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文献番号 2022WLJCC005
関西大学会計専門職大学院 教授
中村 繁隆
1.はじめに
本事件は、租税特別措置法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下、措置法という)40条の4に定める、いわゆる外国子会社合算税制の適用の可否が争点となった事案である。
本事件は、先行研究の資料において「書面の提出失念により特別措置の適用が認められなかった裁判例」の1つとして紹介されている※2。本事件には3つの争点※3があるが、本コラムでは紙幅の関係上、第2の争点である適用除外記載書面の添付要件(措置法40条の4第7項。以下、同じ)に焦点を当て、若干の考察を行いたい。また、上記の先行研究にはなかった、本事件前に措置法40条の4の適用が問題となった事件※4(以下、前事件という)を加えて考察する。
2.事案の概要
国内居住者である原告は、中華人民共和国香港特別行政区(以下、香港という)において設立された外国法人であるa社の株式を保有しており、a社は、香港において設立された外国法人であるb社の株式のほとんどを保有している。本件は、原告が、平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下、所得税等という)の確定申告に当たり、a社及びb社が措置法40条の4第1項の特定外国子会社等(外国子会社合算税制の適用対象たる外国法人。以下、同じ)に該当しないことを前提に申告をしたところ、西宮税務署長から、平成23年12月末日時点の両社及び平成24年12月末日時点のa社が特定外国子会社等に該当するとして、その課税対象金額を原告の雑所得の総収入金額に算入することによる各更正処分(以下、本件各更正処分という)及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件各賦課決定処分という)を受けたため、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
本コラムで取り上げる本事件の争点は、原告が法定申告期限内に西宮税務署長に対して提出した平成24年分の所得税の確定申告書及び平成25年分の所得税等の確定申告書(以下、本件各確定申告書という)に適用除外記載書面の添付がなかったことにより、外国子会社合算税制の適用除外規定(措置法40条の4第3項。以下、本件適用除外規定という)が適用されないこととなるか否かである。
3.適用除外記載書面に関する双方の主張
まず、原告は、「原告が本件各確定申告書に適用除外記載書面を添付していなかったとの一事をもって本件適用除外規定の適用を否定することは許されず、客観的に本件適用除外要件を満たしていれば、同規定の適用を受けることができるというべきである」と主張する。この主張は、外国子会社合算税制の基本的構造と申告納税制度の2点を根拠としたものであった。
一方、被告は、「特定外国子会社等に該当するかどうかは、これを規定する措置法40条の4第1項等の文言から明白であり、客観的な資本関係及び外国法人の租税負担割合から形式的に容易に判定できるものであるから、独自の見解に基づき特定外国子会社等に該当しないと判断して適用除外記載書面を提出しなかった者を救済するための解釈をしなければならない理由はない」と主張する。この主張は、租税法規が原則として文理解釈によるべきであるとする点を根拠としたものであった。
4.東京地裁の判断
東京地裁はまず、「措置法40条の4第7項は、同条3項に定める本件適用除外規定は、政令で定めるところにより、確定申告書に同規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り、適用する旨を定めている。その趣旨は、本件適用除外規定の適用を受けることについて納税者の意見を明らかにさせるとともに、その根拠となる資料を保存させることで、課税庁が本件適用除外要件の該当性を適正かつ迅速に判断することができるようにし、租税法律関係を早期に確定させることにあると解される」と、措置法40条の4第7項について判示した。
そして、原告が確定申告の段階で当該外国法人につき特定外国子会社等に該当しないと判断したために適用除外記載書面を添付しなかった場合にまで措置法40条の4第7項により本件適用除外規定が適用されなくなると解するのは相当ではない旨主張している点に対して、東京地裁は以下のように判示した。「特定外国子会社等に該当するための要件は、・・・外国法人の発行済株式総数のうちに居住者等の保有株式が占める割合等により客観的に判定し得るものであり、本件においても、a社の最高執行責任者等の地位にあった原告は、同社及びb社について上記の保有割合等を確認することにより上記各社が特定外国子会社等に該当することを容易に判断することができたといえる。原告が、本件各確定申告書の提出時において、上記各社が特定外国子会社等に該当しないと判断し、そのために適用除外記載書面を添付しなかったのであるとしても、それは、・・・原告が、居住者等による外国法人の実質的支配や株式の分散保有による租税回避の意図等の明文にない要件を満たさなければ特定外国子会社等に該当しないものとする独自の解釈を採っていたことによるものにすぎない」。
最後に、東京地裁は、「本件において原告が適用除外記載書面を添付しなかったことにつき、措置法40条の4第7項の規定の適用が制限され、同条3項の本件適用除外規定が適用されるものとなると解することはできず、原告は、本件各確定申告書の提出時に適用除外記載書面を添付しなかった以上、本件適用除外規定の適用を受けることができないというべきである」と判示した。
5.検討
5.1.前事件の紹介
前事件は、本事件と同様に、措置法40条の4における適用除外記載書面が争点の1つとなった事案である。前事件の概要は、以下のとおりである(なお、前事件における措置法は、平成21年法律第13号による改正前のものである点に留意)。
