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第11回 意思形成の準拠法?

徐宏昇律師事務所
弁護士 徐宏昇

渉外取引において、取引行為の法的効力は各国の「意思表示」に関する規定に左右されることがある。近日、台湾の最高裁判所が「RISOインク・カートリッジ事件」において示した見解は示唆に富むものであるので紹介したい。

「RISO」商標を台湾で登録した日本理想科学工業株式会社の台湾総代理店元茂社は、2001年、台湾法人仟堡企業公司が、回収した「RISO」ブランドのインク・カートリッジにメーカー不明のインクを充填して販売し、理想社の商標権を侵害していたことを知った。そこで、元茂社は理想社の取締役会長との間に、仟堡社に対する商標権侵害の「損害賠償請求権」を2500万台湾元以内で元茂社に譲渡する旨の「損害賠償請求権譲渡契約」を締結し、契約に基づいて訴訟を提起して仟堡社に対して損害賠償を請求した。

控訴審において、台湾高等裁判所は以下の見解を示して同社の請求を棄却した。すなわち、本件契約によれば、当該契約の準拠法は台湾法である。台湾の会社法第202条規定によれば、本件のように、2500万元の債権を譲渡する場合には、取締役会の同意を得なければならず、取締役会長の決定事項に該当しない。原告が理想社取締役会が当該契約に同意したことを証明できないため、契約は無効である。(台湾高等裁判所2007年10月16日 2006‐42号判決)。元茂社は最高裁判所に上告した。

台湾最高裁判所は以下の見解を示して、高等裁判所の判決を破棄した。すなわち、本件契約の準拠法は、契約をめぐる紛争が発生した場合、台湾法に基づいて解決することについての合意である。理想社が本件損害賠償請求権を元茂社に譲渡する、という決定をしたのは、契約締結前であるため、本件損害賠償請求権を元茂社に譲渡するという決定の過程は本件契約の規定事項に該当しない。たとえ理想社の決定過程が台湾法上の手続規定に適合しなくても、依然として有効である。(台湾最高裁判所2008年1月31日2008‐189号判決)

本件において、台湾高等裁判所はいわゆる「意思の形成」を「契約」と性質決定し、契約の準拠法である台湾法によるとしたのに対して、台湾最高裁判所はこれを「過程」と性質決定し、行為地法である日本法を準拠法とする立場を示した。本件最高裁判決の背後には、知的財産権の権利者に不要な負担をかけない政策があろう。

(掲載日 2008年5月26日)

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