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文献番号 2022WLJCC003
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三
1.はじめに
本稿は、次の判決を踏まえて、外国人の裁判を受ける権利とこれからの多文化共生社会の構築に関して考察するものである。
ここで取り上げる事案は、在留期間を超えて日本に滞在していた本件控訴人ら(一審原告ら)が、難民認定を申請したが不認定処分を受け、その後、退令発付処分を受け、さらに、その不認定処分について異議申立てを行ったところ棄却決定がなされ、その棄却の決定から40日以上後にその旨を告知され、その翌日に退令発付処分の執行を受けて、集団送還の方法で強制送還されたものである。
しかし、このように異議申立ての棄却の告知を受けて直ちに強制送還されたのであれば、その後、裁判で争う時間的余裕は実質的にないことになる。そのため、控訴人らは、裁判を受ける権利を侵害されたなどとして、国家賠償請求を求めたのである。しかし、一審判決(原判決)は控訴人らの請求を棄却したため、控訴人らが控訴したのが、本稿で取り上げる本判決である。
国の施策では、多文化共生の推進が行われており、地方公共団体における多文化共生の推進の指針などに資するべく「地域における多文化共生推進プラン」が策定されている。こうした施策にしたがい、多文化共生社会を構築するためには、外国人の権利を適切に保障することが重要であり、とくに裁判を受ける権利の保障は不可欠なものといえるだろう。その点において、本稿で取り上げる本判決は、重要な意味をもつものだと思われる。
2.判例要旨
まず、「異議申立棄却決定後に取消訴訟の出訴期間が満了するまで送還を停止すべき法令上の根拠はなく、異議申立棄却決定がされた被退去強制者について、取消訴訟の出訴期間が満了する前に送還を実施することが直ちに違法になるとはいえない」としつつも、「行政事件訴訟法は、原則として、処分等について審査請求できる場合においても、直ちに取消訴訟を提起することを妨げないとする自由選択主義を採用しており(行政事件訴訟法8条1項本文)、難民認定申請の不認定処分を受けた者に異議申立てによる行政不服審査によるか、取消訴訟による司法審査によるか、又はその両方の手段を採るかについての選択を委ねており、同処分に対する是正の機会を保障する仕組みを採用して」おり、「被退去強制者は、難民不認定処分に対する異議申立ての判断がされる以前においても、同取消訴訟を提起することが可能であり、また、取消訴訟の提起と併せた申立てに基づく裁判所の執行停止の決定(行政事件訴訟法25条2項)を得ることにより、退令の執行を停止させ、送還について司法上の救済措置を求めることが可能な仕組みとなっている」のであり、「上記自由選択主義のもとで、処分に対する審査請求をした場合に、これに対する裁決がされるまでの間に取消訴訟の出訴期間が経過して取消訴訟を提起することができなくならないようにするため、行政事件訴訟法14条3項は、処分又は裁決について審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から取消訴訟の出訴期間が開始する旨定めており、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後においても取消訴訟を提起することを可能にしている」とした。
そして、「平成16年の改正により導入された行政事件訴訟法46条の教示制度は、行政庁が処分の相手方に対して、被告となる者、出訴期間など取消訴訟の提起に関する適切な情報を提供し、司法審査を受ける機会を実効的に保障しようという趣旨から設けられた規定であり、実際に控訴人らは、本件各不認定処分の通知及び本件各異議申立棄却決定の通知の際に教示書を交付されており、これらの教示書には、異議の申出に対する裁決があったことを知った日から6か月以内に取消訴訟等の訴訟提起をすることができる旨の記載があ」り、また、難民異議申立事務取扱要領では、「異議申立棄却決定など結果が定まったときには、速やかにこれを通知するよう定めて」いるが、「これは、出頭通知により、異議申立てに対する決定を告知することを事前に伝えるとともに、それにより、被退去強制者に訴訟提起又は帰国などの判断をする時間を確保するよう配慮する趣旨であると解される」とした。
そして、これらのことからすれば、「難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に送還を停止すべき旨を定めた規定がないことや、被退去強制者について速やかに国外に送還すべき旨の入管法52条3項の規定が存在することをもって、被処分者の難民該当性に関する司法審査を受ける機会を実質的に奪うような結果を許容することはできない」とした。
そのうえで、「本件においては、控訴人らは、本件各異議申立棄却決定を告知されて直ちに東京入管に収容され、外部との連絡を取ることができないままに翌日には送還がされたものであり・・・・・・本件各異議申立棄却決定告知後に取消訴訟を提起する意向があったにもかかわらず、これが事実上不可能であったものと認められる」とし、さらに、本件における事実認定を踏まえたうえで、「被控訴人は、控訴人らを集団送還の対象として、これが予定どおり実施されるために、控訴人らが訴訟提起をする前に送還を実施すべく、敢えて本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせたものと解さざるを得ない」とした。
