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第246号 無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し無効であるとした事案 

~最判令和3年6月29日※1

文献番号 2021WLJCC025
京都女子大学 教授
岡田 愛

Ⅰ はじめに
 本件は、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という。)3条で定める免許を持たない無免許者が、宅建業者から名義を借りて取引を行うことで得られた利益について、宅建業者に対し合意に基づきその利益の分配を求めたところ、そのような利益分配の合意は無免許営業の禁止、及び名義貸しの禁止を定める宅建業法の趣旨に反し無効であるとした事案である。
 これまで、名義貸しにより得た利益の分配合意に基づく請求権及び無免許者による報酬請求権については、無効ではなく、裁判上請求できないと解する先例が示されていたところ、本件最高裁は、名義貸しの合意と、無免許者によって名義を借りて行われた取引により得られた利益の分配合意を一体としてみることができる場合、そのような分配合意は公序良俗に反し無効である旨判示した。従来の流れとは異なる判断を示したといえ、実務に対する影響も生じると思われる。
 そこで、①名義貸しの合意と利益分配の合意を一体として判断することの可否、②名義貸しに基づく利益分配合意を公序良俗違反とする解釈の妥当性を検討しつつ、今回の判断の射程範囲を考察する。

Ⅱ 事実の概要及び判旨
1 事実の概要

 X(宅地建物取引士の資格を有しており、勤務先の専任宅地建物取引士として登録されているが、宅建業法3条の免許は取得していない個人)は、Aと不動産取引に係る事業を行う計画を立てていたところ、Aのかつての同僚であり、税理士として事務所を経営すると同時に宅地建物取引士の資格も有するyが、かねてから不動産業を行うことを考えていたことからこの計画に加わり、3名で投資用不動産の売買事業を行うことになった(以下、「本件事業」という。)。その後、yが費用全額を負担してY社を設立し、自ら代表取締役及び専任の宅地建物取引士となり、Y社の宅地建物取引業の免許を取得した。
 他方Xは、不動産仲介業者B社から、C社の所有する土地建物(以下、「本件不動産」という。)の紹介を受け、Xが売却先の選定やB社とのやり取り、契約書案及び重要事項説明書案の作成などを行い、平成29年3月に売主C社、買主Y社とする売買契約が、また同年4月に売主Y社、買主Dとする売買契約が締結され、その代金はY社の口座へ入金された(本件取引で得た転売利益は、他のコンサルタント会社などへの支払いを除き約2620万円であった)。
 しかしこの取引の過程において、Xは、yが不動産事業について初歩的な事柄も知らないのではと思われるメールを繰り返し送付するなどの事情からyへ不信感を抱き、Aを通じてyと交渉し、①本件不動産の購入及び売却はY社の名義を用いるが、Xが一切の事務を行うとともに売却に伴って生ずる責任も負う、②本件不動産の売却代金はXが取得し、Y社に対し名義貸し料として300万円を分配する、③本件不動産に係る取引終了後、XとY社は共同して不動産取引は行わない、との合意が成立したと認定されている(以下、「本件合意」という。)。
 Dとの取引後、Y社はXに1000万円を支払った(以下、「本件1000万円」という。)が、XはY社に対して、本件合意に基づきXに支払われるべき金額の残額約1300万円の支払いを求めた。これに対しY社は、Xに支払った本件1000万円はDとの契約で定められていた工事費用の支払い等に充てるためであり、名義貸しは宅建業法で禁止されておりそのような合意をするはずはなく、取引は自らを主体として行われたと主張し、本件1000万円について不当利得に基づく返還を求め反訴を提起した。
 原審は、上記Y社の主張について、Xが本件不動産の取引を主体的に処理した事実と整合性がないことを理由に採用せず、利益分配の合意は有効であり、Xが所持する本件1000万円は法律上の原因がないとはいえないとした。
2 判決要旨 破棄差戻
 「宅地建物取引業法は、・・・免許を受けない者(以下「無免許者」という。)が宅地建物取引業を営むことを禁じた上で(12条1項)、宅建業者が自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませることを禁止しており(13条1項)、これらの違反について刑事罰を定めている(79条2号、3号)。同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは、その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解される(同法1条参照)。
 以上に鑑みると、宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は、同法12条1項及び13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。そうすると、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて、宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合、当該合意は、名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。
 したがって、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効であるというべきである。」とし、本件合意は、無免許者が宅建業者の名義を借りて本件不動産に係る取引を行い、その利益を分配する旨を含むとした。そして、Xは本件合意の前後を通じて宅地建物取引業を営むことを計画していたことがうかがわれ、Xが宅地建物取引業をY社の名義で行うという計画の一環としてなされたものとして宅建業法12条1項及び13条1項の趣旨に反する疑いがあり、審理を尽くすべきとして原審に差し戻した。

