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第274号 フランチャイズ本部が加盟者との再契約を拒絶したところ、加盟者が、当該契約拒絶はやむを得ない事由を欠き無効であるとして、フランチャイズ契約上の地位の確認並びに損害賠償を請求した事案において、加盟者側の請求が棄却された事例 

~札幌地裁令和4年4月21日判決令3(ワ)1514号地位確認請求事件※1

文献番号 2022WLJCC026
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝

    1.事案の概要と争点
  1. (1) 本件は、持ち帰り弁当事業のフランチャイズ本部を営む被告との間でフランチャイズ加盟契約等を締結していた原告が、被告から上記フランチャイズ加盟契約等の期間満了後の再契約を拒絶されたことに関し、再契約の拒絶はやむを得ない事由を欠き無効であると主張した事案である。原告は、再契約拒絶の無効を理由として、被告に対しフランチャイズ加盟契約等に基づく契約上の地位の確認を求めるとともに、再契約の拒絶が債務不履行又は不法行為に当たるとして逸失利益及び慰謝料等の支払を求めた。
  2. (2) 本件の原告(加盟者)と被告(本部)との契約は、本部が加盟者に対して本部が有する店舗の経営を委託する「経営委託契約」を経た後に、「フランチャイズ加盟契約」及び「ユニットFC契約」を締結するというものであった。経営委託契約の契約期間は1年であり、フランチャイズ加盟契約及びユニットFC契約の契約期間は3年である。本件原告は、経営委託契約を3回、フランチャイズ加盟契約及びユニットFC契約を2回繰り返すことで9年以上対象店舗を経営していた。
     フランチャイズ加盟契約には自動更新条項は無く契約期間の満了とともに契約は終了するが、当事者が期間満了の3ヵ月前に改めて再契約を締結し再契約料を支払った場合に新たに期間3年間の加盟契約が成立することになっていた。
  3. (3) 原告と被告は、折込広告費用の負担について別訴訟(札幌地判令和4年1月20日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA01209006)で係争中であった。また、原告は被告の行為が独占禁止法に違反するとして公正取引委員会に対して申告するとともに、そのことについて記者会見も行っていた。そのため、フランチャイズ本部である被告は、原告の行為により当事者間の信頼関係が破綻されたとして再契約をせず、契約期間の満了をもって契約終了を主張し原告に対し本件店舗からの退去を求めた。
     その一方で、原告と被告の間では期間満了をもって契約が終了したことを確認する「確認書」が締結されている。この確認書を締結する際、原告側代理人弁護士は、原告の契約上の地位の確認を求める権利を放棄するものではないという通知を行い契約条項の修正を求めたが、被告側代理人弁護士は、確認書の修正を拒否している。
  4. (4) こうした経緯から、本件訴訟では、①原告は本件契約上の地位にあるか、②被告が原告との間で再契約をしなかったことが債務不履行又は不法行為となるか、③原告の受けた損害の額が争点となった。裁判所は①について原告の契約上の地位を否定したので、②③については判断していない。本稿では、本件における裁判所の判断について説明するとともに、過去の裁判例と比較しながら、フランチャイズ契約における本部からの再契約拒絶、更新拒絶について述べる。

    2.本件における裁判所の判断(期間満了をもって契約が終了したことを確認する「確認書」の効力)
  1. (1) 被告(本部)から確認書が交付された際、原告(加盟者)側代理人弁護士は、確認書に「契約上の地位の確認を求める権利を放棄するものではない」という文言を入れるようにと被告に要求した。しかし、被告側代理人弁護士はその要求を拒絶した。そうした状況の中で本件確認書は署名捺印された。
     裁判所は「本件確認書に原告の署名・押印があることに争いはないから、本件確認書は原告の意思に基づき作成されたものと推定される。・・・本件確認書には・・・本件契約が終了することを確認する旨の記載・・・及び本件店舗の経営につき、本件加盟契約に基づく再契約を締結しないことを確認する旨の記載・・・があるから、原告と被告は、上記各事項を合意したものと推定される。」と判断した。原告側代理人弁護士から被告に送られた通知については「原告代理人らが被告に対し、第1条及び第2条の削除や、文言の付加を求めたが、被告がこれら提案を受け入れなかったものと認められるから、原告が主張する上記留保が当事者間で合意がされたと認めることはできない。」と一蹴した。本件確認書は、当事者双方が法律専門家である弁護士を代理人として交渉したうえで締結されているので、裁判所の判断は当然といえよう。原告は確認書の締結について心裡留保や錯誤取消しも合わせて主張したが、同様に心裡留保も錯誤も認められなかった。
  2. (2) 多くの継続的契約では自動更新条項が置かれているが、自動更新条項を置かず、期間満了をもって契約は終了し、継続するためには新たに契約を締結する(再契約)ことを条件とする契約例も少なくない。更新契約書が締結されないと更新契約の成立を認めないという契約例も同様といえる。
     過去の裁判例では、ファミリーレストラン・チェーンの社員独立フランチャイズ契約において契約を更新するためには当事者の協議を経ることが必要であると明記されていたところ、直近の更新契約において今後の更新は無く契約を継続するためには再契約が必要であるとされていた事案で、再契約が締結されない限り契約は終了するとしたものがある(東京地判平成27年3月26日WestlawJapan文献番号2015WLJPCA03268037)。
     この事案では店舗設備や備品が本部に帰属し、加盟者は実質的に本部から直営店の運営委託を受けるような関係であった。当然、店舗規模に比較して加盟者の初期投資は少なかった。本件でも加盟者は本部から店舗経営の委託を受けて開業しているので、前掲東京地裁の事案と同様の状況にあったといえる。その意味で、加盟者側の初期投資が少なかったり、店舗資産が本部に帰属しているような場合は、加盟者側の投資回収期間を確保する必要性は高くないので、フランチャイズ契約書やフランチャイズ契約終了時に締結される合意書(更新合意書や本件の確認書)の文言通りに契約終了時期が判断されるといえる。

