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判例コラム
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第33回 薬剤師弁理士を意識した時

高島国際特許事務所※1
所長・弁理士 高島 一

日頃、弁理士業に専念していると、薬剤師であることを意識することはない。私は調剤を一度も経験したことのないペーパー薬剤師であるが、先日ほんの少し薬剤師弁理士を実感することがあった。

先日、処方箋を持って調剤薬局へ行ったところ、薬剤師にジェネリック医薬を薦められた。価格は処方された先発医薬の3分の1で、成分は新薬メーカーの先発医薬と同じであり、効果も全く同じだというのが主たる説明である。特に気になったのは「成分は先発医薬と同じである」という点である。「同一なのは薬効成分であり、製剤全体の成分は違うはず」と説明しても理解してもらえない。それ以上の追求はしなかった。

薬剤師が係わる薬事法上、成分が同じなどという制限はなされていない。また、弁理士の目から見ると、製剤全体としては成分が違うからこそ、先発医薬vs.ジェネリック医薬の特許権侵害訴訟を経て、先発医薬の特許切れと同時にジェネリック医薬を上市することができることになったのに、という思いが頭中を巡った。その訴訟というのは次の通りのものである。

ジェネリック医薬は、安定性と先発医薬との生物学的同等性の試験をし、厚労省の承認(3~4年を要する)を得ないと上市することができない。先発医薬の特許切れと同時に上市するためには、先発の特許権存続中に、上記の試験を行い、厚労省の承認を得ておく必要がある。ところが、特許権の存続中にこれらの試験を行うことは、単純に考えれば特許権の侵害にあたる。

私共は、たまたまジェネリック医薬を上市した新薬メーカー(この事件ではジェネリック)側の弁理士としてこの事件を扱った。この事件では、ジェネリックが行う上記試験行為が特許法第69条に規定する特許権の効力の及ばない「試験研究」に該当するとの主張の下に最高裁でも勝訴したのであり、この背景の下に、ジェネリックは特許切れと同時に上市できることになったのである。
私にジェネリック医薬を勧めた薬剤師は、風変わりな奴として私を見ただろうが、私にとっては、弁理士兼薬剤師を実感した時であった。

(掲載日 2008年10月27日)

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