Ⅲ 検討
 本件は、無免許者が名義を借りる合意に基づいて宅地建物取引業を行う行為は反社会性が強いとしたうえで、当該取引から得た利益についての利益配分の合意につき、名義を借りる旨の合意と一体ととらえて公序良俗に反し無効となる旨を示した事案である。
 本件最高裁を検討するに際し、まず名義貸しの合意が公序良俗に反するかが論点となるが、名義貸しは免許制を設けた宅建業法の趣旨に反することは明らかであり、また宅建業法13条は強行法規と解されており、これに反する名義貸し契約を無効とする点に争いはない※2
 次に、本件最高裁は、名義貸しの合意と併せてその取引によって得た利益分配の合意がなされた場合は両者を一体としてみるべきとしたが、名義貸しの合意と利益分配の合意は別個のものであり、利益分配の合意そのものは公序良俗に反しないため、両者を一体としてとらえ公序良俗違反とすることの妥当性について検討する。
 本件最高裁のように、別の契約の公序良俗違反を理由として、他の契約も公序良俗違反とする解釈については、最判昭和30年10月7日(民集9巻11号1616頁WestlawJapan文献番号1955WLJPCA10070002 )で示されている。この事案は、父親と債権者間でなされた金銭消費貸借契約につき、娘が債権者のもとで酌婦として稼働することを目的としてなされたとし、二つの契約が「密接に関連して互に不可分の関係にある」ことを理由に一体としてとらえ、稼働契約の公序良俗違反を理由に金銭消費貸借契約も無効としたものである。この先例に従えば、本件も名義貸しの合意と利益分配の合意との間に密接関連性があるといえ、一体として判断することは可能と考える。もっとも、上記最判昭和30年の事案では、公序良俗に反する稼働契約を目的とし、それを実現するための手段として金銭消費貸借契約をしていたが、本件は反対に、目的とする利益分配合意そのものは違法ではなく、その手段としてなされた名義貸しが公序良俗に反する事案である。その点、本件最高裁は、目的となる合意自体は公序良俗に反しない場合でも、手段となる合意が違法であり、両者が密接に関連していれば一体として公序良俗に反する旨判示しており、複数の合意が密接に関連性を有している以上いずれかの合意が公序良俗に反する場合は、一体として公序良俗違反とする判断を示したと解される。
 このように、一体として公序良俗違反を認めるとしても、名義貸しによる取引の利益の分配合意の効力について、公序良俗違反とすることの妥当性は別途検討する必要がある。本件最高裁が示される以前に、名義貸しによる取引の利益分配合意の効力について判断した事案として、名古屋高判平成23年1月21日(WestlawJapan文献番号2011WLJPCA01219003)がある。この事案は、宅建業者が無免許者を自己の従業員とし、自己の名を使って取引をすることを認めていたところ、無免許者が一切の指揮命令を受けずに独自の判断と計算によって独立して不動産業を営んでいたという実態をふまえ、両者の間でなされた利益分配合意は名義使用の対価として利益を受ける合意であるとしたうえで、「名義貸しの禁止規定に違反する合意の一部をなしている本件の利益分配金に係る合意も、これを裁判上行使することは許されない」とし、裁判上給付を求めることはできないとする解釈を示していた。
 そもそも、宅建業法のような取締法規に反してなされた契約の私法上の効力については、立法の趣旨、違反行為に対する社会の倫理的非難の程度、一般取引に及ぼす影響、当事者間の信義・公正などを検討して決定すべきとされている※3。したがって、無免許者や名義借り人の媒介によってなされた不動産取引そのものは、これを無効とするとかえって消費者に不利益が生じうることを理由として、原則有効と解されている。