閉じる
判例コラム
(旧)コラム

 

第10回 香りは著作物として保護されるか

おおとり総合法律事務所弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 昇治

2006年2月初旬、わが国の新聞各社は衝撃的なニュースを伝えた。フランスの大手の化粧品メーカーであるロレアル社がベルギーに本社を有するベリュールNV社に対して、同じ成分を使用して別の商品名で販売していたことについて、損害賠償と商品の廃棄を求めていた事件で、2006年1月25日パリ控訴院は、香水・芳香そのものに著作権を認め、原審のパリ大審裁判所2004年5月26日の一部認容判決を支持して、ロレアル社の請求を認めたのである(実は、パリ商事裁判所が既に1999年9月24日判決で認めていた)。

香りを精神の創作物として著作権の保護対象として認めたパリ控訴院の判決は、さらに破毀院による別の事件に対する2006年6月25日判決理由において、肯定されたのである。すなわち、「ノウハウの単なる応用の先行した香水の芳香は、著作権による思想の保護を享受しうる表現形式を構成するものでない。しかし、知的な創作物である香水の芳香は、それが独創的であるとの留保のもとで、著作権により保護される精神の著作物と考えられる」と判示されたのである(矢澤「香りは著作物として保護されるか」『専修ロージャーナル』2号(2007)137頁以下)。

専門職大学院形成支援プロジェクト『知的財産に関する映像教材の開発』で、「知財権をめぐる国際紛争」を担当した当職は、フランスをはじめEU諸国の知財権の保護の対象が新たな方向に歩みつつあることをここに確信したのである。それは、フラグランス(香粧品香料)である香水や化粧品にとどまらず、食品香料たるフレーバーについても同様である。フランスの判例が「香り」に著作権性を肯定したことは、香りに極めて敏感であり、強い関心を有するわが国の国民と産業界にとっても貴重な他山の石となるであろう。

香りの著作権性の肯定の延長上に考えることがある。知財権性が肯定される感覚は、視覚、聴覚そして嗅覚となった。あと、味覚と触覚がある。これら2つの感覚についても、早晩、著作権が認められることとなろう。終わりに、Pierre BREESE氏の「香りは、著作権により保護される精神の創作物を構成するか」と題する論説を読み返しながら、プレゼントとして戴いた香彩堂の「能香」(熊野)を焚いた。

(掲載日 2008年5月19日)

» 判例コラムアーカイブ一覧