なお、被控訴人のいう「異議申立棄却決定を一斉に通知し、通知の翌日に一斉に送還するという態様は、チャーター機による集団送還を事前に察知されて妨害行為がされないようにするために必要かつ合理的な措置であり、内通による送還妨害が予想され得る事案であったことに照らすと、控訴人らの通信を制限したことをもって、国賠法上違法となることはない」との主張については、「集団送還についての情報が外部に察知されて、仮放免中の者が逃亡したり又は関係者等により集団送還を妨害されたりするのを防ぐという目的には一定の合理性が認められるとしても、集団送還についての情報が外部に察知されることにより、これについての妨害行為がされるという恐れは、抽象的な可能性にとどまり、異議申立棄却決定の通知を受けた仮放免中の被退去強制者が逃亡する可能性のあることは、集団送還の場合でなくとも同様に想定し得るものであ」り、「法務省入国管理局(現在の出入国在留管理庁)は、被退去強制者の代理人となっている又は代理人となろうとする弁護士から通知希望申出書の提出があった場合、送還予定時期の概ね2か月前に送還予定時期を通知する制度も設けており・・・・・・集団送還の対象者であってもこの制度を利用すればあらかじめおおよその送還時期を確認できることになる」のであって、「これらに照らせば、集団送還を妨害されないという目的があるとしても、異議申立棄却決定の告知を送還の直前に行うことに合理性はない」とした。また、「異議申立棄却決定が出されてからこれを告知するまでに事務的な手続のために一定の時間を要するとしても、相当な時間が経過しているにもかかわらず、敢えて仮放免許可の更新手続のために被退去強制者が入管に出頭するときまで告知を差し控えるべき理由は見出し難い」とした。
以上のことからすれば、「入管職員が、控訴人らが集団送還の対象となっていることを前提に、難民不認定処分に対する本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ、同告知後は事実上第三者と連絡することを認めずに強制送還したことは、控訴人らから難民該当性に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものと評価すべきであり、憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反するもので、国賠法1条1項の適用上違法になるというべきである」として、原判決を変更して国家賠償請求を認めたのである。
3.検討
難民不認定処分を受けた者が退令発付処分の執行によって国外に出国した場合の当該難民不認定処分の取消しを求めるにあたって、訴えの利益が認められるかどうかが争われた事案において、最高裁は、当該事案における「原審の適法に確定したところによれば、上告人は、退去強制令書の執行により既に本邦を出国したというのであるから、もはや難民の認定を受ける余地はなく、本件難民不認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものであり、これと同旨に帰する原審の判断は、是認することができる」として、訴えの利益を否定している※2。
そのことを踏まえて、毛利透は、難民不認定処分を争う場合、「当事者にとっては日本に在留し続けられるかどうかが死活問題となる。だからこそ反面で、提訴のいとまを与えずに国外退去させ、手続を終わりにしたいという国側の願望も強い」とする。また、毛利は、「そのような中、異議申立て(現在は審査請求)棄却決定をぎりぎりまで通知せず、通知とほぼ同時に退去強制を執行するという脱法的な実務が広く行われているようである」と指摘し、本稿で取り上げている「本判決は、このような実務に警鐘を鳴らすものとして意義深い」と評価している※3。
もちろん、本稿も、毛利のこうした評価に賛同するものである。
ところで、最高裁は、「憲法22条は外国人の日本国に入国することについてはなんら規定していないものというべきであって、このことは、国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量により決定し得るものであって、特別の条約が存しない限り、国家は外国人の入国を許可する義務を負わないものであることと、その考えを同じくするものと解し得られる」※4としており、出入国管理制度に関する国の裁量を広く認めている※5。しかし、たとえそうした考えが妥当であるとしても、当然のことではあるが、出入国管理の対象となる外国人の権利や利益を無視してよいわけではない。ところが、入国の許否に関する裁量が、外国人の権利や利益に関する扱いにまで不当に拡大されているのではないかと疑いたくなる出来事を伝える報道もあるように感じられる。まして、本件事案のように、実質的に裁判を受ける権利を否定するような扱いが行われるとすれば、とくに難民認定を求める外国人には、法の支配の理念が及ばないことになる。
他方で、前述のように国の政策においては多文化共生を推進することになっており、実際、地方公共団体における多文化共生の推進の指針や計画に資するために、2006年に「地域における多文化共生推進プラン」が策定され、さらに多様性や包摂性のある社会実現の動きなどを踏まえて、2021年にその改訂が行われている。それらでは、外国人の権利や利益をまもるための諸々の施策の実施が求められている。
このように、国が地方公共団体における多文化共生の推進を促しながらも、同じ国が本件事案のように外国人の権利や利益を否定する扱いを行うことは、はたして整合性のある政策といえるのだろうか。
もし、本当に多文化共生社会を構築していくのであれば、きちんと外国人の権利や利益を保障し、その侵害について救済できるようにしなくてはならないだろうし、そうであるならば、少なくとも、外国人にも裁判を受ける権利を保障しなくてはならないはずである。
本判決は、もちろん、妥当な判決と評価されるべきものであるが、しかし、同時に、日本の社会における外国人の権利や利益の保障や救済に関する不十分さを如実に示したものであり、かつ、政府の政策の整合性のなさを明らかとしたものといえるだろう※6。
4.おわりに
本判決は、法の支配の理念を前提とするならば、当然のものだといえるだろう。しかし、こうした事案が争われること自体が、日本における根深い問題を示しているものと思われる。国は、一方で多文化共生を推進し、外国人の権利や利益をまもる施策の実施を掲げながらも、他方で、外国人の裁判を受ける権利を実質的に否定し、外国人の権利や利益の司法的救済の道を閉ざそうとしている。
こうしたダブルスタンダード(もちろん、二重の基準のことではない)を是正していかない限り、今後、日本は、国際社会からの信頼を失うことになりかねないのではないだろうか。
(掲載日 2022年1月31日)