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文献番号 2022WLJCC014
東京都立大学 名誉教授
前田 雅英
Ⅰ 判例のポイント
共犯の本質をめぐる共犯従属性説と共犯独立性説の争いは、刑法解釈論の中心論点であった。具体的には、例えば殺人を唆した場合に、正犯者が実行に着手しなくとも殺人教唆(未遂)の成立を認める独立性説と、それを否定する従属性説の対立である。しかし、このような議論は、「机上」のものにすぎない。なぜなら、司法統計によれば、教唆犯の有罪人員は、ほとんど存在しないからである(前田雅英『刑法総論講義〔第2版〕』(1994)434頁)。
教唆の実態は、最近ようやく学界でも共有されるようになってきた。松澤教授が「教唆犯の処罰は事実上消滅したといってよい」とされたことが大きかったが(松澤伸「教唆犯と共謀共同正犯の一考察―いわゆる「間接正犯と教唆犯の錯誤」を切り口として―」Law & Practice 4号(2010)99頁)、佐伯教授も「絶滅危惧種としての教唆犯」という論文を公表された(山口厚ほか編『西田典之先生献呈論文集』(2017)171頁。さらに、それに先行して1999年に大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法〔第2版〕第5巻』(445頁)でも指摘されていた)。現実の犯罪現象を踏まえた刑法解釈においては、教唆犯が現実の刑事司法の中で、ほとんど存在しないという事実は、「教唆の処罰根拠論」はもとより、共謀共同正犯論をはじめとした共犯論全体にとって、非常に重要な前提事実である。
しかも、教唆犯は、少ないのみならず、特定の犯罪に限られている。本件最高裁判例が対象とした犯人隠避罪や証拠隠滅罪が過半数を占めるのである。だから「絶滅危惧種」と呼ばれる面があるのだが、逆に、本決定(多数意見)の存在は、「教唆犯が絶滅しない理由」を示している。そこに、判例の「現実的共犯理解」の本音が読み取れるように思われる。
Ⅱ 事実の概要
Ⅲ 判旨
最高裁は、弁護人の上告に対し、その趣意は単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらないとし、上告を棄却した。
そして「なお、犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは、刑法103条の罪の教唆犯が成立すると解するのが相当である(最高裁昭和35年(あ)第98号同年7月18日第二小法廷決定・刑集14巻9号1189頁参照)。被告人について同条の罪の教唆犯の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当である」と判示した。
これに対して、以下の山口裁判官の反対意見が付されている。
「私は、被告人に犯人隠避・蔵匿罪の教唆犯の成立を認めることは相当でないと考える。
刑法103条は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者(以下「犯人」という。)が自ら行う蔵匿・隠避行為を処罰の対象としていない。それは、犯人が自ら逃げ隠れしても「蔵匿」したとはいわないし、「隠避させた」という要件は犯人隠避罪に該当する行為を行う者が犯人以外の者であることを前提としていると理解できるからである。このように、犯人による自己蔵匿・隠避行為は同条が定める構成要件に該当していない。この理由として、原判決のように、それらの行為も同条の規定が保護する刑事司法作用に侵害を与え得るものではあるものの、犯人の刑事手続における当事者性を考慮して政策的に処罰を限定したものであるなどと説明されることがあるが、このような処罰の政策的な限定を理論的に表現したものが、「犯人には期待可能性が認められない。」とする説明である。
当審判例は、犯人が他人を教唆して、自らを蔵匿・隠避させた場合は、処罰を限定する上記立法政策の射程外であり、教唆犯として処罰の対象となるとしてきた。
それを支える根拠・理由として幾つかのことが指摘されているが、犯人が一人で逃げ隠れするより、他人を巻き込んだ方が法益侵害性が高まるとの指摘がされることがある。このこと自体には理由があると考えられるが、他人の関与により高められた法益侵害性は、教唆された正犯者を処罰することによって対応し得るものであり、法益侵害性の高まりから犯人を教唆犯として処罰すべきことが直ちに導かれるわけではない。結局、正犯としてではなく、教唆者としては犯人を処罰の対象とし得ると解することは、「正犯としては処罰できないが、教唆犯としては処罰できる」ことを認めるものであり、この背後には、「正犯は罪を犯したことを理由として処罰され、教唆犯は犯罪者を生み出したことを理由として処罰される。」といういわゆる責任共犯論の考え方が含まれ、犯罪の成否を左右する極めて重要な意義がそれに与えられているように思われる。このような共犯理解は、他人を巻き込んだことを独自の犯罪性として捉え、正犯と教唆犯とで犯罪としての性格に重要な差異を認めるものであり、相当な理解とはいえないであろう。なぜなら、正犯も教唆犯も、犯罪結果(法益侵害)と因果性を持つがゆえに処罰されるという意味で同質の犯罪であると解されるからである。このような共犯理解によれば、正犯が処罰されないのに、それよりも因果性が間接的で弱く、それゆえ犯罪性が相対的に軽い関与形態である教唆犯は処罰されると解するのは背理であるといわざるを得ない。
以上から、私は、犯人による犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯の成立は否定されるべきだと考えるものである。」
Ⅳ コメント
(掲載日 2022年5月25日)