、投下資本の回収という観点から、加盟店側の契約継続に対する期待の尊重を考慮する必要がある。
この調整を訴訟における中途解約や更新拒絶の有効性に関する判断基準にどのように反映させるかについては、裁判例上、契約終了に「やむを得ない事由」や正当理由を求める方法や、一定の場合に信義則又は権利濫用によって契約終了の主張を制限する方法が用いられることが多い。
この点、福田敦裁判官(以下「福田裁判官」という。)は、少なくとも契約期間満了後の更新拒絶の場合には、常に「やむを得ない事由」を必要とするのではなく、「契約関係に関する当事者間の合意を尊重しつつ、契約関係からの離脱の自由と、契約継続に対する期待とを調整するには、信義則や権利濫用といった一般条項を用いて更新拒絶の有効性を判断するほかないものと考えられる」旨述べており※3、契約期間中の中途解約の場合と異なり、契約期間満了後の更新拒絶の場合には、当事者が当初想定していた契約期間は一応満了しており、契約継続に対する期待の尊重の要素は、契約期間中の中途解約の場合よりは一歩後退して考えるべきであることから、筆者も同見解が穏当であると考える。
本判決も「更新拒絶の意思表示と期間の満了により当然に契約関係が終了するのではなく、信義則による一定の制約があると解すべきであり、これを原告(筆者注:加盟店)が主張するようなやむを得ない事由がある場合に限るとするかは措くとしても、①更新に関する約定の内容、②従前の更新の経緯、③契約の目的内容と実情、④更新拒絶の経緯と理由、⑤その他の諸事情を総合的に考慮して、信義則上の相当性の観点からこれを判断するのが相当である」として福田裁判官と同様、更新拒絶は原則として有効としつつ、一定の場合に信義則によって更新拒絶を制限する方法を用いている。考慮すべき諸事情についても、福田裁判官が挙げる「契約締結時の実情、当該契約の趣旨、当該契約に定めた期間の長短、従前の更新の有無といった事情のほか、個別の事例に現れた諸事情(より具体的には、解消者の言動、被解消者の被る不利益の程度、被解消者の実績等)」とほぼ同内容であると考える。
なお、別件判決については、更新拒絶に正当な理由がないとして本部の更新拒絶の主張が退けられたが、同判決は、本部の更新拒絶自体に契約上更新拒絶が認められる終了6か月前を徒過してからなされたものである等の瑕疵が存した事案であったことを反映した内容であり、一般的に更新拒絶に正当な理由を求める趣旨の判決ではないと考える。
3.更新拒絶の是非を判断するに際して重視すべき事情
(掲載日 2021年10月25日)