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判例コラム

 

第259号 審決取消訴訟は後出しじゃんけんで勝つ!? 

-商標「福米」の使用が認められた事例-
~知財高裁令和3年9月15日判決※1

文献番号 2022WLJCC011
金沢大学 教授
大友 信秀

1.本件を紹介する理由
 本件は、知的財産高等裁判所(以下、知財高裁という。)が、指定商品を米とする「福米」という商標(以下、本件商標という。)※2に対する不使用を理由とする商標取消審判(以下、本件審判という。)において、不使用を認め登録を取り消すとした特許庁の審決(以下、本件審決という。)を取り消した事案である※3
 商標権者(審判被請求人)が示した本件商標使用の事実に対して、審判請求人からは、商標権者の提出した証拠の矛盾が明らかにされ、審判では、商標権者の主張は認められなかった。
 これに対して、本件訴訟では、商標権者(原告、以下Xとする。)が、審判で主張していた多数の事実の中から矛盾しない主張と証拠の組み合わせを再構成し、使用の事実の立証に成功した。
 商標権者の立場からは、商標使用の事実の立証の困難さを示す点で、審判請求人の側からは、商標権者の主張・立証の矛盾を詳細に明らかにしている点で、不使用取消審判での対応について、また、訴訟での主張・立証の具体的手法が示されており、今後の実務の参考になる好例として紹介する。

2.本件の内容
(1) 特許庁における手続きの経緯(本件訴訟までの経緯)
 Xは、平成22年11月9日に、本件商標について指定商品を第30類「米」として商標登録出願をし、平成23年9月9日に商標権の設定登録を受けた。
 Yは、平成31年3月1日、本件商標の商標登録について、商標法50条1項所定の本件審判を請求し、同月18日にその登録がされた。特許庁は、令和3年3月5日、本件商標の商標登録を取り消す旨の本件審決をし、同月15日に、その謄本がXに送達された。
 本件審決の要旨は、本件判決に次のようにまとめられている。
 「その要旨は、①Xが本件審判の請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」という。)内に本件商標が付された商品「米」を乙、甲及び乙が運営するゴルフ場・・・(以下「本件ゴルフ場」という。)開催のゴルフコンペの幹事の者に販売した事実は、いずれも認められない、②Xが要証期間内に「ふくまい」、「福米」が表示されたステッカー(以下「本件ステッカー」という。・・・)を商品「米」の包装に貼付した事実は認められない、③甲が要証期間内にその運営する食堂・・・において商品「米」に関する広告に本件商標を付したものを展示又は頒布した事実は認められず、また、Xが甲に対して本件商標の使用を許諾した証明書の提出はないから、甲は、本件商標の通常使用権者であると認めることはできない、④乙が平成30年11月14日に本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内の物販コーナーで「福米2018」と表示された米を販売のため展示していたとしても、Xが乙に対して本件商標の使用を許諾した証明書の提出はないから、乙は、本件商標の通常使用権者であると認めることはできない、⑤したがって、Xは、要証期間内に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定商品について本件商標を使用していた事実を証明したものと認められず、また、Xは、上記指定商品について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていないから、本件商標の商標登録は、商標法50条の規定により、取り消すべきものであるというものである。」
 これに対して、Xは、令和3年4月9日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

