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青山学院大学法務研究科(法科大学院)教授
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士 浜辺 陽一郎
株式会社が決算公告を怠った場合には100万円の過料の対象となる(会社法976条2号)。このルールは、現在どれくらい守られているのであろうか。最近もある事件で相手方の関連会社を調べてみたら、ほとんどの会社が、株式会社であるのに決算公告をしていなかった。
会社法においては最低資本金制度が廃止され、それでも「株式会社」のブランドを使って有限責任等の特典を享受しながら事業活動ができる。会社法では、株式会社の徹底的な自由化・柔軟化が図られたわけだが、その代わりに、決算公告くらいは、「株式会社」の信用を示す最低限度の基本情報として、これくらいは開示してもらいたいということであったはずである。
かつて、国会における会社法制定に向けた審議の過程で、当時の法務大臣は、決算公告義務違反があった場合の取り扱いに関する質問に対して、こう答えていた。
「直ちに決算公告義務違反があれば必ず罰則を掛けるとの扱いをすることは関係者に無用の混乱を生ぜしめるおそれがあると、必ずしも適切ではないというふうに考えますけれども、したがいまして、まずは関係者が決算公告の重要性に対する認識を深めて、各会社が自発的にこれを行うような環境をつくることに努め、その後の状況に応じて決算公告義務を怠る者に対して過料規定の実効性の確保も含めて適切な措置をとるように図ってまいりたいというふうに現時点で考えております」(平成17年6月14日)
さて、会社法が施行されて4年が経過した。
当時、「決算公告義務違反が見逃されなくなるかもしれないから、株式会社を選択するのであれば、決算公告をするように」などと、私もいろいろなところでコメントしていた。決算公告という形での情報開示はしたくないという非公開会社、閉鎖的会社の方たちに対しては、持分会社にする方法があることもアドバイスしていた。そのような議論は、どこへ行ってしまったのだろうか?
会社の業績が思わしくない昨今の状況では、悪い業績を表に出しにくいという中小企業の事情があるというのが、当局の考えなのかもしれない。しかし、会社の業績が良さそうな非公開会社でも、儲かっている実態を隠そうとしているのか、決算公告を行っていない会社が少なくない。税収が減っているというのであれば、こうしたところから多少なりともお金を集めてもいいのではないか。
ただ、会社の紛争に関わっている当事者の立場からすると、個別の会社が一体どちらの状況なのかはっきりしないから、決算公告をチェックしたいということがある。そういう微妙な状況で、限られた会社のお金を当局と債権者的な立場にある当事者とでは、競合する関係にある。そのため、おいそれと「過料を取れ」などということはできない。そんなことをしたら、相手の会社から債権回収をすることが困難になってしまうかもしれないからだ。
また、依頼者の中には非公開会社もあるので、「そんなこと言わないでくださいよ」という向きもあるだろう。そういう意味では、まったく空気を読まないで敢えて取り上げているのだが、コンプライアンスというのであれば、これはしっかりとやるべきことであるはずだ。株式会社なのに、決算公告さえもなされていないというのは、基本的に話が違うのである。
公開会社法の議論が始まっている。公開会社もいいけれども、まずは、現行の会社法の遵守すべきルールを、まずは実行してもらうことが先ではないだろうか。
(掲載日 2010年4月19日)