また、無免許者による報酬請求権は、東京地判昭和47年9月12日(判タ288号328頁WewtlawJapan文献番号1972WLJPCA09120004)で「裁判外において委託者が任意に報酬を支払うことは許されると同時に、業者がこれを受領してもそれは不当利得とはならないが、業者の側から裁判所に対してその報酬請求権について確認または給付の請求はなし得ない」として以降、同旨の判決が示されており(横浜地判昭和62年7月15日判タ650号188頁WestlawJapan文献番号1987WLJPCA07151054、大阪地判平成元年12月22日判時1357号102頁WestlawJapan文献番号1989WLJPCA12220008、東京地判平成10年7月16日判タ1009号245頁WestlawJapan文献番号1998WLJPCA07160016)、また、東京地判平成5年7月27日(判時1495号109頁WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07270004)では、傍論ではあるが「右各仲介報酬債務は自然債務というべきものである」と明確にその法的性質を述べている。
 このように、無免許者の報酬請求権を無効ではなく自然債務と解する根拠として、仲介委託者が無登録業者の仲介労務を利用しておきながら不当利得が生じないことの不当性、及びその労務を不法原因給付とするわけにはいかない旨を指摘する一方、不良宅建業者から一般消費者を保護する必要性が高いこと、またそのために免許制を設けた宅建業法の趣旨、さらに宅建業法の中に強行的規定が多いことが指摘されている※4。上記名古屋高判平成23年も、無免許者が媒介等の労をとった点を考慮して、無効とはせずに裁判上の給付を求めることはできないと解したのではないかと考えられる。
 もっとも、無免許者による報酬請求権の事案は、無免許者が、自身の依頼主に対してなす報酬請求の効力が争われたケースであり、本件のような無免許者が取引を行って得た利益の分配をめぐって争われたケース※5とは区別すべきと考える。すなわち、無免許者が媒介契約に基づいて報酬を請求する場合は、媒介された取引そのものは上述のとおり私法上の効力を有すると解されるのが一般的であり、無免許者が依頼を受けた取引を実現するために提供した労務の報酬を得たとしても、それほど非難に値しないといえる。また媒介行為自体は違法な行為ではないことを考えると、労務に基づく報酬の請求を否定するほどの反倫理性はなく、それゆえ、自然債務と解して、裁判上の給付請求までは認めないが、任意に支払われた報酬についてはこれを認めてもよいと考えられる。これに対し、名義貸しは、その行為そのものが宅建業法に反すると同時に刑事罰で禁止されている行為であり、それ自体反倫理性が強い。したがって、名義貸しにより得た利益を分配する合意が名義貸しの合意と一体となっている場合には、利益分配の合意も公序良俗に反するとして無効と解釈すべきである。このように、利益分配の合意を無効とすると、事案によっては名義貸しの合意をした一方当事者のみが利益を得るという不公平な場合も生じうるが、民法90条と併せて適用される不法な原因に基づく給付の返還請求を否定する民法708条は一定程度の不公平が生じることを認めているといえ、名義貸しの合意をした両当事者間の公平性を図る必要性は低いと考える。よって、名義貸しの合意と一体となっている利益分配合意に基づく分配請求について、自然債務ではなく公序良俗違反で無効とした本件最高裁の判断は妥当であると考える。
 最後に、本件最高裁の射程範囲について検討する。本件はこれまで多くの先例が示されてきた、無免許者が一般消費者との契約に基づいてなした媒介の報酬請求権を請求する事案とは異なり、名義貸しによる取引によって得られた利益の分配合意の効力について判示した事案である。したがって、その射程範囲は、名義貸しの合意の当事者間での利益分配合意について無効とするものであり、名義貸しによってなされた売買契約その他の私法上の契約の効力まで無効とするものではなく、また、無免許者の依頼人に対する報酬請求権に関しては、本件とは事案が異なっており、本件最高裁の解釈は及ばないと考える。


(掲載日 2021年11月15日)

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