(2) 本件判決
①Xの主張
 Xは、本件商標の使用について、本件審決で否定された使用態様であるX自身の使用及びXが代表取締役等を務める他者を通常使用権者とする使用に代えて、Xが譲渡した米に、他者(本件商標が付された商品「米」を販売していたとするゴルフ場を運営する乙)が本件商標を付して、商品「米」を販売したとの使用態様を、以下のように、新たに主張・立証した。
 「Xは、業として、商品「米」を販売する個人事業者である。また、Xは、甲の代表取締役及び本件ゴルフ場を運営する乙の代表取締役である。」
 「Xは、平成28年10月から、乙に対し、商品「米」を卸売販売していた。乙は、平成30年10月1日から同年11月末日までの間、本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて、ゴルフ場の利用者に対し、別紙記載の本件ステッカー・・・が米袋に貼付された新米(銘柄「福米2018」。以下、単に「福米2018」という場合がある。)を販売した・・・。乙は、上記販売に先立ち、Xから、福米2018を購入した。」
 「本件ステッカーは、X又は乙によって、「福米2018」の米袋に貼付されたものである。本件ステッカーには、別紙記載のとおり、「ふくまい」、「福(「福」の文字を丸で囲んでなる)米」及び「登録商標 福米2018」の各文字、「Xの似顔絵」等が表示されている。撮影日2018年11月14日の2枚の写真(以下「本件各写真」という。・・・)は、本件ゴルフ場のクラブハウスのロビーにおいて本件ステッカーが米袋に貼付された「福米2018」が販売のため展示されている様子を撮影したものである。本件各写真から、遅くとも同日時点までに、本件ステッカーが作成されていたことは明らかである。」
 「本件ステッカーに表示された「ふくまい」及び「福(「福」の文字を丸で囲んでなる)米」の各文字は、「福米」の文字を標準文字で表してなる本件商標と社会通念上同一の商標である。」
 「・・・Xが乙に対して本件ステッカーが米袋に貼付された「福米2018」を販売した行為及び乙が本件ゴルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された「福米2018」を販売した行為は、それぞれ本件商標と社会通念上同一の商標を「商品の包装」に付し、「商品の包装に標章を付したもの」を譲渡し又は引き渡す行為(商標法2条3項1号、2号)に該当するから、本件商標の使用に当たる。」
 「乙の代表取締役であるXは、乙に対し、本件商標の使用を黙示的に許諾していたから、乙は、本件商標の通常使用権者である。」

②Y(被告)の主張
 「本件各写真・・・の撮影日が2018年11月14日であることは否認する。本件各写真の撮影日が同日であることの客観的な裏付けがないこと、本件各写真には、「2018/11/14」と日付が入っているが、X提出の他の写真・・・には日付が入っていないこと、本件ゴルフ場のクラブハウスのフロント付近で日常的に販売されている商品をわざわざ写真撮影する理由も考え難いこと、本件ゴルフ場は、Xが代表取締役を務める乙が運営するゴルフ場であるから、要証期間外でも客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し、写真を撮影することは容易であることからすると、本件各写真の撮影日が同日であるか疑わしいといわざるを得ない。」
 「乙による本件ゴルフ場の利用者に対する福米2018の販売についてXが証拠として挙げる乙名義の「精算書控」及び「御精算書」・・・は、本件審判段階では提出されず、本件訴訟に至って初めて提出されたものであること、乙はXが代表取締役を務める会社であり、発行名義を乙とする精算書をいつでも作成できること、令和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーで「福米」を表示した米が販売された際に発行された「御精算書」・・・には、「福米」の文字の記載がなく、甲46の1ないし9記載の発行日付当時に実際に発行されていた精算書に「福米」の文字が表示されていたものとは、にわかに信用し難いことに照らすと、甲46の1ないし9の証明力は低いというべきである。」
 「乙が本件ゴルフ場の利用者に対し本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018を販売したとのXの主張は、本件審判段階で、Xが本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商品「米」の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出された乙の取締役会議事録・・・の記載と矛盾する。」
 「本件各写真に撮影された「福米2018」、「5kg・2kg」、「2,200円 700円」と記載された価格表(以下「本件価格表」という。)によれば、2018年11月頃本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内で販売されていた米は、2kgの米(700円)と5kgの米(2200円)のはずであるが、Xが本件ゴルフ場に交付した平成30年(2018年)10月1日付け納品書・・・には、「2018年 新米」、「数量30」、「単価4200円」、「合計金額12万6000円」と記載されており、その価格からみて、2kgの米と5kgの米のいずれにも当たらない。加えて、Xの同年分の確定申告書・・・において、Xが乙に販売した米は、上記納品書記載の同年10月1日に販売した12万6000円分以外にないことからすると、Xが同年中に本件ゴルフ場に2kgと5kgに袋詰めされた米を販売した事実は認められない。したがって、Xが本件ステッカーを福米2018の米袋に貼付して、これを乙に販売した事実は、認められない。」
 「Xの主張によれば、乙はXから商品を購入して販売するだけの者であり、転々流通する商品を取り扱う者は通常使用権者とはいえないから、乙は、本件商標の通常使用権者に当たらない。」

