第124回 無効審判における「予告審決」の導入

TMI 総合法律事務所
弁理士 佐藤 睦

近年、特許庁において、特許権の有効活用の促進及び特許権に基づく紛争の早期解決を目指して、無効審判の審理の迅速化を図るべく、口頭審理を積極的に活用するなど、様々な施策が講じられてきた。このような特許庁の努力により、裁判所における特許権侵害訴訟と同時係属する無効審判の平均審理期間は、2000年には19ヶ月を要していたものが、2009年には8.8ヶ月にまで短縮された。経験上も、侵害訴訟において特許無効の抗弁を出し尽くした後に特許庁に対して無効審判を請求したとしても、無効審判の審決の方が、侵害訴訟の結審よりも早期になされることが多いように思える。

その一方で、無効審判の審決に対する取消訴訟が提起されるとともに訂正審判が請求された場合には、いわゆる「キャッチボール現象」が原因で、訂正後の請求項についての審理が大幅に遅延するという問題が生じている。「キャッチボール現象」とは、審決取消訴訟の提起後90日以内に訂正審判が請求されると、審決取消訴訟は知財高裁に一旦は係属するものの、知財高裁において実体的な審理がなされないまま取消決定がなされ、その結果、無効審判が特許庁に差し戻され、訂正後の請求項についての実体審理が特許庁においてなされるという現象である。

「キャッチボール現象」による手続の遅延は著しい。審決が送達されてから訂正後の請求項についての実体審理が特許庁において開始されるまでの平均期間は、特許権者が国内居住者である場合は145.4日(約4.8ヶ月)、在外者である場合には230.4日(約7.6ヶ月)にもなる。

「キャッチボール現象」が起こる要因は、経験上、無効審判において訂正請求をできるタイミングが制限されていることにあるように思える。すなわち、無効審判では、訂正請求ができるタイミングは、事実上、答弁書の提出期間に限られてしまうことが多い※1。しかし、訂正請求は、訂正前における特許が無効であることを半ば認めてしまうような手続であるため、答弁書提出時のような早期の段階で訂正請求を決断することは、実務上、難しいことが多い。そうすると、答弁書の提出時には、よほど厳しい無効理由が主張されない限り、ひとまず訂正請求せずに進めるという判断がなされる傾向にあり、その結果、無効審決がなされる可能性が高まり、ひいては、「キャッチボール現象」が起こることにつながっているように思う。

かかる問題を解決するため、特許庁において、「予告審決」を導入することが検討されている。具体的には、無効審判において、審決をするのに熟したと判断されたときに、審判合議体が当事者に心証を開示し(予告審決)、特許権者はこれを踏まえて訂正請求ができるという手続である。つまり、特許権者は、審決取消訴訟を提起せずとも、無効審判において無効理由につき十分な議論がなされた後に、訂正請求すべきかどうかを判断する機会を得ることとなる。

「予告審決」の導入には、議論すべき問題点が残っており、実際に法改正に至るかどうかはまだ分からない。また、実務上、「キャッチボール現象」によって審決の確定を遅延できることにメリットがある場合があることも否めない。しかし、知的財産権が重要視される中、日々、特許紛争業務に関わっていていると、「キャッチボール現象」を始めとする、様々な手続上の問題点を解消し、特許権者が権利行使をし易い環境を整えることが、特許法の目的である産業の発達につながるのではないかと感じる。

 

  • 答弁書の提出期間(特許法134条の2第1項)以外にも、いわゆる無効理由通知に対する意見書の提出期間(同153条2項)等があるが、事実上、答弁書提出期間に限られるケースが多い。

(掲載日 2010年10月18日)

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