    3.フランチャイズ契約における本部の更新拒絶
  1. (1) 近年、フランチャイズ契約における本部の更新拒絶について着目すべき裁判例が出ている(東京地判令和3年3月2日WestlawJapan文献番号2021WLJPCA03028001。若松亮・WLJ判例コラム244号(2021WLJCC023))。
     この事案でも本部からの更新拒絶が問題となったが、この事案のフランチャイズ契約書には「本契約の有効期間は、・・・5年間とする。更新については、契約期間満了の6ヶ月前に被告、原告または被告原告双方より、契約解除、終了の意思表示がない場合は本契約と同内容で5年間自動更新する。」と書かれていた。東京地裁は「このような更新に関する規定に照らすと、a契約は、所定の期間より前に更新拒絶の意思表示がされ、予定されていた契約期間が満了することにより、原則として終了するものとされていることは明らかである。」としたうえで、「しかしながら、一般的に、フランチャイズ契約においては、長期間にわたり取引関係を継続することが当初から予定されており、契約当事者もこれに基づいて人的物的に多大な投資を重ねて、共同して事業を展開するのが通常であり、このような契約においては、所定の契約期間が満了するに当たり更新拒絶の意思表示がされた場合であっても、当事者の投資等を保護し、継続的に事業を展開することに対する期待についても一定の法的保護を図ることを要すると解すべきである。」と例外的に修正される場面があるとした。そのうえで、「上記規定の文字通り更新拒絶の意思表示と期間の満了により当然に契約関係が終了するのではなく、信義則による一定の制約があると解すべきであり、これを原告が主張するようなやむを得ない事由がある場合に限るとするかは措くとしても、①更新に関する約定の内容、②従前の更新の経緯、③契約の目的内容と実情、④更新拒絶の経緯と理由、⑤その他の諸事情を総合的に考慮して、信義則上の相当性の観点からこれを判断するのが相当である。」と判示した。
  2. (2) すなわち、東京地裁は、フランチャイズ契約の有効期間については、本部の更新拒絶により所定の契約期間経過とともに終了するとしたうえで、例外的に当事者の投資保護や継続的事業展開への期待などの観点から信義則による一定の制約を認めるとした。この事案でも、加盟者の投下資本は低額であり、投下資本の回収を終えていたため、結果的に信義則による修正はなく、フランチャイズ契約は本部の更新拒絶により終了することとなった。

    4.フランチャイズ契約における更新拒絶・再契約拒絶
  1. (1) 本判決と前掲東京地判平成27年3月26日、東京地判令和3年3月2日とを並べると、フランチャイズ契約における更新拒絶・再契約拒絶における下級審判決の傾向は以下のようにまとめることができる。
     裁判所としては、①まずは契約条項の文言を尊重しつつ、②契約期間満了時の当事者の交渉経緯を踏まえ、③例外的に信義則により修正・制限するという判断プロセスを取っている。そして、③の信義則の判断要素としては、加盟者の初期投資の額、投下資本回収の程度、更新拒絶・再契約拒絶に至る経緯(信頼関係を破壊する事情があるか)等から判断している。特に、加盟者側と比較して本部側の投資額が大きかったり、店舗資産が本部に帰属している場合は、契約条項の形式文言が優先される傾向があるといえよう。
  2. (2) 更新拒絶についての過去の裁判例では、当事者の公平の観点から、契約を継続し難いやむを得ざる事由がない限り契約更新が原則であると判断したものもある(名古屋地判平成2年8月31日判時1377-90、WestlawJapan文献番号1990WLJPCA08310005)。フランチャイズ・ビジネスでは加盟者は独立した事業者として初期投資全額を負担するのが原則なので、裁判所としても加盟者の投資回収の利益を最大限保護しようとしていた。
     しかし、コンビニエンスストアFC契約のCタイプ(本部が店舗を準備して加盟者に運営委託をする形態)や社員独立フランチャイズにおいて直営店の運営を委託するような場合は、本部の投資額が加盟者を大きく上回る例が多い。通常のフランチャイズでも本部が店舗を賃借して加盟者に転貸する例や直営店を譲渡する例が増えてきた。そうしたビジネス形態では加盟者側の初期投資は比較的抑えられている。
     このように、現在のフランチャイズ・ビジネスではフランチャイズ事業への投資のバリエーションも様々である。本部も加盟者も、契約期間満了時の更新や再契約にかかる条項が自社のフランチャイズ・ビジネスの実態や投資回収計画に沿うか否かを慎重に検討する必要があるといえよう。


(掲載日 2022年10月24日)

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