本件は、デンマーク王国で設立された法人の発行済株式を100%保有していた原告が、租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下、措置法といい、5.1.においてのみ同じ)40条の4の規定による所得の課税の特例(以下、この特例による課税の制度を外国子会社合算税制という)が適用されないものとして平成21年分及び平成22年分(以下、本件各係争年分という)の所得税の確定申告をしたところ、目黒税務署長が、原告の所得について外国子会社合算税制が適用され、同条1項に規定する課税対象留保金額に相当する金額を控訴人の雑所得に算入すべきであるとして、原告に対し本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(以下、併せて本件各処分という)をしたため、原告が、被告に対し、本件各更正処分の一部及び本件各賦課決定処分の取消し並びに本件各処分がいずれも存在しないことの確認を求めるとともに、原告が本件各処分に基づく納税の猶予を申請したところ、東京国税局長がこれを許可しない旨の本件不許可処分をし、さらに、東京国税局長が原告に対し徴税手続として本件各差押処分をしたことから、本件不許可処分及び本件各差押処分(以下、併せて本件各徴収処分という)の取消しを求めた事案である。
前事件には4つの争点※5があるが、第2の争点(原告の本件各係争年分の所得税の額の計算上、適用除外規定が適用されるか)が、本コラムと関係する。
第一審の東京地裁は、「同条6項は、同条4項の規定は、確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り、適用する旨規定しているところ、この規定の趣旨は、適用除外規定の適用を受けることについて納税者の意見を明らかにさせるとともに、その根拠となる資料を保存させることで、課税庁が適用除外要件の該当性を適正かつ迅速に判断することができるようにし、租税法律関係を早期に確定させるということにあると解される。このことに加え、・・・租税法規は、原則として文理解釈によるべきことをも併せると、確定申告書に上記の書面を添付していない場合には、適用除外規定は適用されないと解するほかないというべきである」と判示し、原告の請求を棄却した※6。
次に、控訴審の東京高裁は、第一審の判示に以下の理由を追加した。「控訴人は、・・・平成27年改正により措置法40条の4第8項が設けられ、確定申告書に適用除外記載書面の添付がない場合であっても、添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、適用除外規定を適用することができるとされたところ、同改正前の本件各係争年分の事案にも同項の趣旨は及ぶべきであるとし、控訴人には上記やむを得ない事由があった旨主張する。しかしながら、・・・控訴人は、本件各係争年分の確定申告について、専門家であるP税理士に関係書類を渡して税務書類の作成を依頼したことが認められるのであり、適用除外記載書面の添付がなかったことについて控訴人にやむを得ない事情があったとは認められず、仮に同改正前の事案について同項の趣旨を及ぼすべき場合があると解する余地があるとしても、本件はそのような場合に当たるとはいえないのであって、控訴人の上記主張は採用の限りではない」。
そして、前事件は、上告棄却・不受理により確定した。
5.2.前事件を加えた考察
前事件は、原告が非居住者の時に稼得した所得に対して外国子会社合算税制が適用されている点に本事件との違いがあるものの、同税制における適用除外記載書面の添付要件に関する裁判所の判断を伺い知ることができる。
前事件と本事件の判示において、共通する点は以下の3点である。第1は、適用除外記載書面の添付を規定する措置法40条の4第7項(前事件では第6項)の趣旨に関する点である。第2は、租税法規の解釈においては、原則として文理解釈によるべきであるとする点である。第3は、適用除外記載書面の添付がないという理由で適用除外規定(本事件では同条第3項、前事件では同条第4項。以下同じ)の適用がないと判示することが可能であったにもかかわらず、適用除外規定に係る事業基準等の該当性にまで言及している点である。
前事件と本事件の判示において、異なる点は以下の2点である。第1は、上記共通点の第3の理由である。前事件は「仮に前記・・・の点をおくとしても」と述べ、適用除外規定に係る事業基準の該当性に言及するのに対し、本事件は「事案に鑑み」とだけ述べている点である。第2は、平成27年度税制改正で設けられた宥恕規定(旧措置法40条の4第8項)について、前事件でのみ述べられている点である。
このように、前事件と本事件の判示には異同点はあるものの、結論としては、適用除外記載書面の添付がなければ適用除外規定の適用は受けられないと判示されている。これは、上述の先行研究の資料において、「書面の提出等の不備により多額の経済的負担を負った場合に事後に治癒を求めることには、相応の困難が伴うことを踏まえますと、書類の提出等の漏れ・・・が生じないように、事前に慎重なチェックを行うことが重要です※7」との指摘に沿う事件であったともいえる。
6.おわりに
本コラムでは、措置法40条の4における適用除外記載書面の添付要件について、前事件を加えて若干の検討を行った。その検討結果から明らかになったことは、前事件と同様、本事件においても適用除外記載書面の添付要件が明文化されており、文理解釈上その添付がなければ適用除外規定の適用が受けられない、ということであった。言い換えると、適用除外記載書面の添付がなかった場合には、実体として適用除外基準を満たしていて、それを納税者が立証できたとしても、適用除外記載書面の添付不備を理由とした合算課税が行われる法の建付けになっていた※8、ということである。
なお、措置法40条の4における適用除外記載書面の取扱いは、平成29年度税制改正※9によって、その位置づけが変更されている。当該改正前に外国子会社合算税制の適用除外を受けるための要件として設けられていた確定申告書への書面添付要件及び資料等の保存要件は、廃止された※10。そして、これらの要件に代えて、引き続き本制度の実効性を確保する観点から、税務当局が求めた場合に、外国関係会社が経済活動基準を満たすことを明らかにする書類等の提示又は提出がないときには、いわゆる経済活動基準を満たさないものと推定することとされた※11。従って、本事件の射程は、当該改正前の措置法40条の4に関する事案に限定されると考えられる。また、当該改正前において適用除外記載書面の添付がなかった場合に適用除外規定の適用が受けられるか否かは、前事件における原告の主張にあった平成27年度税制改正による宥恕規定の趣旨が及ぶと解され得るか否かに拠らざるを得ないように思われる※12。
(掲載日 2022年2月21日)