③裁判所の判断
 1) 認定事実
 「Xは、茨城県内で、米の販売をする個人事業者である。乙は、昭和60年に設立された、ゴルフ場の造成、経営等を目的とする株式会社であり、茨城県内で、本件ゴルフ場を経営している。Xは、平成24年9月18日に乙の代表取締役に就任し、平成30年3月2日に辞任した後、令和2年3月13日、再び就任し、同日以降、その代表取締役の地位にある・・・。また、Xは、一般廃棄物収集、運搬及び処理等を目的とする株式会社である甲の代表取締役である・・・。Xは、平成22年11月9日、本件商標(「福米」の文字を標準文字で表してなる商標)について商標登録出願をし、平成23年9月9日、商標権の設定登録を受けた。Xは、平成28年10月頃から、乙及び甲に対し、Xが生産した米や自家用野菜を販売するようになった・・・。Xは、平成30年10月1日、乙に対し、「2018年の新米」を「数量」30、「単価」4200円、代金合計12万6000円・・・で販売し、これを納品した・・・。乙は、本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて、平成30年10月4日、本件ゴルフ場の利用者のAに対し、「福米」(5kg)1袋を代金2200円・・・で、同月8日、同利用者のBに対し、「福米」(5kg)2袋を代金4400円・・・で、同月15日、同利用者のCに対し、「福米」(5kg)1袋を代金2200円・・・で、同月21日、同利用者のDに対し、「福米」(5kg)1袋を代金2200円(甲46の5)で、同月28日、同利用者のEに対し、「福米」(5kg)2袋を代金4400円(甲46の6)で、同年11月18日、同利用者のFに対し、「福米」(5kg)2袋を代金4400円・・・で、それぞれ販売した。平成30年11月14日に撮影した2枚の本件各写真・・・は、本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内に設置された台の上に、別紙記載の本件ステッカー・・・が貼付された米袋が陳列された状況、その台及び壁に「期間限定」、「福米2018」、「5kg・2kg」、「2,200円700円」及び「2018年11月末日までの限定価格。」との記載のある3枚の紙(本件価格表)が掲示された状況を撮影した写真である。」

 「前記・・・の認定事実を総合すれば、乙は、平成30年10月1日にXから新米を購入した後、同月4日、8日、15日、21日、28日及び同年11月18日の6回にわたり、本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて、本件ゴルフ場の利用者(A、B、C、D、E及びF)に対し、本件ステッカーが米袋の包装に貼付された5kg入りの「福米2018」(甲46の1ないし3、5ないし7の「精算書控」及び甲46の8の「御精算書」に「福米」と表示されたもの)を1袋当たり代金2200円で販売したことが認められる。」

