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判例コラム
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第24回 キャリフォーニア州同性婚容認判決

中央大学法学部教授
井上 彰

2008年5月15日キャリフォーニア州最高裁判所は、「男と女の婚姻のみが有効である」と規定して同性婚を禁じる家族法典の条項を、州憲法の平等保護条項に違反し無効であるとする判決を下した。そして、同州では6月16日から同性のカップルに対し婚姻許可証の発行がおこなわれるようになった。同性のカップルに対する婚姻許可証の発行は、マサチューセッツ州では2004年5月からおこなわれていたが、同州では州外のカップルにはその発行はおこなわれていなかった。これに対し、キャリフォーニア州では州外のカップルにも発行されることになったために、多数のカップルが同州に押し寄せるものと予想されている。一説では、その経済効果は、680億円にのぼると試算されている。

さて、キャリフォーニア州最高裁判所は、まず州憲法によって保護される婚姻する権利について、自分の選択した人と法的に承認された永続的家族関係をつくる個人に与えられる基本的権利であると定義する。その上で、生殖と子の養育のための安定した環境の提供が、婚姻制度の重要な目的のひとつであるとしながらも、現実には子供をつくらない、つくれないカップルがいることを考えれば、これを唯一の目的ということはできず、愛する者との結合による個人生活の充実も婚姻制度の重要な目的であるとする。そして、近年の同性愛に対する理解の深まりを考慮し、そのような利益は同性のカップルにも保障されるべきであるとしたのである。しかし、その一方で、同性のカップルには、既にdomestic partnershipの名の下に婚姻したのと実質的に同等の権利と利益が与えられており、これでは不十分なのかが問題となった。この点について最高裁判所は、「婚姻」という名の付く関係は歴史的に社会によって無条件で受け入れられ、祝福されてきたのであって、domestic partnerの名は使えても、marriageの名は使えない同性のカップルは、 異性のカップルが受けるのと同等の尊敬と尊厳を受けられず、第二級の市民として扱われることになり、さらには、その子供にも悪影響を与えると述べ、「男と女の婚姻のみが有効である」とする規定は性的指向に基づく差別をおこなっており、平等保護条項に違反すると判示したのである。

ところで、本判決以前において、ヴァーモント州では、2000年にCivil Union法が制定され、同性のカップルにmarriageではないが、Civil Unionの名の下で婚姻したのと同等の権利と利益が与えられることになり、その後東部の3州がこの例にならっていた。また、これより少し前に、キャリフォーニア州でも、domestic partnershipの名の下に、最初はごく限られた権利と利益が、この判決当時には、婚姻したのと同等の権利と利益が同性のカップルにも与えられるようになっていた。したがって、同性婚が容認されるにしても、Civil Union法の方向に進むものと思われていた。本件判決は、marriageという名を使わせないこと自体が憲法違反になるとした点で画期的なものであり、Civil Union法成立後一時下火となっていた同性婚自体を認めさせる運動に再び火をつけることになるかもしれない。

最後に、キャリフォーニア州自体に目を向ければ、既に本件判決に反対する運動も始まっている。今回の判決を受けて、今度は他のいくつかの州でみられるように、州憲法の改正によって同性婚を禁じる住民運動が開始されている。そして、その運動は秋の大統領選挙の際にその住民投票をおこなうことを目標としており、しばらくはキャリフォーニア州から目が離せないように思われる。

(掲載日 2008年8月25日)

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