 「これに対しYは、①本件各写真・・・の撮影日が2018年11月14日であることについては、客観的な裏付けがなく、撮影日が同日であることは疑わしい、②発行名義を乙とする「精算書控」及び「御精算書」(甲46の1ないし9)は、本件審判段階では提出されず、本件訴訟に至って初めて提出されたものであること、乙はXが代表取締役を務める会社であり、発行名義を乙とする精算書をいつでも作成できること、令和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーで「福米」を表示した米が販売された際に発行された「御精算書」・・・には、「福米」の文字の記載がなく、甲46の1ないし9記載の発行日付当時に実際に発行されていた精算書に「福米」の文字が表示されていたものとは、にわかに信用し難いことに照らすと、甲46の1ないし9の証明力は低い、③乙が本件ゴルフ場の利用者に対して福米2018を販売したとのXの主張は、Xが本件審判段階で本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商品「米」の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出された乙の取締役会議事録・・・の記載と矛盾する旨主張する。
 しかしながら、①については、本件各写真・・・の画像データ・・・の「プロパティ」の「詳細」の「撮影日時」欄にそれぞれ「2018/11/14 13:24」・・・及び「2018/11/14 13:25」(甲28の「上」の写真に係る画像データ)と表示されていること、本件各写真に写された本件価格表には「期間限定」、「福米2018」及び「2018年11月末日までの限定価格。」との表示があり、その表示内容は、本件各写真の撮影日時が「2018/11/14 13:24」及び「2018/11/14 13:25」であることと矛盾しないことに照らすと、本件各写真の撮影日は2018年11月14日であると認められる。Yが①について指摘するX提出の他の写真(甲15、29ないし31)に日付が入っていない点、本件ゴルフ場のクラブハウスのフロント付近で日常的に販売されている商品を写真撮影する理由も考え難い点、同日以外の日に他の客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し、写真撮影することは容易であるとの点は、上記認定を覆すものではない。
 次に、②については、甲46の1ないし3、5ないし7は、乙が運営する「本件ゴルフ場」作成名義の「精算書控」、甲46の8は、甲46の3の「精算書控」に対応する「本件ゴルフ場」作成名義の「御精算書」であり、それぞれ利用者の氏名、「お客様番号」、発行日時、「精算金額」のほか、「精算項目」欄にプレーフィ、利用税等とともに、「福米(5kg)」、「数量」欄に「1」又は「2」、「単価」欄に「2,200」、「金額」欄に「2,200」又は「4,400」との記載があり、その体裁に特段不自然な点は認められないから、甲46の1ないし3、5ないし8の記載内容は信用できるものといえる。この点に関しYが提出する「本件ゴルフ場」作成名義の「御精算書」・・・には、「2021年6月20日 13:29」、「精算項目」欄に「〈軽〉新米(2kg)」、「数量」欄に「1」、「単価」欄に「800」、「金額」欄に「800」と記載され、「福米」の記載はないことが認められる。しかし、乙1は、要証期間経過後の令和3年6月20日に単価800円で販売された「新米(2kg)」の精算書であり、甲46の1ないし3、5ないし8に係る「福米」とは販売時期が異なること、本件各写真に撮影された本件価格表に表示された「福米2018」の「2kg」の販売価格「700円」と単価が異なることに照らすと、乙1に係る「新米(2kg)」は,甲46の1ないし3、5ないし8に係る「福米」と異なる商品であると認められるから、乙1に「福米」の記載がないことは、甲46の1ないし3、5ないし8の記載内容の信用性を揺るがすものではない。また、Xは、本件審決において本件審判段階で主張した本件商標の使用の事実が認められなかったため、本件訴訟において、本件商標の使用の事実を改めて整理して主張し、その立証のため、甲46の1ないし9を新たに提出したものであるから、甲46の1ないし9が本件審判段階では提出されなかったことや乙はXが代表取締役を務める会社であることは、甲46の1ないし3、5ないし8の信用性を左右する事情には当たらない。
 さらに、③については、本件審決は、Xによる本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主張について、平成30年10月1日に開催された乙の取締役会議事録(審判乙34・本訴甲45)には、「第1号議案として、本件商標権者が個人事業主として生産している米(福米2018)を本件ゴルフ場のロビー内の物販コーナーで販売することについて承認された旨の記載があるが、当該米についての販売期間の記載はない。」(審決書13頁36行~14頁1行)として、上記主張は認められない旨判断した。Xは、本件審決の上記判断を踏まえて、本件訴訟において、上記物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主体を、XからXが代表取締役を務める乙に構成し直して、乙が本件ゴルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018を販売したとの主張をするに至ったものと認められるから、Xの主張の変遷が不自然であるということはできないし、上記取締役会議事録の記載と矛盾するということもできない。
 したがって、Yの上記主張はいずれも採用することができない。他に前記・・・の認定を左右するに足りる証拠はない。」

 2) 本件商標の通常使用権者による本件商標の「使用」について
 「本件商標は、「福米」の文字を標準文字で表してなる商標である。本件ステッカー・・・には、別紙のとおり、左部から右部にかけて順に、毛筆風の書体で「ふくまい」の文字を縦書きしてなる標章、似顔絵の図形、赤地に毛筆風の書体で「福(「福」の文字を丸で囲んでなる)米」の白抜き文字を縦書きしてなる標章、Xを商標権者とする本件商標の商標登録証が、下部に赤地に「登録商標 福米2018」の白抜き文字を横書きしてなる標章が表示されていることが認められる。本件商標と本件ステッカーに表示された「福(「福」の文字を丸で囲んでなる)米」の白抜き文字を縦書きしてなる標章(以下「本件標章」という。)を対比すると、本件標章は、本件商標と書体及び外観は異なるが、構成文字は「福米」の2文字である点で共通し、「ふくまい」の称呼を生じる点においても同一であるから、本件商標と社会通念上同一の商標であるものと認められる。そして、前記・・・認定の乙が平成30年10月4日、8日、15日、21日、28日及び同年11月18日の6回にわたり、本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて、本件ゴルフ場の利用者に対し、本件ステッカーが米袋の包装に貼付された5kg入りの「福米2018」を1袋当たり代金2200円で販売した行為は、本件商標の指定商品に含まれる「福米2018」の包装に本件標章を付したものを譲渡したものとして、商標法2条3項2号の「譲渡」に該当するものと認められる。前記・・・の認定事実によれば、Xは、乙の代表取締役に在任中の平成28年10月頃から、乙に対し、Xが生産した米や自家用野菜を販売していたこと、乙が平成30年10月4日、8日、15日、21日、28日及び同年11月18日に本件ゴルフ場の利用者に対して販売した本件ステッカーが米袋の包装に貼付された「福米2018」は、同年10月1日に乙がXから購入した新米を「5kg」入りの米袋に小分けして販売されたものであることが認められる。また、本件ステッカーには、本件標章、「登録商標 福米2018」の白抜き文字を横書きしてなる標章及びXを商標権者とする本件商標の商標登録証が表示されていることからすると、Xは、本件ステッカーの作成に関与し、本件ステッカーが米袋の包装に貼付された「福米2018」を乙が販売することを承知していたものと認められる。」
 「これらの事実を総合すると、Xは、乙による上記販売前に、乙に対し、本件商標の使用を黙示的に許諾していたものと認めるのが相当である。したがって、乙は、上記販売当時、本件商標の通常使用権者であったものと認められる。これに対しYは、乙はXから商品を購入して販売するだけの者であり、転々流通する商品を取り扱う者は通常使用権者とはいえないから、乙は、本件商標の通常使用権者に当たらない旨主張する。しかしながら、Yの上記主張は、前記・・・の認定事実に照らし、採用することができない。」
 「以上によれば、本件商標の通常使用権者である乙は、要証期間内である平成30年10月4日、8日、15日、21日、28日及び同年11月18日、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品「米」に本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたものと認められる。したがって、その余の点について判断するまでもなく、X主張の取消事由は理由がある。」

 3) 結論
 「以上のとおり、X主張の取消事由は理由があるから、本件審決は取り消されるべきものである。」

3 本件の分析
(1) YによるX提出に係る証拠の証拠力否定とその結果としての商標登録取消審決
①X提出の証拠の証拠力の否定
 1) Yは、X提出の証拠写真の撮影年月日が不明である点を主張した。
 2) Yは、甲がXから米を購入するとした議決について、甲はXが代表取締役を務めているため、証拠としての客観性を著しく欠くと主張した。
 3) Yは、甲の取締役による証明書について、上記と同様、証拠としての客観性を著しく欠くと主張した。
 4) Yは、XがN氏に販売したことを示す証拠として提出された2018年11月14日付けの領収書が、2019年10月から実施された軽減税率に対応した書式のものであり、2019年5月以前には存在していなかったと主張した。

②商標としての使用を示していないこと
 1) Yは、X提出の証拠である精算書類に「福米」との記載がないと主張した。
 2) Yは、X提出の本件商標と同一の標章の表示がある本件ステッカーについて、これがどこでどのように使用されているか不明であると主張した。
 3) Yは、甲が作成・展示した本件商標と同一の標章が表示されたポスターの表示について、ポスターを表示した食堂のサービス促進のために使用されたものであり、商品「米」に関する広告に当たらず、商標の使用に該当しないと主張した。
 4) 甲がXから米を購入するとした決議に、本件商標を付した米であることが示されていないと主張した。
 5)本件ゴルフ場で販売された事実を証するものとしてXにより提出された写真に表示された「福米2018」の価格が5kg2,200円、2kg700円となっているのに対して、Yが提出した領収書は「福米20kg×15」が1万500円、「福米20kg」の価格が700円となっており、対応していないと主張した。

③Xによる使用がないこと
 Yは、X提出の写真の撮影者がXでないため、写真中の商標の表示がXの使用を示すものではないとする主張をした。

④通常使用権を有する者の使用がないこと
 Yは、Xが根拠となる証拠及び主張を一切行っていないことから、甲や乙による使用が通常使用権に基づくものではないと主張した。

(2) 本件審判におけるXの主張
①Xによる米販売の事実
 Xは、Yによる上記主張に対して、Xが甲及び乙に対して米を販売していたことを主張した。なお、このうち、Xが乙に販売した内容は、「2018年の新米」を「数量」30、「単価」4200円で代金合計が12万6000円である。

②本件商標を付した本件ステッカーの作成
 Xは、本件ステッカーを甲の総務部総務課課長に指示して作成したと主張した。

③2018年11月14日に本件商標が付された米が本件ゴルフ場で販売されていたこと
 Xは、2018年11月15日に開催されたゴルフコンペ主催者が、前日に、コンペ賞品として利用を予定していた本件商標を付した米が本件ゴルフ場で販売のため展示されていた様子を撮影した写真を証拠として提出した。

(3) 裁判におけるXによる主張の再構成
 Xは、本件審判が商標登録を取り消す旨の本件審決を下したことを受け、使用に関する主張・立証の構成を再構成した。
 Xが本件審判で、乙による本件商標を付した米が販売されたことを証明するものとして提出した領収書が、Yにより、その購入時には存在しなかったことが主張・立証されたため、これとは別の者による購入があったとの証拠が新たに提出された。
 そして、これに合わせ、本件審判での主張である、Xによる本件商標商品の販売という商標の使用があったとするのではなく、Xが販売した米に乙が商標を付して販売したとする、乙を通常使用権者とする使用に主張を変更した。
 これにより、Xの主張のうち、本件審判でも認められていた、①Xによる米の販売、②本件商標と同一の標章を付したステッカーの存在、③本件ゴルフ場に本件商標と同一の標章を付した米が2018年11月14日に展示されていたことに、新たに、④本件ゴルフ場で本件商標が付された米が販売された事実が加わり、乙を通常使用権者とする本件商標の使用が認められることとなった。

(4) 審判と裁判の非連続性
 本件では、Xが主張した使用の事実が本件審判においてすべて認められなかった。これに対して、Xは、本件審判において認められた事実を元に、新たな証拠を提出し、本件審判では主張していなかった者への販売を主張して、本件商標の使用を認めさせることに成功した。
 この点について、本件判決は、「Xは、本件審決の上記判断を踏まえて、・・・本件商標の使用の主体を・・・構成し直して、・・・主張をするに至ったものと認められるから、Xの主張の変遷が不自然であるということはできない・・・。」とした。
 しかしながら、これが第1審が地裁で、第2審が高裁という通常の民事訴訟であれば、同様の主張の変更が行われた場合に、第2審の裁判所が同様の判断をするとは考えにくい。
 本件判決のような判断が行われたのは、審判が特許庁という行政機関により行われており、裁判が裁判所という司法機関で行われていることで、一般の民事訴訟とは異なる構造に起因していると考えるほうが自然である。
 そうだとすれば、今後の審決取消訴訟の対応としては、審判では相手方の対応を見極め、訴訟において、再構成した主張により、その弱点をつくという後出しじゃんけん的な対応も戦略的に考えられることになりそうである(あるいは、もうすでにそのように考えられているのかもしれないが)。

4 おわりに
(1) 証拠力について
 本件では、Xが本件審判において提出した領収書が、領収書の対象商品の販売日には存在していなかったことがYにより示された。このような事実は、証拠提出者が誠実に証拠をそのまま提出していないことを強く推認させるものである。そのような事実を前提にすると、たとえば、写真についてもデジタルカメラによるものであれば、痕跡を残さずにプロパティ情報の表示を変更することは可能であるため、その証拠力についても疑いをもたざるを得なくなる。本件のように、一つの写真が紛争の帰趨を決する場合、このような証拠の取り扱いについて裁判所の対応が極めて難しいものとなることが予想される(したがって、一つでも証拠に捏造や事実と異なる情報の挿入があれば、そのような証拠を提出した者の証拠については、捏造していないことや事実に忠実に従っていることの証明を証拠提出者に厳しく課すことも求められよう。)※4
 この点で、Xが本件訴訟になってから提出した「精算書控」及び「御精算書」の証拠力については、本件審判で、Xが代表取締役を務める甲及び乙が本件商標を使用したとする多数の証拠を提出していたのにもかかわらず、なぜ、「福米」との表示がある上記証拠を訴訟になるまで提出しなかったのか、Yが訴訟において主張したものと同様の合理的な疑いを抱かざるを得ない。

(2) 小分けについて
 本件では、Yが甲や乙による使用については、転々流通する商標商品を取り扱う者に過ぎず、通常実施権者に当たらないと主張し、本件判決は、乙がXの商標商品を小分けしたとの事実も加えて通常実施権者であるとした。本件では、乙がXから米を購入したことに争いはなかったが、これが商標商品であったとの認定がなかったため、乙による商標使用を証明することが必要となった。そのため、乙が商標商品をXから直接購入して販売したという形態とは異なる使用形態が求められた。本件判決は、これを乙による商標の貼付行為があったものと認定した。
 そして、この認定を可能にしたのが、上記で問題提起した写真のデジタルデータの記録であったことと併せると、Yには納得し難い結果となったものと推察する。


(掲載日 2022年5月9日)

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